第14話 『お花』
「ただいまー」
狩りを終えた後、僕たちは家に帰ってきた。
ちなみにボアはお父さんが運んでくれた。
「おかえり………フィル!」
僕の顔を見た途端、お母さんが駆け寄ってきた。
どうしたんだろう。
「その肩、どうしたの!」
「あ……狩りをしてたら、けがしちゃった」
もう痛みは引いていたから、忘れていたよ。
「そう……大丈夫なのね?」
「うん!」
「じゃあ回復魔法をかけてあげるわ」
「おねがい!」
「癒しの光よ、傷を包み、健やかなる姿へ導け──《ヒール》」
お母さんの柔らかな魔力が、僕の右肩を包んだ。
すると、残っていた痛みがスッと消えてしまった。
「どう?治った?」
「うん!なおった!ありがとー」
◇
3年の時が過ぎた。
毎日のように魔法の練習をして、時には狩りに出る。
そんな日々を過ごしていたら、気づけば僕は10歳になっていた。
「フィルー。遊ぼー」
リリの声だ。そういえば今日は魔法の修行はしないで遊ぶ約束をしてたっけ。
「はーい。今行くよー」
急いで家を出ると、そこには肩まで伸びた黒髪を揺らすリリが立っていた。
「おそいよ。フィル」
少し頬を膨らませながら言う。
「まだ呼ばれてから30秒も経ってないよ」
「細かいことは気にしないの!」
そんな理不尽な……
「許してー」
「いいよ!」
次の瞬間、不意に手を掴まれる。
「じゃあ行こっ!」
そのまま引っ張られる。
なんでこの子はこんなに距離が近いんだろう。
嫌じゃない、嫌じゃないんだけど──
「どうしたの?」
「な、なんでもないよ」
なんか胸の辺りが落ち着かないな。
家を出る時に走ったからだな!
…うん、きっとそうだ。
僕はこのことについては考えないことにした。
「どこに行くの?」
「んー……ないしょっ!」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、言った。
「……教える気ないでしょ」
「うん!」
「即答しないでよ……」
リリは楽しそうに笑いながら、僕の手を引いていく。
村を抜け、草原を通り、まだ浅い森を進む。
「リリ、まだぁ?」
「もうちょっと!」
「さっきも聞いたよ……」
「気のせい気のせい!」
そうか、気のせいか。なら仕方な……いや、絶対気のせいじゃないって。
そんなことを話しながら歩いていると、ふいに視界がひらけた。
「ついたーー」
「わぁ………」
思わず声が漏れてしまう。
その時に見ていたのは、満開に咲き誇る花々か、はたまたリリの横顔だったか……
「ここ私のお気に入りの場所なんだ〜」
「確かに綺麗だね」
丘の上から見える村と、咲き誇る花々がとてもいい具合に調和している。
「でしょ?」
「うん」
「でしょ?」
「うん」
「ここ私が見つけたの!」
「うん?」
「もっと褒めていいんだよ?」
「なんで?」
「私が見つけたから!」
「ああ、なるほど」
「なるほどじゃないよー」
リリが不満げに頬を膨らます。
「ごめんって」
「もういいもんっ!」
そう言って、走り出してしまう。
声は楽しそうだったけど。
「まってよ」
木の下で座っているリリのもとに駆け寄る。
この子僕よりも足速いんだよ……
いつの間にかリリの髪には、小さな花が飾られていた。
「フィル」
僕の髪の毛を、何かが触れる。
リリが花を僕の髪にも挿したんだ。
「っ!?」
「どう?」
「どうって」
「似合う?」
「ああ、うん」
「よかった!」
リリは嬉しそうに笑った。
なんだかとてもむずむずする。
「そういえば今度さ、───」
さっきから胸の辺りが落ち着かない。
リリに手を繋がれた時もそうだったけど、今日はなんか変だ。
……きっと慣れないことをしたからだな。
そう自分に言い聞かせることにした。
「───。フィル、聞いてる?」
「んぁ、聞いてるよ」
「ほんと?ならいいけど………」
「それで、なんて言ったの?」
「やっぱり聞いてなかったんじゃん!」
リリがじっと睨んでくる。
「ごめんごめん」
「教えてあげない!」
「なんでよー」
「聞いてなかった罰!」
そう言いながらも笑っている。
なんだかんだ言っても機嫌は悪くないらしい。
「じゃあ当ててみる」
「むりだと思う」
「今日の晩御飯はシチュー」
「ちがう」
「実は村長がすっごい偉い人だった」
「ちがうと思う」
「わかんないー」
「でしょ?」
「そんな大事な話だったの?」
「どうかなー」
「なんで本人がわかんないのさ……」
「えへへ」
笑って誤魔化された。
……まあ、本人が気にしてないならいいか。
花畑を吹き抜ける風が心地いい。
気づけば太陽も少し傾き始めていた。
「そろそろ帰る?」
「うん!」
「あ、そうだ。そのお花、取っちゃだめだからね!」
「えっ」
「ぜったいだよ!」
それを言うと、リリは満足そうに手を振った。
「またねー」
「うん。またね」
家に着いたらお父さんがニヤニヤしてた。
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