第4話 『そよ風』
魔法。
そんな言葉が頭の中でぐるぐると回り続ける。
今まで、アニメや漫画でしか見たことのなかった、空想の中のもの。
(使いたい。)
(いや、使いたいだなんてもんじゃない。絶対に使ってやる)
「おーい、エリナいるか?」
(なんなら、今から練習してやる。そうすれば、きっと成人する頃には、大魔法使いだろう)
「ちょっといい天気だから、散歩でもしないか」
(夢が広がる)
「いいわね、あんまりフィルも家に引きこもってちゃ良くないでしょうし。」
(早速今からでも───)
不意に体が持ち上げられた。なんだよ、もう。
今からがいいところなのに。
「フィル〜お散歩に行こうね〜」
「あうぅ、や。や。」
「そんなに嬉しいのか。もっといっぱい外に行っとけばよかったな」
何を言ってんだこいつは。
どう考えても拒否だろう。
や。で喜んでるなんて、どんな赤ちゃんだよ。
「じゃあ行くか」
え、まって。
本当に行くの?
今から魔法の練習が───
全力で拒否をするも、鈍いレオンには気づかれない。
半ば強引に、外へ連れて行かれる。
もっとも、赤ん坊にできることなんてないから、ほとんどは親に強制されてることとも言えるだろうが───
きぃぃっと音をあげ、外に向かって扉が開かれる。
(うわ……)
眩しいな。
異世界にも、恒星ってあるのだろうか。
太陽のようなものがSUNSUNと照り付けてくる。
「な?いい天気だろう?フィル。嫌がることなんて何もないんだよ」
「あぅうう」
こいつ、気付いてて連れてったのかよ………
「ふふ」
だが、初めて見る村の景色は心なしか光で神秘的にすら見える。
(思ったよりも普通だな。もっと禍々しい木とかあってもおかしくないのだが)
便利そうではなく、はたまた不便そうでもない木造建築の家々。
道を歩く人。
川で遊ぶ子供たち。
言語という違いはあるが、本当にここは異世界なのか疑ってしまいそうだ。
現代日本で、こんな村には関わったこともないのだが、不思議と懐かしい気分になる。
なぜだろう。本当になぜだろう。
おっと、そんなことよりも魔法だ。
僕はついさっき、ものすごいものを見たのだ。
エリナは、どうやって魔法を発動したんだろう。
まあ魔法なんだから、魔力のようなものを使うんだろう。
物は試しだ。魔力を操ろう。
でもどうやって?
分からない。分からない時はまあ、気合いだろう。というか気合いしかない。
(ええい、ままよ!)
(魔力よー集まれー)
がんばれフィリアン。君ならできる。
(集まれー魔力ぅ)
きっとできるぞ、フィリアン
「あぅ……」
「どうした?フィル?」
「あうう」
まあ、無理だよな。
そんな根性論なんて。言い出したの誰だよ。全く。
とはいえ、もう一つ試してないのがあっただろう。
詠唱だ。
エリナは確か「風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》」とか言ってた気がする。
これが魔法を発動するのに必要なんじゃなかろうか。
(ってことで、風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》)
(………)
何も起こらない。
なぜだ。納得できん。
あ!
声に出せばいいのか。
なぜ気づかなんだ。このうっかりさんめ。
「あえぉ、ういゆえー」
「どうしたの?フィル?」
「あいぇあうぅ」
まずい。まだ上手く喋れない。つまり、詠唱ができない……?
そんな!
せっかくの異世界転生なんだから、特典の一つや二つ、さらにいえば魔法の特別な才能くらい、あってもいいじゃないか。
いや待て、本当に詠唱が必要なのか?
だとしたらうまく詠唱できるようになるまで、あと何年かかる?
1年?2年?
そんなに待てない。
異世界モノの主人公は、赤ちゃん時代から魔法を使うから。最強になるんだ。
別に最強になりたいわけじゃないが、魔法使いにはなりたい。
(お、おお落ち着け)
(きっと詠唱はなくても平気なはずだ。)
作品によっては無詠唱ってのもあったはずだ。
そういう作品で大体必要なのは───
イメージだな。
そうだイメージだ。イメージさえあれば平気なんだ、詠唱なんていらないんだ。
そうさ、そうさ。そうであってくれ。
風が吹くイメージ──
木が揺らぐ。小鳥が囀る。気持ちいい風が、頬を優しく撫でるんだ。
(風、かぜよ〜)
……
………
…………
(どうしたんだ?風)
(迷子か?)
(方向音痴なのか?)
(こっちだぞー)
(風も意外とシャイだったりしちゃうのか?)
(そろそろおいでよ。今なら優しく抱きしめてあげるよ)
……
(おーい)
……
………吹かないよぉ
いや待て、イメージが違った可能性もある。
扇風機。扇風機だ。風といえばそれしかない。
羽が回るんだ。強にすると、速くなった羽に押されて風が来るんだ。
そして強すぎてカバーが外れて。
そしたら剥き出しになった羽に赤ん坊の僕が──
おい、触るな。危ないぞ。
(まだ来ないんですかい?風さんや)
……
……
来ないな。
もしかして、才能が、ない?
魔法が、使えない?
……
…いや、魔法の使い方といえば詠唱ともう一つあるんじゃなかろうか。
魔法陣だ。やっぱり魔法と言えば魔法陣だよな!
たとえばこう、丸の中に、複雑な図形を描くんだ。
そしてそこに魔力を流すんだ。
そしたら───
ガサガサ。チュンチュン、ふわり。
───風が吹いてぇ
頬を何かが撫で、前髪がふわりと持ち上げられた。
(あれ?)
(今のは、偶然か?)
忘れてはいけない。今は散歩中だ。家族でルンルンお散歩タァーイムだ。
外にいればそりゃ風なんていくらでも吹くだろう。
(でもなんか、今のは………)
なんか、違う気がする。
異世界の風が地球と全然違う、と言われればそれまでなんだが、でもなんか違う気がした。
言葉にはできないモヤモヤとした違和感を感じた。
そんな言葉に出来ないものなんかよりも、大事なのは魔法だ!
僕はもう一度魔法を発動するために、風を──いや、水にしようかな。
水を、思い浮かべた。




