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041_恋愛(運命を味方に)獣人と人間、2757字

「あ、見つけた」


 全身を身震いさせる。

 お婆さまが言っていた通り。魂が力いっぱい叫んでいる。

 間違いない、あの子が私の運命の(つがい)だ。


 (……でも、困ったな。)


 相手は人間の男の子。

 人間の彼には、獣人のような鋭い嗅覚も、魂の響きを聴き取る野生の勘もない。だから、私が目の前を通り過ぎても「あ、可愛い獣人の女の子がいるな」くらいにしか思っていないみたい。

 それどころか、視線すら合わずに通り過ぎようとしている。


 さぁ、どうしよう。

 このまま指をくわえて見てるだけなんて、山猫獣人の名がすたる。


(……ん? あの格好、腰に下げたギルドのプレート……そうか、彼は冒険者なのね)


 だったら話は早い。私も冒険者になろう!

 幸い、身体能力と野生の勘だけは人一倍自信があるし、あの子のそばに行く大義名分としては最高だ。まずはギルドに駆け込んで登録して、なんとかして彼とパーティを組まなくちゃ。

 だけど、パーティを組めたとして……そこからが問題よね。

 人間の男の子って、一体どういう女の子が好きなのかしら?

 私たち獣人なら「狩りが上手い」とか「毛並みがいい」とか「強い子供が産めそう」とか、それで一発なんだけど、人間はそうじゃないって聞くし。


「あ、そうだ。人間は『料理ができる女の子』に弱いって、前に酒場の人間が話してたっけ……」


 料理、かぁ。

 お肉を豪快に丸焼きにするのじゃダメなのかな?

 人間って私たちと味の好みが何か違うのかしら。スパイスとか、お野菜の飾り切りとか、そういう細かい工夫が必要なのかも。


「……よし、後でお婆さまに人間の落とし方と一緒に、美味しい人間の料理の味付けについて聞いてみよう」


 待っててね、私の運命。

 まずは胃袋と、それからパーティの安全をがっちり掴んであげるんだから!



「はい、アル! 今日は特性の『オーク肉のハーブ煮込み』だよ!」

「うわ、美味そう! …っていうかココア、本当にいつも器用だよな」

 冒険者ギルドに登録して半年。

 私は狙い通り、運命の番であるアルのパーティに潜り込むことに成功していた。

 お婆さまに泣きついて習った人間の料理は大好評。戦闘になれば、自慢の俊敏さで彼をサポートする。我ながら完璧な押し掛け女房(仮)だ。

 …なのに。

「お前みたいな凄腕のスカウトが相棒で、俺は果報者だな!」

「……どういたしまして(違う、そうじゃないの、アル…!)」

 彼は私を「最高の相棒」として信頼しきっている。人間の男の子って、どうしてこうも鈍感なのかしら。

 私が彼を見つめる視線に、野生の独占欲がどれだけ混ざっているか、彼はこれっぽっちも気づいていなかった。


 でもアルは優しくて、私がうっかり尻尾をパタパタさせちゃうと「可愛いな」って撫でてくれる。もうこれ、実質プロポーズじゃない!?……なんて自惚れていた私に、最大の試練が訪れた。


「アル〜! 今回の魔物討伐、私も手伝うわ! だって私たち、幼馴染でしょう?」


 突如現れたのは、人間の魔術師の女の子マリ。スタイル抜群で、アルとの思い出話をこれでもかと見せつけてくる。

『幼馴染』ってなに!? 獣人の世界にはそんなまどろっこしい関係ないわよ!

 アルがマリと親しげに話すたび、胸がギューッと痛む。

「私の方が、アルの運命の相手なのに……」

 言葉にできない焦りと嫉妬で、私の耳はペタンと伏せりがちになってしまった。



 そんなある日、高難度の討伐クエストで、私たちは強力な魔物の奇襲を受けた。

 連携が崩れ、迫り来る魔物の爪が――マリへと向かう。


「危ないっ!!」


 体が勝手に動いていた。

 私は彼女を突き飛ばし、代わりに魔物の攻撃をその身に受ける。鋭い痛みが走り、視界がぐにゃりと歪んだ。


「ココア――っ!!」


 アルの、あんなに悲痛な叫び声を聞いたのは初めてだった。

 アルは魔物を一刀両断すると、私の元へ駆けつけ私を抱きしめた。


「嫌だ、ココア、目を覚ましてくれ! 頼むから……!」

「う、ん……アル、泣かないで……。私、あなたに、悲しんでほしくないの……」

「どうしてそこまで……っ。俺、お前に何も返せてないのに!」


 血の匂いと死の恐怖の中で、私の本能が覚悟を決めた。もう、隠しておけない。


「……だって、私、獣人だもん。アルは、私の『運命の番』なんだよ……。アルが気付かなくても、私はずっと、あなたが大好きなの……」


 私の告白に、アルは目を見開いた。

 そして、涙をボロボロとこぼしながら、私の額に自分の額をぴったりと合わせた。


「バカ、気付いてないわけないだろ……! 番とか、種族とか関係ない! 俺だって、ココアが好きなんだから。だから、死ぬなんて絶対に許さない!」


 アルの強い想いが伝わってきた瞬間、不思議な光が私たちを包んだ。……って、これ、お婆さまが言ってた「番の絆が人間に繋がった奇跡」の光じゃない!?


 そう思っていたら、

「ごごあじなないで~~~~」

 号泣しながらマリが全力で凄まじい上級回復魔法をかけてくれてました。

 おかげで跡もなく綺麗に治りました(笑)


 ――――――――――――――――――――――――――――――――


 数年後。

 私たちは冒険者を引退し、静かな開拓村で小さな食堂を開いた。

 もちろん、看板料理はかつてアルの胃袋を掴んだハーブ煮込みだ。


「ココア、あまり無理するなよ? ほら、座ってて」

「もう、アルは心配性だなぁ。まだお腹もそんなに大きくないのに」


 私の大きなお腹を、アルが愛おしそうに撫でる。

 そこには、私たちの愛の結晶が眠っている。


「アル、お腹の子、さっきから元気にポコポコ動いてるの。……あ、今、耳がピコって動いた気がする」

「本当!?ココアに似た、可愛い耳だといいな」


 アルは愛おしそうに微笑んで、私のお腹に優しくキスをした。

 言葉も通じない、本能も違った人間と獣人。

 だけど、紡いだ絆は本物。これから生まれてくる小さな宝物と一緒に、私たちはきっと、世界一幸せな家族になるわ。




【ちょっとした後日談】

  命を救ってくれたマリにお礼がしたくて話を聞いたら、なんと彼女、別の街にいるオオカミ族の戦士のことが好きだけど、種族の違いに悩んでいたみたい。


 「それ、完全に『番』の反応じゃない!?」って気づいた私は、回復の恩返しに大張り切り!


  オオカミ族について調べて、アプローチ方法やお婆さま直伝の秘策を全部伝授して、二人が無事に結ばれるよう全力で応援してあげた。


 今では彼女もその彼とラブラブで、私の一番の親友よ!


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