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022_001の続きのようなそうでないような、元聖女、869字

 

 冷え切った大理石の床に、豪奢なドレスの裾が広がる。

 彼が「君の瞳の色によく似合う」と微笑んだ、深海の青色をしたドレスだ。


 かつて、この国を救った英雄である彼は、私を誰よりも深く愛してくれた。

 戦火の渦中で私の手を握り締め、「世界を敵に回しても君を守る」と誓ってくれた。その言葉に嘘はなかった。私たちは確かに、魂の始まりから結ばれていたはずだった。


 けれど、聖剣の呪いか、あるいは至高の権力が彼を変えたのか。

 いま、玉座に座る男の瞳に、かつての陽だまりのような温かさは微塵もない。


「……まだそこにいたのか、リアナ」


 低く、冷徹な声が降ってくる。

 見上げる彼の顔は、私の愛した人のものなのに、その眼差しはまるで路傍の石ころでも見るかのように冷ややかだった。彼の隣には、新しく見初められたという他国の公女が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。


 胸の奥が、音を立てて凍りついていくのが分かった。

 流す涙さえ、もう枯れ果ててしまっていた。


「はい。陛下。最後に、お別れを告げに参りました」


 私は静かに立ち上がり、完璧な淑女の礼(カーテシー)を捧げる。


 胸の中で、引き裂かれるような悲鳴が響いていた。


 ―― もう、わたしを愛したあなたはいないのに

       わたしの愛したあなたはいないのに


 ここにいるのは、冷酷な絶対君主。

 私が命を懸けて愛し、私を命懸けで愛してくれた『あの人』は、もうこの世界のどこにも存在しないのだ。


「……そうか。行くがいい。二度と私の前に姿を現すな」


 男は興味を失ったように、ふいと顔を背けた。その徹底的な無関心が、何よりの証明だった。


「――さようなら、愛しい人」


 私は小さく呟くと、一度も後ろを振り向かずに謁見の間を後にした。

 閉ざされる重厚な扉の向こうに、私のすべてだった過去を置き去りにして。


 これから向かう新天地がどれほど過酷だとしても、偽物の愛に縋って生きるよりは遥かにマシだ。

 私は私の足で、新しい運命を歩き出す。


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