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疾風のフィリアン  作者: 北の方の狐
第1章 新たな人生編
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第3話 『憧れ』

それから、しばらくの月日が流れた。


と言ってもできることはあまり変わらない。


食べる、寝る、泣く、寝る。

そんなことしかできない。


でも、一つだけ変化もあった。


「おはよう、フィル」


そう、言葉だ。

この家で何週間か過ごして、親にたくさん話しかけられたことで、ある程度わかるようになってきた。

もっともまだ分からないものも多いが……


「あぅ、まぁま」


「……!、あなた、フィリアンが」


まあ、ファンサってやつだ。


それよりも、僕の名前は『フィリアン』だったようだ。

フィルとして生きてやる、とか言った手前少し恥ずかしいが、まあいいだろう。


(……?)


エリナに呼ばれたレオンが、僕のことを抱き上げる。

レオンが僕を抱き上げることはそんなに多くはないのだが。


「……!、ぱぁぱ」


その瞳から何を望むのかを理解した僕は、エリナと同じように名前を呼ぶことにした。

愛を持って接してくれるファンには、愛で返さないとだからな。


「聞いたかエリナ!今パパと言ったぞ」


僕の言葉を聞いたレオンは、そのまま嬉しそうな声色でエリナに話しかけた。


「はいはい。レオンは本当にフィルが大好きね」


「当たり前だろう。フィルは天使、いや女神だからな」


拝啓、生まれたばかりの僕よ。神、いました。神、僕でした。敬具。


てか僕、男の子なんですけど。


「フィル、ママは?」


さっき言ったばっかじゃんか。

まあいいか。


「ま……ままぁ」


そういうと、エリナはにぱっと笑う。


「もういっかい、フィル、もういっかい」


(いっかいで勘弁してくれ……)



◇



そんな日常を過ごしていたある日のこと。


僕はまた……漏らした。


「あらあら」


服を脱がされて、木桶に服を入れられる。


服を着せられて、ベッドに寝かされる。


「ちょっと待ってね、フィル。今洗っちゃうわ」


そう言ったエリナは、集中するかの如く目を閉じる。

少しした後、目を見開いて木桶に手のひらを向けた。


「水よ、集いて形を成せ——《ウォーターボール》」


(……え?)


エリナの手から現れた水が、あっという間に木桶を満たす。


蛇口はない。


木桶に仕掛けなんてないだろう。


つまり、何もないところから、水が現れた。


(なんだ……今の?手から出てきたよな?)


そんな超常現象、見たことも聞いたこともない。


いや、ひとつだけ思い浮かぶものがある。

ほんの数ヶ月前まで、夢にまで見てきたもの──


(魔法……?)


そんなことがあり得るのだろうか。


「〜♪」


エリナは、その光景が当たり前であるかのように、洗濯を続ける。


目を丸くしているのは、僕だけだ。


だが、地球で、当たり前のように魔法を使うことなんて、できないはずだ。

もしそんなことができるのならば、とっくに試しているだろうから──


(いや、待て。本当にここは、地球なのか?)


思えば僕は、赤ん坊なのだ。

何を根拠に地球だと断定していたのだろうか。


馴染みのある見た目と、大きく違う両親。

レオンの採ってきたらしい、ヘンテコな見た目の食べ物。

地球なら、あり得ないであろう力。

何より、当然のように超常現象を引き起こす母。


赤ん坊の体で、得られる情報は少ない。


もしかしたら勘違いかもしれない。


だがもし、もしもあれが魔法ならば──


そんなことが思い浮かんだ時、僕の胸は否応なしに跳ね上がった。

ゲームで、アニメで憧れを抱き続けてきたもの。


剣を振るう、英雄。

全てを燃やし尽くす、魔法使い。

山のような巨大な体を持つ、ドラゴン。


漫画を読み、アニメを見るたびに思っていた。

もし、自分が魔法を使えたら、と。


だがそれは起こり得なかった。

当たり前だろう。それは、考えられただけの空想なのだから。


では、今の光景はなんだろうか。


幻覚?妄想?退屈すぎておかしくなってしまったのか?


それもまああるかもしれない。


だが、──


「風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》」


まだ薄い前髪が軽く舞う。


少なくとも、エリナが魔法のようなものを使ったことは事実だろう。

だって、今も服を乾かすために、風を起こしたのだから。


吹き抜く風の香りが心に突き刺さる。


二度も見てしまったのだ。

さすがに幻覚では、ないだろう。


胸が高鳴る。

興奮が抑えられない。


だってそうだろう。

ずっと憧れてきたのだから。


使いたい。

僕も魔法を使ってみたい。


それも叶うだろう。


だって、おそらくここは──

魔法の世界。

ずっと憧れてきた世界なのだろうから。


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