036_恋愛にならない(相棒)異世界転移、続かない1話目、2213字
鬱蒼と茂る巨大なシダ植物の影で、二人は最悪の出会いをはたした。
「……ちょっと、あんた誰? 近寄らないで。それ以上近づいたら通報するからね」
「はあ!? 誰がこんなジャングルでナンパするかよ! つーか、ここスマホの電波入んねえだろ!」
制服のブレザーを泥まみれにした女子高生 ハルと、学ランの袖をまくった男子高生 ダイ。
二人はまったく別の場所から、同時にこの見知らぬ世界へと放り出された、見ず知らずの赤の他人だった。
周囲に広がるのは、日本で見たことのない、ショッキングピンクの果実が実る怪しげな森。そして時折、遠くから聞こえる地響きのような何かの鳴き声。
「……ホントここ、どこだよ」
「知らない。でも、一つだけ確かなのは……」
ハルは自分の足元を指差した。そこには、彼女が転移してきた直後に脳内に流れ込んできた「システムメッセージ」が、半透明のウィンドウとして浮いていた。
【固有スキル:等価交換】
※所持品をこの世界の通貨や資源に変換、またはその逆が可能。
つられてダイも自分の前をのぞき込む。そこにも、青い光の文字があった。
【固有スキル:AIマップ】
※周囲10キロメートルの地形、生物、安全経路を脳内に図示する。
「はぁ……これが異世界転生ってやつ?」
ダイが呆然と呟くと、ハルは冷ややかな、しかし極めて現実的な目を彼に向けた。
「転生じゃなくて転移ね。で、あんたのそのスキル、ここから安全に出るのに役立つの?」
そこに甘いムードは1ミリもない。
それから3日が経過した。
普通のラノベなら、危機を乗り越えるうちに吊り橋効果でいい雰囲気になる頃合いだ。
しかし、この二人には微塵もその気配はなかった。
「おいハル、右から『角ウサギ』が3匹来てる。戦闘力は低いが群れると厄介だ。20メートル左の岩陰に隠れとけ」
「了解。あ、ダイ。木の実のストック切れるでしょ。さっき『等価交換』でリップクリームと交換した干し肉、半分あげるから持って」
「サンキュー。生き延びたら倍にして返すわ」
二人の関係は、恋愛というよりビジネスパートナーだった。
ダイ(斥候・ナビゲーター):
『AIマップ』で魔物の位置や水場を完璧に察知するが、戦闘力は一般男子高校生並み。ハルの物資補給がなければ初日に飢え死にしていた。
ハル(補給・サポーター):
『等価交換』でカバンの中のルーズリーフや消しゴムを、水やナイフに変換して生き延びているが、方向音痴。戦闘力皆無。ダイのナビがなければ今頃森で迷子になってる。
お互いに相手がタイプかどうかどうでもいい。ただ、「相手の死=自分の死」という絶対的な利害の一致だけで動いていた。
4日目の夕暮れ。ついに二人は森の出口、街道へと続く開けた丘にたどり着いた。
しかし、その行く手を遮るように、全長3メートルはある大トカゲが居座っている。
「どうする、ダイ。迂回する?」
「ダメだ。迂回ルートは崖崩れで通れない。あいつをどかすしかない。……ハル、さっき交換で手に入れた『爆裂石』、何個ある?」
「2個。これで私のスマホのモバイルバッテリー(残量5%)が消えたわ。絶対に無駄にしないで」
「任せろ。『AIマップ』であいつの弱点は見えてる。俺が誘導するから、お前はそこから投げろ」
「ちょっと、私 家庭科部なんだけど!」と文句を言いつつも、ハルは泥にまみれたスニーカーの紐を結び直し、爆裂石を構えた。
「行くぞ、3、2、1……今だ!」
ダイが石を投げてトカゲの注意を引いた瞬間、ハルが全力で爆裂石を投げつける。
トカゲの口元で大爆発が起き、轟音とともに巨体が崩れ落ちた。
「……やった?」
「やったな。よし、ルートクリアだ!」
二人はハイタッチを……しなかった。
すぐにトカゲの死体に駆け寄り、ハルは「これ、等価交換の素材にしたら何になるかな」と値踏みを始め、ダイは「おい、剥ぎ取るなら手伝うから、街に入ったら宿代は折半な」とナイフを手に解体を始めた。
丘の向こうに、中世ヨーロッパ風の街並みと、賑やかな人の営みが見えた。
ようやく安全圏にたどり着いたのだ。
「あーやっと人間らしい生活ができる……」
ハルが深いため息をつく。
「だな。まぁ、お前がいて助かったよ」
ダイが少し照れくさそうに頭を掻いた。少女漫画なら、ここで夕日をバックに見つめ合うシーンだ。
しかし、ハルは真顔で言い放った。
「お世辞はいいから。
街に着いたら、まず冒険者ギルドみたいなやつ探してよ。身分証明できるもの作らないと。それから素材売れるところ探して、お金出来たらいったん宿よね。お風呂あるかなぁー。
明日からはあんたのマップスキルが使えそうないいクエスト探して。私の等価交換と合わせれば、1年で一等地の一軒家位買えるわよ」
「おいおい、街に着いてもこき使う気かよ」
「当たり前でしょ。あんた、私を置いて一人で稼げると思ってんの?」
「……思えませんね。財布の管理は任せるわ」
ダイは苦笑し、ハルは不敵に笑った。
恋に落ちる気配は永遠に訪れそうにない。
けれど、異世界を誰よりも冷静に、そして淡々と攻略していくであろう最強の二人が、今、街へと歩き出した。
なんか1個能力もらって異世界転移っていうお題でした。一人だとどうにも回らなかったので二人になった。
『AIマップ』は例のあれ。あれは単純な地図って役割だけじゃなくてお店の情報とかメニューとか何がおいしいとか口コミ載ってるから、異世界においてはモンスターの弱点も分かるってことにした。




