013_異世界_not恋愛(スライム)
目が覚めたら、手も足もない水色の塊、スライムになっていた。
前世はごく普通の人間だったのに、まさか最弱の魔物に転生するなんて。
ファンタジーの定番なら、私には相手の能力を吸収するすごい能力があったり、からだのプルプルが酸で敵を溶かしたりできて、ってここから大冒険が始まるはずだけど、私にはそんな能力なかった。戦闘力皆無の私に敵に向かっていく度胸があるわけもなく、ただ森の草陰でぷるぷると震えて過ごしていた。
そんな私を救ってくれたのは、一人の天使だった。
「あら、綺麗な水たまり……じゃなくて、スライムさん?」
森にピクニックに来ていた貴族のご令嬢、リーシャちゃん(8歳)である。
彼女は怖がりもせず、小さな手で私をすくい上げた。ひんやりとした私の感触が気に入ったのか、「かわいい! お家に連れて帰る!」と大はしゃぎ。
当然、父親も母親も大反対、するかと思いきや。
「ふむ。魔力も皆無、酸の分泌もなし。突っついてもポヨポヨ跳ねるだけか。……まぁ、いいだろう」
「あら、夏場はひんやりして、抱き枕にちょうど良さそうですわね」
鑑定魔法の結果、私が「1ミリの害もない、ただのゼリー状の置物」だと判明したため、あっさりペットとしての永住権をゲットしてしまった。
こうして私は、過酷な野生の世界から、冷暖房(魔法)完備の貴族のお邸での、ぬくぬくとした飼いスライム生活を手に入れたのだ。
しかし、極楽のメルセデス邸にも、一匹の強敵な先住者がいた。
白くてふわふわの長毛種、オスの飼い猫「ミルク」である。
彼こそが、私の唯一のライバルだ。目的はひとつ。午後の一番いい時間帯に、極上の陽だまりができる、客間の出窓。あそこのふかふかクッションの上で昼寝をすること。
「ニャーン(そこは俺の席だ、新入り)」
ミルクが青い目で私を鋭く睨みつけ、クッションの真ん中を陣取る。
だが、私も負けてはいけない。手足はなくても、スライム特有の流動性がある。
私はぽよん、ぽよんと這うように出窓に登ると、ミルクの体の隙間、ちょうどお腹の下のわずかな空間へと、どろりと滑り込んだ。
「!?(ニャッ)」
ミルクが驚いて目を見開く。だけど、私の体はひんやりとしていて、初夏の陽気の中で少し暑がっていたミルクにとっては、最高の冷却シートになったらしい。ミルクは一瞬怒ったものの、すぐに「悪くないな……」という顔をして、私の体の上で丸くなった。
猫のふわふわの毛並みと、極上の陽だまりの暖かさ。そして私自身のひんやり感。すべてが完璧に調和して、最高の心地よさが生まれる。
「ふふ、二人とも仲良しね」
通りかかったリーシャちゃんが、クッションの上で一体化している私たちを見て、嬉しそうに微笑んだ。
言葉は通じないけれど、ミルクが「ふん」と満足げに鼻を鳴らす。
異世界最強の魔王を目指すスライムもいるかもしれないけれど、私はこのぽかぽかの窓際で、猫にふかふかの座布団にされながら、お嬢様に愛されるスライムライフを全うしようと心に決めたのだった。
えーよくわからないけど、唐突なスライム話がありました。




