025_not恋愛(最高の復讐を)【グロ注意】悪役令嬢、復讐、これはバッドエンドではない、2305字
【注】グロ注意!!
学園に一人の男爵令嬢が現れた。
彼女は「魅了スキル」の持ち主だった。王太子であるアルベルト様やその側近たちは、蜘蛛の巣に引っかかった羽虫のように、あっけなく彼女の虜になっていった。
当然、その噂は王宮にも届く。しかし、王妃の矛先が向かったのは愚かな自分の息子ではなく、婚約者である私だった。
「あなたがあの子をしっかり捕まえておかないから、あのような男爵令嬢風情に現を抜かすのです! なんて無能なの!」
毎週のように呼び出されては、執拗な嫌味をぶつけられる日々。
だが、そんな罵倒とは裏腹に、アルベルト様が放棄した仕事はすべて私に回された。それどころか、王妃の公務まで「教育の一環」と称して紛れ込まされ、私は睡眠時間を削って処理し続けた。
そして迎えた、学園の卒業パーティー。
きらびやかな夜は、最悪の断罪劇へと変貌する。
「エリザベス! 貴様が私の愛する令嬢を虐げ、暗殺しようとしたことは分かっている。 婚約を破棄し、この国から追放する!」
会場にアルベルト様の怒号が響き渡る。仕組まれた冤罪。周囲の側近たちも勝ち誇った顔で私を糾弾した。
しかしその後、事態は急転する。
国王の直属部隊による厳重な調査により、男爵令嬢の魅了スキルが発覚。私の無実と、アルベルト様たちの愚行が白日の下に晒されたのだ。
彼らは王族・貴族の籍を剥奪され、次世代を残さぬよう断種された上で、ある者は過酷な鉱山へ、ある者は魔獣の這い出る辺境警備へと追放されることが決定した。
―― 当然の報いだわ。
地下牢でそれを聞いた私は、幽かに微笑んだ。しかし、私の前に現れた国王の使者が差し出したのは、釈放の鍵ではなく、美しい硝子瓶だった。
「――エリザベス・ローゼンハイム。あなたの無罪は証明されました。ですが……あなたはすでに王妃教育を修め、王室の機密を知っています。他国へ渡ることも、市井に放つこともできません」
要するに、生かしておけない。そういうことだ。
あまりに身勝手な王家の都合。表向きは「心労による病死」として処理されるという。
―― なぜ……?
震える手で佇む私の胸の奥で、静かな怒りが湧き出す。
―― なぜ、わたくしが死なないといけないの!?
幼い頃から自由を奪われ、家族に虐げられ、王家のために身を粉にして働き、挙句の果てに冤罪で泥を塗られて。すべてを完璧にこなしてきた私が、なぜ殺されなければならないのか。
五臓六腑が煮えくり返るような怒りと憎悪が私を支配した。
―― 許さない。王家も、実家も。
すべて、地獄に巻き添えにしてやる。
私は表情を消し、殊更従順に、最期の願いを口にした。
「……承知いたしました。最後に一度だけ、王太子殿下に、これまでの感謝と最初で最後の別れのご挨拶をすることをお許しいただきたくお伝えください」
それは、哀れな犠牲者の最後の願いとして、聞き入れられた。
隔離された一室で、断種の処置を終え、顔を青白くしたアルベルト様が、監視の騎士を伴って現れた。その後ろには、息子の変わり果てた姿にうろたえる王妃の姿もあった。
私が自分で結い上げた荒れた髪には、実家から持ってこれた数少ない私物である、護身用の仕込み刃が隠された、精巧な髪飾りがささっている。
「エリザベス……すまなかった……!」
アルベルト様は涙を流して謝罪の言葉を口にした。だが、その言葉に続いたのは、見苦しい言い訳だった。
「でも、聞いてくれ! 私が悪かったんじゃないんだ! すべてはマリアのせいで、あいつに操られていたせいなんだ! 私は被害者なんだよ! すべての原因はあの女にあるんだ、私の本心ではなかったんだ、エリザベス……っ!」
必死に身の潔白を訴えるアルベルト様。その姿はどこまでも醜く、哀れだった。
私は、慈悲深い女神のような、あるいはすべてを見通す悪魔のような微笑みを浮かべ、彼に歩み寄った。
「ええ、王太子殿下。――許してさしあげますわ」
その瞬間、私の手が素早く髪飾りに伸びた。
引き抜いた鋭利な刃を、アルベルト様の胸へと深く正確に突き刺す。心臓を一突きだった。
「が、は……っ!? な、ぜ……」
「アルベルト!?」
呆然と目を見開くアルベルト様を突き放し、駆け寄ろうとする王妃に面する。私は引き抜いた刃を持って、狂気と歓喜に満ちた目で笑った。
鋭い一線が走り、王妃の美しい顔を深く切り裂く。
高い悲鳴が上がり鮮血が飛び散る中、護衛が止めようとするのをかわして、私は一切の躊躇なく、自らの首筋へ刃を真横に振り抜いた。
―― やってやったわ……!
胸に湧き上がる達成感。
この一瞬、今まで生きてきた中で、一番幸せを感じた。
崩れ落ちる視界の中で、私は心の底から笑っていた。
アルベルト様を殺し、王妃の顔を傷つけた。これで、実家の公爵家も大罪人の生家として、王家に徹底的に叩き潰されるだろう。
私の考えうる中で最高の復讐だ。
―― 誰もわたくしを救ってはくれないの。
誰もわたくしを愛してはくれないの。
誰もわたくしの側に居てはくれないの。
手を握って一日隣に居てくれるような人も
わたくしには居たためしがない。
きっと明日も明後日も来年も再来年も
わたくしは同じく一人なのでしょう。
だから、望みを叶えた今、この世に何の未練もない ――
私は、極上の満足感の中で、深い闇へと落ちていった。




