019_恋愛(この恋は誰にも渡さない)貴族令嬢、取り返す話、1800字
大人びたドレスを纏い、控えめな化粧をする。
それでも鏡に映る私は、どこからどう見てもまだ「こども」だった。
私の名前はポーラ。現国王の姪にあたる公爵令嬢だ。
私は物心ついた頃からずっと、五歳年上の従兄 ジェイドが好きだった。
ずっと言い続けていた甲斐もあって、いずれ私とジェイドは婚約することになっていた。
しかし四年前、隣国の第二王女であるネオンが、社交界にデビューしたばかりのジェイドに一目惚れをした。大国からの熱烈な降嫁の打診を我が国は断りきれず、ジェイドは彼女と婚約することになってしまった。
それから四年。十九歳になったジェイドはますます凛々しくなり、私はただ遠くから彼を見つめるだけの、無力な十四歳 ……のはずだった。
「――お嬢様、やはり間違いありません。ネオン王女は、ご自身の護衛騎士と度を越えて親密なご様子です」
放った密偵からの報告書を握りしめ、私は怒りで奥歯を噛みしめた。
ジェイドという至高の婚約者がありながら、他の男にうつつを抜かすなど、万死に値する。ジェイドを、彼の優しさを、踏みにじるような真似は絶対に許さない。
私の中で炎が燃え盛る。
―― こどもにできることなんて限られている?
淑女として、大人しく身を引くのが美徳?
そんなもの、知ったことか。
大人になんかなれない。こどもでいい。それで手に入るなら。
わがままでも勝手だって言われても、
それで、自分のものになってくれるなら。
たとえ全員を敵に回しても、あなたを奪ってみせる!
鏡の中の自分にそう誓った瞬間から、私は優雅な公爵令嬢の仮面を脱ぎ捨てた。
まずは徹底的な情報収集をする。
ネオン王女とその護衛騎士が「いつ、どこで、どれだけの時間二人きりだったか」の動かぬ証拠を時系列でまとめ上げた。
そして私は、伯父である国王の元へ直談判に赴いた。王妹の娘という立場も、使える人脈も、すべてを総動員する。
「伯父様。これは我が国の、そして侯爵家の尊厳に関わる大問題です」
差し出された報告書に、国王の顔色が変わる。国としても、国の中枢に位置する侯爵家が、他国になめられたままで終わらせられるわけがない。
国王の命によって、報告書に基づいて再調査がされ、その後内々に隣国へ「第二王女の不貞」を理由とした婚約解消の打診、否、事実上の通告が送られた。
当然、ネオン王女側は猛反発した。
「私たちは誓って清い関係です! 肉体関係など断じてありません!」と。
しかし、時すでに遅し。隣国側も我が国からの指摘を受けて秘密裏に自主調査を行っており、結果は黒。何度も密室で二人きりになり夜を明かした事実を、向こうも把握していた。
「肉体関係がない」などという言葉は、国際舞台では何の言い訳にもならない。密室で男女二人という事実だけで致命的な瑕疵である。
隣国側もこれ以上醜態を晒して公にされては困ると、ネオン王女の不貞を全面的に認める形となった。
それから数週間後。
ジェイドとネオン王女の婚約は、静かに、そして完全に解消された。
「……まさか、ポーラが裏で動いてくれていたなんてね」
公爵邸の庭園。昼下がりの木漏れ日の中で、ジェイドはどこかホッとしたような笑みを浮かべて私を見ていた。四年の間にすっかり大人の男になった彼に、私は一歩も引かずに胸を張る。
「言ったでしょう、ジェイド。私はワガママなんです。あなたを他の誰かに取られるくらいなら、悪女にだってなって見せます」
「参ったなぁ。あんなに小さかった可愛い妹分が、いつの間にかこんなにも頼もしい淑女になっていたなんて」
ジェイドはふっと目を細めると、私の前に跪き、その大きな手で私の小さな手を取った。
「ネオン王女とのことは、僕の不徳の致すところだ。……でも、破滅を覚悟してまで僕を救ってくれた君が、まだ僕を望んでくれるなら。僕から申し込ませてほしい」
彼の唇が、私の手の甲に優しく触れる。
「僕と、婚約してくれますか? 」
「…………はい! 喜んで!」
差し出されたきらめく婚約指輪は、今の私の指にはまだ少し大きかったけれど。
子供のわがままと侮るなかれ。
手に入れたこの手は、もう絶対、誰にも渡さない。




