第9話 『高み』
コンコンコンッ。
「ししょー!」
……
コンコンッ、コツンッ
「ししょー!あけてー!」
ガチャッ。
「……うるせえな」
やっと出てきやがったか。遅いんだから、全くもう。
「ししょー!まほー!」
「本当に毎日来る気かよ」
「あたりまえ!とーぜんのこというな!」
「はぁ」
師匠は本当にため息が多いよな。
「エドガーさん、またフィルのこと、お願いします」
「おうよ。たんこぶは一つまでにしといてやるよ」
えっ僕しばかれるの?
「優しくしてね?」
いや、優しくじゃなくて止めてよ!
◇
エリナと別れた後、僕らは昨日と同じ、師匠の家の庭にやってきた。
「ししょー!きのう、まりょくちゃん、うごいた!」
「本当か?やってみろよ」
「わかった!」
昨日も、家に帰った後にできるかを試してみた。
あんまり変わったわけじゃないけど、でも確実にできたと思う。
(まりょくは、いしでおす……)
腹の奥にある、温かいもの──魔力を、昨日と同じように押す。
………
───すっ。
「うごいた!うごかしたよ!」
「おう、動いたな。お世辞にも完璧とはいえないが、随分と吸収が早いもんだ」
なんと!まさか師匠がこんなに素直に褒めてくれるなんて。
「じゃあ、次はもっと遠くまで動かせ」
「とおく?」
「そうだ。さっきのは少し押しただけだろ?魔力を胸辺りまで動かせ」
「わかった!」
「よし!やってみろ!」
もう一度、意識を魔力へ向ける。
魔力が胸へと向かって動き始め──
──ピタッ
(あれ……?)
「ししょー、とまっちゃった」
「ああ、そうだろうな。そんな簡単に動かされちゃあ、魔法職の名が廃れるぜ」
師匠の顔に、ニヤリとした笑みが張り付いている。
(くそぅ、こいつぅ)
というか、全然教えてくれないじゃないか。師匠ならもっと教えてくれよ。
「ししょー、おてほん!ししょーもやれ!」
「ほう。わかった。やってやろう」
そう言った師匠は、腹の奥に集まっている魔力を、全身へと巡らせた。
(えっ)
その魔力の流れは、あまりにも自然だった。
まるで、手足を動かすかのように。
「フィリアン、よくみておけ」
そう言った直後、師匠の右手に魔力が集まり──
ドオォォーーン──という音とほぼ同時に、地面がえぐられた。
「これが、魔力弾だ」
土煙が晴れる。
それの着弾地点は、隕石を思わせる小さなクレーターが残されていた。
「………」
すごい、という感想しか、出てこなかった。
あるいは、魔力操作の難しさに直面してなければ、どうやったのかを聞きまくっていたのかもしれない。
その難しさを知ってしまったがために、その高みまで到達するための努力が、わかってしまった。
師匠には、魔法の才能があるだろう。だが、魔力弾を──しかもこの威力で使うのに、その裏にあったであろう努力を、想像せずにはいられない。
「………」
師匠が作り出したクレーターから目が離せない。
あれが魔力。
あれが魔法。
あれが夢にも見ていた、魔法使いの光景。
あれが、高み。
「見えたか?魔力操作は」
「…ううん。みえなかった」
「そうか」
師匠は、肩を竦めた。
「ししょーは、どうやってできるようになったの?」
「毎日だ。」
「まいにち?」
「毎日、魔力を動かし続けた。それだけだ」
そうか。師匠は、毎日やったんだな。なら僕も、毎日やらないとな!
「ししょー!ぼくもやりたい!まりょくだん、やりたい!」
「馬鹿言え。魔力の循環も満足にできないガキが、魔力弾を使えるわけないだろ。魔力弾ってのは、魔力操作で魔力を集め、打ち出すことだ。簡単そうに聞こえるが、そこが難しい」
「むぅ」
「だが───安心しろ、フィリアン。俺がお前を、すげぇ魔法使いにしてやるからよ」
「っ!」
今更気づいた。僕はこんなにも大きい背中に導かれていたんだ。
エリナやレオンは、師匠をすごい魔法使いだと言っていた。でも、あんまり実感は得られなかった。
それは、教えるのが下手だとか、態度が軽いとか。
僕が勝手に抱いていただけの、ただの偏見だったんだ。
もう一度、師匠の作り出したクレーターを見つめる。
今の僕には、到底届きそうもないもの。
だが、いつか必ず届いてみせる。
そのためにも──
「わかった!おねがいします!ししょー!」
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