024_別れ(君のいない世界で)女騎士、相方死亡、902字
冷たい雨が、容赦なく私の鎧を打ちつけていた。
かつて神の祝福を受けたと言われたこの聖王都は、いまや魔獣によって蹂躙され見る影もない。
けれど今日、私たちは勝った。
聖女様による奇跡の力で、世界は救われたのだ。
人々は互いに抱き合い、涙を流してこれから始まる新たなる一歩を祝っている。
なのに、前線で剣を振り続けていた私の胸に広がるのは、ひどく冷たい空虚だけだった。
「……ああ、そうか」
ぽつりと呟いた言葉は、泥交じりの雨音にかき消される。
戦いが終わってからずっと、胸の奥を締め付けていたこの痛みの正体に、私はようやく気づいた。
考える度にこんなにも苦しくなっている訳が、解った。
私は、戦いの恐怖や傷のせいで苦しいのではない。
世界を救うための代償として、あなたを失ったから苦しいのだ。
「副団長! 前を向きましょう! 私たちの新たなる一歩が、いま始まるのです!」
復興に沸く部下たちの声が遠くで聞こえる。
けれど、私の心は微塵も動かない。
―― 新たなる一歩など要らない
あなたがいない世界なんか、どうでもよい
魔獣の断末魔の一撃から私を突き飛ばし、代わりにその身を捧げたあなた。
「俺の分まで生きてくれ」
そんな呪いのような優しい言葉を遺して、あなたは冷たい骸になった。
生き残った私は、聖女様を護り抜いた英雄の騎士として讃えられている。しかし、私の魂はあの戦場に置き去りにされたままだ。
目を閉じれば、騎士団で切磋琢磨した日々、不器用な優しさ、背中を預け合った記憶ばかりが鮮明に蘇る。
―― あなたのいない未来へ進まなければならないというのなら
いっそ、このまま――
私は崩れ落ちそうな礼拝堂の片隅で、あなたの形見である折れた剣をそっと抱きしめた。
瞼の裏に浮かぶあなたの笑顔は、いまも色褪せない。
未来へ進むことだけが強さではない。
私にとっては、あなたとの思い出の狭間で消えてしまうのが、何よりも、一番幸せだったのだ。
遠ざかっていく意識の中で、私はようやく、本当の安らぎを感じて微笑んだ。




