第5話 『成長』
次の日も、その次の日も、僕は風魔法を使おうと試みていた。
でも当然の如く、風ちゃんは返事なんてしてくれなかった。
本当ツンデレだよな。
水魔法?なんだっけそれ。
濁流のように過ぎ去っていく毎日を過ごして、1年ほど経った。
そんな僕は、ある問題に直面していた。
そう。知識不足だ。
思えば僕はこの世界についてほとんど知らない。
魔法ってのがどんなもんなのかとか。
魔法の発動方法とか。
魔力についてとか。
魔法陣とか、詠唱とか。
あと国や街の文明とか。
そんなものを知りたいと思い始めていた。
でも、僕はまだ1歳だ。
ちょっと喋れるようになったが、まだ完璧には喋れない。
自由に歩くこともできない。
では、どうするか。
頼るんだ、ひとを。
「ままぁ」
頼る人なんて1人だよな。
「どうしたの?フィル」
「ほん」
まあ知識といえば、本ですかね。
「絵本?また聞きたい?」
「ん、もういい」
絵本は聞き飽きたよ。
内容ってば、勇者が魔王を封印するありきたりなやつだ。
「絵本以外がいいの?」
「ん」
「ごめんねぇ、フィル。本はあれ以外、うちにないのよ」
なん、だと。
本がない?
この世界の知識を得ようと思った瞬間に詰んだんだが?
「なん、で?」
「本はね、高いの」
どの世界でも、知識を得るには金がかかるらしい。
なんとも世知辛い。
「かなしぃ」
「レオンが帰ってきたら聞いてみる?」
「ん」
頼れるパパ。
頼むぞお願いだ。
「ただいま」
夕方。頼れるパパのご帰宅だ。
靴や服に泥や返り血がついている。
そう、頼れるパパは狩人だ。なんかすごいらしい剣術で、狩りをしてるんだと。
ちなみにエリナは、庭で少しだけ野菜を育てている。
家庭菜園っていうレベルではあるが、毎日の食卓にも、割と高確率で入っていたりする。
「ぱぱぁ」
「おっ」
一瞬にしてレオンの頬が緩んだ。
単純な男である。
「ぱぱぁ、ほん、ほんほしいぃ」
「お帰りなさい、レオン。フィルがね、本が欲しいんだって」
「本か。フィル、本なんて読みたいのか?」
「うん!」
「難しいぞ」
「だいじょぶ!」
「うっ」
わざとらしくにぱぁっと笑ってみると、レオンには効果覿面だったらしい。
本当に親バカってやつだな。
「わかった。本は高くて買えないけど、なんとか考えてみるよ」
「ほんと!やたー」
これで魔法についてもわかるかもしれない。
……あ、文字読めないや。
まあいいか。いつか読めるようになるだろう。
◇
そしてさらに1年の時が過ぎ去って行き、僕は2歳になった。
2歳になったとしても、たいして変わったことはない。
相変わらず知識はあまりないし、魔法は使えない。
本もなければ、文字も読めない。
だが、そんな1年で、できるようになったことが一つだけある。
それは、魔力を感じることだ。
魔力を感じると言っても、よくあるような魔力感知で位置を把握するなんていう、すごいものでもない。
ただ、自分の中にある魔力を感じ取れるようになった。
まあ、これが本当に魔力であるかなどはわからないが、おそらく魔力なんだろう。
少し前、魔法を使えなくて、諦めそうになって、まずは魔力を感じようと思った。
魔法が使えないんだから、そんな簡単にいくもんじゃないと思ったが、意外と簡単にわかった。
多分、魔力を感じることと、魔法を使うことは、全くの別物なのだろう。
多分だが、前世になかったものがあることによる差異で簡単に感じれたんじゃないかと思う。
だからそろそろ、魔法について習ってみるのも、いいんじゃなかろうか。
どうするか。答えは一つ。
頼るんだ、ひとを。
「ままぁ」
頼る人は1人だろう。
「どうしたの?フィル」
「まほー」
「魔法?」
「そう!」
「まほーつかいたい」
「そうねぇ、ちょっと見せてあげよっか?」
「うん!」
「水魔法と風魔法、どっちがいい?」
究極の二択だな。
選ぶことなんてできないよ。
「どっちもがいい」
「さっき畑に水をやった時に、魔力を使いすぎちゃって、どっちかしかできないわ」
なん、だと。
選ばせるというのか。
この二択を。
「んーじゃ、かぜ」
僕はまだ、風に可能性を感じている。
極めれば、できるかもしれないしな。
「わかったわ。ママ、張り切っちゃうんだから」
「風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》」
「わぁ」
エリナの優しさをそのまま風にしたような、そんな印象を受ける風だった。
おっと、それも大事だが。
「まま、だいじょぶ?」
「まりょく、すくない」
気がする。
「…え?わかるの?」
「うん…?」
そんなに驚くのか?多分エリナもわかるだろ。
「…ねえフィル、いつから魔力感じれたの?」
「んー、ずっと?」
「………」
黙りこくっちゃったよお母さん。
え?もしかしてやばいのか。
もしかして、実は魔力はプライベートなもので、それを見たら覗き魔扱いされるとかある?
そしたら赤ん坊の頃からの変態として、村から白い目で見られちゃう?
それとも魔法を使えるのはとんでもなく特別で、実はエリナめちゃくちゃすごいとか?
でも僕、魔法は使えないんです。
魔力わかるけど、魔法は一回きりで、ほとんど使えたことないんです。
本当に。びっくりするくらい使えなかったんです。
風ちゃんと必死に話そうとしたのに、全部無視されたんです。
1年頑張ってたのに、無理だったんです。
「…すごいわ、フィル。2歳で魔力を感じるなんて、あんまりいないわ!」
ちょっとはいるのか……
「魔法、使いたい?」
「うん!」
教えてもらえるのか?まさか母親に弟子入りフラグか?
「まま、おしえるくれる?」
「ふふ、ママは教えられないわ。初級までしか使えないもの」
なん、だと。
教えないけど、使えるように頑張ってね、ってことか?
そうなのか?
「でも、ママより魔法に詳しい人がいるわ」
「だれ?」
「パパと仲のいい人よ。楽しみにしててね」
◇
そしてまた数ヶ月経った。
まだ魔法を教えてくれない。
いい人紹介してくれるって、言ったじゃないの。
どうしてよ。私のこと、忘れちゃったの?お母さん………
「フィル、おでかけよ」
「んー、どこ?」
「内緒よ。ついてきたらわかるわ。きっと喜ぶわ」
きっと喜ぶのか。
なんだろう。
まあ畑とかじゃないだろうな。
まあ最近暇だし、ついていくか。
「じゃ、いくー」
エリナに手を握られ、見慣れた道を歩く。
外に出ると大体歩く道の方を通って──
「そっちじゃないわよ」
あれ?いつもと違う方を通るのか。
そういえばこっちはあんまりきたことなかったな。
「まだー?」
この村はそんなに大きくないようだけど、引きこもってる2歳児にはなかなかきつい。
「もうそろそろよ。」
「ほら、ついたわ」
合計にして5分くらいか?
そんなに遠くはなかったな。
「だれのおうち?ぼくにくれるの?」
僕とエリナの前に立っている家は、この村で一際大きく見える家だった。
「そんなわけないでしょ。村長のお家よ」
なんだ。
僕の家じゃないのか。
残念。
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