表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/56

018_両片思い(未確定の恋)騎士→令嬢、1566字

 

 叶わないと思った恋だった。最初から、身分が違いすぎた。


 彼女は、侯爵家の一人娘。

 社交界では白薔薇と呼ばれ、誰に対しても完璧な微笑みと崩さない距離感で、いわゆる高嶺の花だった。

 対する俺は、伯爵家の次男。

 そこそこ出来る騎士というだけの、家を継ぐこともないただの男だった。


 王宮の夜会、帰宅の馬車の護衛任務中に賊の襲撃があった。

 戦闘後、彼女は真っ先に馬車から降りてきた。

「怪我は?」

 貴族らしからぬ一言。そして俺の指先に残る返り血を見ると、自身の白いハンカチを差し出してきた。

「拭いてください」

「大丈夫です、返り血です」

 そう答えると、彼女はほんの少しだけ笑った。

「そう、よかったです」


 その瞬間から、少しだけ自分はおかしくなった気がする。

 何度か護衛任務で顔を合わせた。

 彼女はいつも礼儀正しく、完璧な距離を保っていた。

 それなのに、なぜか一線だけ近い。

 必要以上には踏み込まないのに、決して遠ざけもしない。

 そんな距離感を勝手に感じていた。


 気づけば、明確に「線を越えてはいけない感情」になっていた。

 でも、彼女の隣にはもっとふさわしい相手がいる。

 政略的にも、血筋的にも、釣り合う男はいくらでもいる。

 俺はそのどこにも入らない。

 それでも――。



 ある日、家の仕事の関係で久しぶりに参加した夜会で、

 月明かりの庭園に一人佇む彼女を見つけた。


 多分酔っていて、理性が負けたのだ。

「……気づいたら、目で追っていました。好き、なんだと思います」

 話しの流れで、つい告白してしまった。

 沈黙のあと、彼女は頬を赤らめて視線を逸らした。

「……侯爵家の娘としては困ります。ですが、個人としてなら、少しだけ嬉しいです」


 叶わない恋だけど、名前のない関係ができた。



 だが、前提は婚約解消という大人の政治事情によってあっけなく崩れた。


 貴族社会において、その言葉は絶対的な身分の壁を一時だけ無効にする力を持っていた。

 表向きは円満な解消と発表されたが、実際は隣国との外交問題や、貴族間の権力争いといった、薄黒い事情が絡み合っていた。


 あの夜会の空気は異様だった。

 婚約解消を告げられた席で、彼女は何も言わなかった。

 ただ、完璧な微笑みのまま、元婚約者だった男の前に立ち続けていた。最後まで、凛とした佇まいで。

 護衛として壁際に立っていた俺は、何もできなかった。



 数日後、俺は評議会に呼び出され、想像もしていなかったことを言われた。

「侯爵令嬢の次期婚約候補として、貴殿の名が挙がっている。」


 一瞬、耳を疑った。

「……私が、ですか」

「そうだ」


 評議会の男は淡々と告げた。

「身分的には下位だが、君の現場での評価は高い。それに、何より彼女本人の意向も考慮されている」



 困惑のまま向かった王宮の中庭に、彼女はいた。

「困りましたか」と、いつもより小さな声で彼女が尋ねる。


「……正直に言えば、困惑しています。なぜ俺なんですか。これは政略ですか」

 そう確認した俺に、彼女は一瞬だけ迷い、それから首を横に振った。

「完全に否定はできません。でも、少なくとも私は嫌ではありません」


 胸の奥が熱くなる。叶わないと思った恋は、まだ確定していなかっただけだった。

 自分の顔が赤くなるのが分かった。


「……まだ、候補ですからね」


 照れ隠しに言う彼女に、俺は一歩近づいた。

「なら、選ばれる努力をしてもいいですか」


 彼女は悪戯っぽく微笑む。

「最初から、そのつもりだったのではなくて?」


 夜風が二人の間を通り抜ける。


 叶わないと思った恋は、まだ途中。

 俺は今、その結末を、彼女と共に選べる場所に立っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ