012_異世界_悲恋(愛されたいと望むばかりじゃなくて)
街の大通りにある高級菓子店。私は、街でも評判の「2番手の看板娘」だった。
1番手は、去年の春に入ってきた一つ下のルナ。あの子が店頭に立てば、開店前から男たちが列を作る。
私は、どうしてもルナに勝ちたかった。
幼なじみで、この店の菓子職人でもあるテオが、ずっと昔から好きだったから。
―― テオの一番近くにいるのは私。
だけど、いつかルナに取られちゃうかもしれない……
焦った私は、必死で客にアピールした。ドレスを新調し、声を一段高くして愛想を振りまきまくった。その甲斐あって、いつしか私はルナと人気を二分する位になれた。
「ミリー、最近すごく頑張ってるね。でも、あんまり無理するなよ?」
テオが、心配そうに声をかけてくれたこともあった。そんなテオに
「大丈夫! 私、もっと有名になって、このお店のこと大きくするんだから!」
そう言って、私はまた、自分を呼ぶ客の方へと走っていった。
客からの人気のバロメーターが、いつかテオとの恋に繋がると信じて疑わなかった。
もっと、もっと私を見て。ルナじゃなくて、私を。
そんな日々が、続いたある日のこと、テオが1枚の白い封筒を差し出してきた。
「ミリーには、誰よりも先に伝えたくて。 俺、結婚することになったんだ」
手渡されたのは、結婚式の招待状だった。
新婦の欄に書かれていたのは、ルナの名前……ではなく、店の向かいにある花屋の物静かな女の子の名前で。
「え……? 」
頭が真っ白になる。
「ルナじゃないの……? っていうか、いつの間に……?」
テオは少し照れくさそうに頭を掻いた。
「ルナ? 違うよ。彼女、俺が試作で行き詰まってた時に、そっと俺の好きなハーブティーを淹れておいてくれたんだ。俺が落ち込んでる時も、いつも最初に見つけてくれて……俺のことずっと支えてくれてたんだ」
テオの言葉が、胸に冷たく突き刺さる。
テオが試作に悩んで夜遅くまで残っていたこと、すっきりしたハーブティーが好きだってこと、落ち込んだ時はいつも特定の癖でため息をつくことも
―― 全部、知ってた。昔の私なら、すぐに気づいてたはずなのに…
私は震える自分の手を見つめた。
テオに愛されたい。その一心で、遠くの客ばかりを見て、派手に着飾って、自分の価値を上げることばかりに必死になっていた。だけどその間に、私は一番大切だったはずの「テオの隣」という特等席を、自ら空っぽにしていたのだ。
愛されることばかり望んで、あるものすら見えなくなってた。
「……おめでとう、テオ。すっごく、お似合いの二人だと思うわ」
引き攣る頬を必死に動かして、私は人生で一番下手くそな笑顔を浮かべた。
手元に残ったのは、華やかなドレスと、もう叶わない、幼なじみの幸福の知らせだけだった。




