第10話 『手を取って』
「いってきます!」
「いってらっしゃい、フィル。気をつけてね」
一人で家を出る。
昔はお母さんに手を引かれて歩いていた道も、今では見慣れたものだ。
この世界に生まれてから、もう6年。
地球なら、そろそろ小学生だ。
もっとも、この村に学校なんてものはない。
だから、師匠の家へと向かう。
魔法を学ぶために。
しっかし、継続は力なりとはよく言ったものだ。
魔力を巡らすおかげで、以前では息を切らしていた丘道も、普通に歩くことができるようになった。
三年前では考えられないことだ。
まあ、それができなかったらお母さんは、一人で行くことを許してくれないだろうが………
とにかく、ここ数年は変わらぬ毎日を過ごしたはずだ。
それなのに、随分と充実した生活を送っている気がする。
……友達はいないんだけどね。
──ひっく、うぅ、う、うぅ。
なんだぁ?川で楽しそうに遊ぶ声に、啜り泣く声が混じっている気がする。
(けがでもしちゃったのかな?)
もし怪我とかをしているなら、助けてあげないと。
ということで、いつもの師匠の家へ向かう道から外れ、寄り道をすることにした。
師匠の家へ行く時間は決まってないから、大丈夫だろ。
川へと向かって歩く。
川では、同じくらいの子供たちが遊んでいた。
そして、その少し先では、一人の女の子が、座り込んで泣いていた。
怪我をしているようには見えない。どうかしたのだろうか。
考えていては仕方がない。まずは声をかけてみることにした。
「どうしたの?」
ピクリ、と肩を震わせた。
全然泣き止む様子のないその姿には、怪我のようなものは一切見当たらなかった。
「あなたは、わたしがみえるの?」
鼻声となりながら、絞り出すような声で、そう問われた。
でも、僕の頭にはそんな様子なんて入ってこなかった。
(あなたは、わたしが見えるの?どういうこと?なにを言ってるの?)
いや、わからない。本気でなにを言ってるんだ、この子は。
見えているから話しかけたに決まってんだろ……
でも、周りを見渡してみても、この少女を気にかけている人はいないような気がする。
(え?ほんとにほかの人は見えてないの?)
そんなことを考えてる間にも、少女は泣き続けている。
話を聞くためには、まず泣き止んでもらうべきだろう。
「うん、見えてるよ。ぼくはきみがみえてる。だいじょーぶだよ」
「ほんと?わたしのこと、みえる?おはなししてくれる?」
そう言ってこちらを向いてきたその子は、目元を真っ赤にしていた。
きっと、ずっとここで泣いていたのだろう。
そして、その子の瞳は、馴染みのある黒い色をしていた。
しかも、髪も黒色だ。前世なら、なんにも思わなかっただろう。
でも、この世界で黒髪黒目を見るのは、これが初めてだ。
「うん、おはなしするよ!だから泣かないで?」
「うん……」
「ぼくはフィリアン!フィルってよんでよ!」
「ふぃる……」
「うん!きみは?なんていうの?」
「りりあーな……」
「いいなまえだね!じゃあリリ、よろしく!」
そう言って僕は、手を差し伸べてみた。
「りり……?」
あれ、手を取ってはくれなかった。じゃあ、お留守になったこの手はどこに?
「うん!リリアーナだから、リリ!いや?」
「……ううん、いやじゃない」
先程まで泣いていたその顔に、笑顔が灯った。よかった。
「よろしく!ふぃる」
目元が腫れているのに、その笑顔は不思議なくらい、眩しかった。
それと、リリはお留守になった手を握ってくれた。
いい子だな……
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけましたら、【ブックマーク登録】や評価の【☆☆☆☆☆】で応援していただけると嬉しいです!
皆様からいただいた応援を励みに、これからもフィリアンの物語を書いていきます。
これからも『疾風のフィリアン』をよろしくお願いします!




