035_not恋愛(救世のバケモノ)クラス転移、吸収、1305字
異世界に召喚された僕に与えられたのは、【吸収】というスキルだった。
鑑定で教えてもらったとき僕は、歓喜の声を上げた。
だってそれは、ネット小説でよくある、スライムとかが持っているやつだ。
倒した相手の能力を得る、まさに最強と呼ぶにふさわしいスキル。
そう思った。
だけど、そんなんじゃなかった。
僕の、この世界の【吸収】は、神の呪いとも言えるものだった。
剣も、魔法も、敵の肉体も、扉や壁さえも。
身体に触れるものすべてをドロドロに溶かして吸収し、自分の肉体のパーツとして文字通り「継ぎ接ぎ」していく異能。
魔王討伐に向けて数多くの戦いを終えた今、僕の右半身は黒い鱗に覆われ、左半身は獣のそれに置き換わり、左目は魔獣の眼になり、心臓は鈍く光る魔石に置き換わっていた。
「見ろ、あれが『救世のバケモノ』だ」
人々は僕に救われながらも、僕が近づくと怯えて道をあけた。
同じ日本から召喚された仲間たちさえも、僕の異形を直視できなくなっていった。
そして魔王城の最深部で、長い戦闘の末、とうとう魔王を倒した。
城を維持していた魔王の魔力供給が途絶え、建物が崩壊を始める。
そこかしこで崩れ落ちる天井。
仲間たちはみな満身創痍で、その場から立ち上がれずにいる。
僕の体は、すでに魔王の放った瘴気を吸い上げすぎて、自己崩壊の直前だった。
意識が混濁し、指先から皮膚がボロボロと剥がれ落ち、落ちたそれは泥へと戻っていく。
「おい、ワタル、早くこっちに来い! 一緒に帰るんだろ!?」
かつての友が、泣きそうな顔で叫ぶ。
でも、僕がその手を握れば、今の僕は、彼を溶かしてしまうだろう。
僕は、自分の胸に右手を突き立てた。
ドロドロと溶け出す魔石の心臓を強引に引きずり出し、それを残された最後の力で吸収し、自分の肉体を再構築する。仲間たちを崩落から守り抜く、結界に。
「なにしてるんだよ! お前、それじゃあ……!」
視界が真っ暗になっていく。手足の感覚はもうない。
ただの黒い泥の塊へと変わっていく恐怖の中で、僕は必死に、まだ辛うじて動く人間の唇を動かした。
「せめて、最後は、人として死にたい」
バケモノとして戦わされ、バケモノとして恐れられた。
だけど、今、友を救うために命を投げ出すこの意志は、バケモノのものではない。
僕が僕であるための、人間としての最後のワガママだった。
轟音と共に城が完全に崩壊した。
すべての音が消えたあと、仲間の肉体で造られた結界に守られた俺たちは、恐る恐る目を開けた。
そこには、魔王城も、恐ろしい怪物も、残っていなかった。
ただ、崩れた瓦礫の真ん中にぽつんと、
かつて俺らが日本にいた頃と全く変わらない、ただの「人間の少年」の姿をした、穏やかに眠るクラスメイトの遺体だけが残されていた。
神の呪いが解け、最後に世界が彼の願いを叶えたのだ。
俺らはその場に泣き崩れ、そして誓った。
世界を救った「一人の人間」の物語を、正しく後世に語り継ぐことを。
クラス召喚って勇者の代わりに泥被る人もいるよなーって思って泥吸収する人にしようと思ってかいた。




