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026_恋愛未満(命の糧は)元聖女、元騎士、737字


 王都の片隅にある、魔力草が優しく香る小さな調薬店。

 かつて聖女としての力を使い果たし、帝国を追われた私は、今ここで静かに暮らしている。


「エリー、依頼から戻った。問題はないか?」


 店の重い扉を開けて入ってきたのはカルヴァンだった。元・帝国騎士団長であり、今は私の護衛兼助手をしてくれている。彼はその大きな体に似合わないほど過保護に、私の顔を覗き込んでくる。


「おかえりなさい、カルヴァン。私はただ店番をしていただけだから、怪我をする要素なんてないわよ」


 私が苦笑すると、カルヴァンはほっとしたように表情をゆるめた。そして、懐からきれいに包まれた街で人気の焼き菓子を取り出し、私に差し出す。


「お土産。……いつも頑張っているからな」


「わぁ、ありがとう! ここのお菓子、ずっと食べてみたかったの!」


 私がぱっと笑顔になると、カルヴァンは少し照れくさそうに視線を外した。その耳はほんのり赤くなっていた。



 すべてを失ったあの日、私に差し伸べられたのが彼の手だった。

 聖女としての栄華も、人々からの賞賛も、今の私にはもうない。時折、過去の裏切りを思い出して胸が痛む夜もあるけれど。


 でも、今、自分を心から大切にしてくれる人が隣にいて、笑い合え、温かいスープと彼が買ってきてくれた美味しいお菓子がある。


 ―― 今は、それを糧に生きて行けている

    そしてきっと、これからも


「ねえ、カルヴァン。お茶を淹れるから、一緒に食べましょう?」


「ああ。お前の淹れるお茶が、世界で一番好きだ」


 かつての輝かしい台座よりも、今のささやかで愛おしい日々が何よりも大切だ。

 私たちの未来を祝福するように、窓辺の魔力草が柔らかな光を放っていた。


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