004_恋愛(どうぞご自由に)政略結婚、再婚約、令嬢の本音、2572字
「……というわけですので、お父様。ダグラス様には私と結婚する意思がおありにならないようです。この縁談、一度白紙に戻していただけないでしょうか」
お父様の前では、これ以上ないくらい凛とした「お淑やかな伯爵令嬢」を演じてみせた。だけど内心はもう、怒りを通り越して乾いた笑いしか出てこない。
結婚するんなら、愛し愛されおしどり夫婦になって~なんて言わないけど、それなりの信頼関係は築いておきたいわよね。
だから結婚までのこの1年、最低でも週1位で交流しておきたいなー。
なんて思っていた時が、私にもありました。
なんなのあいつ。この婚約どう思ってるの?
私があいつのこと好きで結婚するんじゃないのよ? 政略よ、せ・い・りゃ・く!
なにが「結婚したら自由がなくなる。今のうちに遊んでおかないと!」よ。そういうやつに限って、結婚後も遊び歩くのよね!
数週間前から約束していたお茶会も、楽しみにしていた観劇も、男友達から「今から街に遊びに行こうぜ」って誘われただけで、私を一人残して「じゃ、悪い!」ってすっ飛んでいくし。
そりゃぁはじめはね、男の人のそういう遊びたい気持ちも分からなくはないかな、なんて仏の心でスルーしてあげてたけどさ。限度ってものがあるでしょ。家格下って言っても伯爵家よ。うちのこと舐めてるの?
そんなわけで向こうの家にクレーム入れてもらったら、あちらの侯爵様激怒してダグラスを即座に呼び出し、盛大に雷を落としたらしいの。ざまぁみろ、よね。
ところが、あの馬鹿は反省するどころか逆恨みして、次のお茶会に現れるなり私を睨みつけてきたのよ。
「おい、親父に告げ口したな!余計な真似を! お前がチクったせいで、俺がどれだけ怒られたか分かっているのか? 少し男友達を優先したくらいで、大袈裟なんだよ!」
……絶句。
もうね、呆れ果てて反論するエネルギーすら湧いてこないわ。
周りにメイドたちがいなかったらお茶ぶっかけてたと思うもの。
まぁ実際そんなことしたら私の名が傷つくわけで、どうせうちか向こうの使用人から報告されるんだし、私が動くまでもないでしょ。
ちょっと気持ち鎮めるため紅茶でも飲んどこう。あ、カモミール。うちの家もそれなりのものを使ってると思うんだけど、侯爵家のお茶って全然別格なのよね。さすがって感じだわ。
ふぅ。なにあいつ、鼻穴広げて。私が黙り込んだのを「言い負かしてやった」とでも思ってるのかしら。
本当に、救いようのないおめでたい頭ね。
ダグラスは気づいていなかったみたいだけど、後ろに控えていたお連れの従者から、すっごい冷たい視線を向けられてるのに。私が帰った後、説教コースなんじゃないかしら。
その優秀な従者様、事の一部始終をそのまま侯爵様にチク……ゲホン、ご報告してくださったみたいね。
「ダグラス様が一方的に、お茶会の席で罵声を浴びせておいででした。スーザン様は何も仰いませんでした」と。そりゃあもう、事実を淡々と。
その後はもう、さすが侯爵様、決断が早かったわ。
「人の心が読めぬ愚か者に、家督は継がせられない」ってことで、ダグラスは即座に廃嫡決定。
代わりに、若くして優秀と名高い侯爵様の甥のノートン様が養子に入って、私と再婚約することになったのよ。
で、このノートン様が、あの元婚約者とは正反対。誠実で聡明で本当に素敵な方だったの!
「スーザン嬢、愚弟のこれまでの非礼を深くお詫びします。これから貴女に尽くし、生涯をかけて幸せにすることを誓います」
そう言って、ノートン様は言葉通り、いつだって私を最優先にしてくれたのよ。
あんなゴミを引いた後にこんな極上の優しさに触れたら、そりゃあ恋に落ちるなって言う方が無理よね。私たちが愛を育むのに、時間は全くかからなかったわ。
そして迎えた、結婚式の日。
なぜか式場の控室に、実家で空気扱いされているはずのダグラスがいたのよ。しかも、なぜか自分が今日の主役……つまり新郎だと思い込んでいる顔で。おかげでテンション下がって緊張もほぐれたわ。
「ふん、まあ、スーザンともいろいろあったが、結局は俺と結婚できて嬉しいだろう。少しは優しくしてやるか」
寝言は寝て言えってこういうことよね。
ドヤ顔でバージンロードの前に立とうとしたあいつに、ノートン様が言ってくれたの。
「ダグラス、そこで何をしているんだ? 邪魔だから退いてくれ」
って、最高にゴージャスな婚礼衣装が似合っていて、すっごいかっこよかったわ。
でもそのあとあいつが
「は? 何いってるんだ、俺の結婚式だぞ? ノートン、お前こそ俺の晴れ舞台を祝いに来てくれたのか」
なんて頭お花畑なセリフ言うもんだから、周囲の空気が一瞬で氷点下まで下がっちゃって。
近くにいた侯爵様が、深ーい溜息をついてらっしゃったもの。
「……ダグラス。お前、本当に何を言っているんだ?」
「え? いや、父上、俺とスーザンの結婚式でしょ?」
私含め、あの場にいた全員、みんなあいつに冷たい視線向けたのも仕方ないわよね。
「ダグラス様、あなたとの婚約はとうの昔に破棄されています。今日の新郎、私の結婚相手はノートン様ですよ」
私がにこりともせず言ってやったら、あの男 慌てて自分の男友達に助けを求めるように目をやってたけど、今回の件は王都じゃ有名な話だもの、彼らも知ってて「お前廃嫡されて婚約も解消されただろ……」「正気か?」って、憐れみの目を向けられてたわ。
でも、それで、やっと、ようやく自分の置かれた状況を理解したみたい。遅すぎよね。
式でなんかされても怖いし、警備員に壁際で拘束してもらったわ。まぁ一応まだ侯爵家の人間ではあるもの。おとなしくしてくれてるのであれば、ただの参列者として、いても問題ないと思って。
あいつの目の前で、かつて自分を健気に待っていた(過去形ね!)美しい私が、自分より遥かに立派で格好いいノートン様と、幸せいっぱいに見つめ合って誓いのキスを交わしてあげるの。
あいつ、どんな顔して見てるかしらね。
まあ、自業自得、因果応報って言葉を辞書で調べてから出直してきて欲しいわ!




