第8話 『破門?』
「げっ」
「……なんだよその顔は」
「べんきょーは、やっ」
「昨日はあんなに楽しそうだったじゃねえか」
師匠は、呆れたようにため息を吐いた。
「まほーはたのしい。でも、べんきょーは、やっ。」
「それなら大丈夫だ。今日やるのも魔法のことだからな」
「ほんとー?ししょーあくまだから……」
「あ?」
「きょうまでに、もじぜんぶやれっていいそう」
「言わねえよッ!」
◇
師匠は一度咳払いをすると、僕の向かいの椅子へと腰掛けた。
「よし、それじゃあ魔法の授業を始めるぞ」
「わぁーい」
パチパチ。
その小さな手で、できる限りの拍手を繰り広げた。
「……お前、本当に勉強嫌いなのか?」
「まほーは、すき」
「そうかよ」
師匠は、苦笑を浮かべた。
「フィリアン、まずお前は、魔法とは何かを知ってるか?」
なんか師匠、先生役に合わないな。
「ししょー、にあわない」
「うるせえ」
「まほーは、ふしぎなやつ。ふしぎで、なんかつよくて、すごいやつ」
魔法は何か、と問われても、実際に体験したことはほとんどない。
だから、ふわふわした答えしか出てこなかった。
「まあ、魔法が最強なのは間違いねえんだが──」
こんな強面でも、師匠は魔法使いだ。魔法を使う者として、プライドでもあるのだろう。
「──魔法ってのは、技術だ」
「ぎじゅつ?」
「そうだ。魔法は、使い方を知らなければ使えないし、剣のように適当に振り回すこともできない」
「じゃあ、どうするの?」
「魔力に、属性を与えるんだ」
「ぞくせい?」
「そう、属性だ。炎、水、土、風、力、これらの属性を魔力に与えるんだ」
「かぜ!」
風ちゃんは来てくれなかったわけじゃなかったんだ。
風ちゃんはきっと、まだ魔力ちゃんだったんだ。
「おう、風な。風がどうした?」
「かぜちゃんだ!」
「……お前、その呼び方好きだなぁ」
呆れたように言われた。
「まあ、いいか。それじゃあ、まずお前には風魔法を教えてやろう」
「ほんと!?」
やったぁ!
「ああ、教えてやる。だが、その前に魔法の基礎からだ」
「えー」
そんなぁ。師匠の鬼!悪魔!じじい!
「文句を言うな。じゃあ、始めるぞ」
「はーい」
「じゃあまずは俺がやってやる。よくみてろ」
「わかった。かぜちゃん、やって」
師匠はふう、っと息を吐いてから、詠唱を始めた。
「風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》」
風が巻き起こった。
踏ん張っていないと吹き飛ばされてしまいそうだ。
エリナが使ったものよりも強い風だ。
「どうだ?みてたよな」
「……みてなかった。もういっかい」
「ちゃんとみてろよ!」
めんどくせえなぁ、とばかりの表情だ。
いいじゃんか。もう一回くらい。
「風よ、吹き抜けよ──《ウィンド》」
もう一度、風が起こった。
心なしかさっきよりも風が強い気がする。
もしかして、威力は調節できるのか?
「見たよな?もう一度はねぇぞ?」
「……はい。みました」
すごく睨まれてしまった。もう一回くらい頼もうと思ってたのに……
「よし。それならいい。次はお前がやってみろ」
「ぼく?」
「お前以外に誰がいるんだ」
「やりかた、わかんない」
「大丈夫だろ。二回も見たんだから、やってみろ」
やべっ。わざと二回やってもらったのバレてた。
そして、教えてもらわないとできないだろ。やっぱ師匠向いてねえなこいつ。
「わかった。やる。かぜよふきぬけよ──《うぃんど》」
ふっ。我ながら完璧な詠唱だ。
………あれ?風ちゃん?また迷子?
「………なんだぁ?その詠唱は。ふざけてんのか?」
なんかちょっと不機嫌だ。でも僕、ふざけてないです。真剣です。
「ちゃんとやった。かんぺきでしょ?」
「………どこがだよ。そんなにヘッタクソな詠唱初めて聞いたぞ」
ヘタ……クソ?そんなわけないだろ。ちゃんと師匠と同じように詠唱したぞ。
「お前、ちゃんと聞いてたか?」
「きいてた」
「そうか。お前には、まだ魔法を教えるのは早かったみたいだ」
えっ、見捨てられた?弟子入り2日目にして、見捨てられた?
「やだ!まほーつかう!もっかいやる!みてて」
「………じゃあ、やってみろ」
「わかった!かぜよふきぬけよ──《うぃんど》」
………風ちゃん?
今だよ?今こそ来ないとダメでしょう?
「やっぱりできてねえな。まだはええんだ」
そん、な。破門か。弟子入りして、即破門か。
「ししょー、ぼく、はもん?」
「そうは言ってねえよ」
「じゃあ、まだでし?」
「ああ、そうだ」
そうか!よかった!まだ弟子でいられた。
破門にされてたら、もう一回弟子にしてもらえるまで、馬乗りにするところだったぜ。
「まずお前は、まだうまく声も出せてねえだろ」
「あ」
そうか。そうだったのか。まだうまく話せないから、できなかったのか。
「じゃあ、もうすこしでできる?」
「そうだな、できるようになるまで、まずは座学と魔力操作だ」
「じゃあまりょくそーさ!まりょくそーさやる!」
座学も大切だと思うが、できないことを今習っても仕方ないだろ。うん。そうだな!
「さっきやったばっかじゃねぇか」
確かにそうだ。さっきやったばっかだ。でも、何回やっても問題はないはずさ。
「たしかに、魔力操作は大切だ。魔力操作を鍛えれば、詠唱を短縮することもできるらしいしな」
なんと!そんなこともできるのか!そしたら鍛えれば無詠唱でもできるんじゃないか?
「えいしょうなくても、できる?」
「いや、詠唱は必ず必要だ。詠唱なしじゃ属性が決まらなねえ」
そんな。無詠唱の夢がこんなに早く潰えるなんて。
「でもな、フィリアン。まずは勉強だ。お前には魔法について教えないといけない」
「えーやだーまりょくそうさが、さき」
「だめだ。魔力や魔法について知らず、なぜ魔力操作をやるんだ。と言うか、魔法の勉強は好きなんだろ?なんでそんなに嫌がるんだよ」
「ししょー、おしえるの、へただから」
「下手じゃねえよ」
「ししょー、そんなのはいい。はやくおしえて」
「こいつ!」
そんなにカリカリすんなって。ほうれい線が濃くなるぞ。
「こほん。では、魔法の授業を始める」
やっぱりこいつ、似合ってないって。
「まず、昨日も少し話したが、魔法を使うためには魔力操作が必要だ」
「ほー」
「……魔力操作が上手いと、術式は簡略化できる。だからお前には、まず魔力操作を完璧にしてもらう」
「もうできるよ!かんぺきなまりょくそーさ」
「……お前は、まだ循環もできてねえだろ」
「そんなことない!ぼくのかくされたさいのうが、これからかいかするから!」
そう、僕はまだ本気を出してないのだ。
……多分。
「……そうかよ。」
苦笑やめて。師匠、苦笑やめて!
「さあ、始めるぞ。」
「はい!ししょー」
「よし。では、まずは魔法の階級についてだ。魔法には、五段階ある。下から順に、下級、中級、上級、特級、王級──」
「ししょー」
「なんだ?」
「ながぁーい」
「……最後まで聞け。その五段階の魔法には、それぞれ種類がある。攻撃魔法なら、炎、水、風、土、力。そして補助魔法には、回復、浄化とある。」
「わかった!じゃあ、ためすためにはやくまりょくそーさ!」
「……お前なぁ」
師匠。もういいじゃないですか。さっさと魔力操作に移りましょうよ。
「仕方ねえな。じゃあ、次が最後だ。これを聞いたら実際にやるぞ」
「はいっ!わかりました!さいごまできく!」
「調子のいいやつだな。全く。」
調子のいいやつで、何が悪いんだよ。
「魔法を使うためには、詠唱で術式を作ると言ったな?」
「うん!」
「術式には、色々なことをする役割がある。まず、魔力に属性を付与すること。そして、属性付きの魔力を、魔法として打ち出すことだ」
なるほど!つまり風ちゃんは、魔力ちゃんの着せ替えバージョンだったのか。
「属性を付与するために、詠唱は必要だ。だが、一度属性を付与した魔力は、魔力操作の応用でも動かせる。だから、魔力操作を極めるんだ。そしたら、今のお前でも魔法は使える。」
「ほんと!?いまでもできる?」
「まあ、今の制御力じゃ出来ねえが………10年くらい修行したらできるんじゃねえか?」
「と、とおい」
本当に遠いよぉ〜。才能があって10年もかかるのかよ。
てか、師匠はできるのか?
「ししょーはできる?」
「俺は、できない。魔法を使って、もう30年は経つが、できる気がしない」
師匠でもできないのか。そんな技術は………僕ならできるな!
だって、2歳で魔力感知だもんな!
「じゃあ、ぼくならできるね!」
「……まあ、せいぜいがんばれ」
そんな顔をしないでくれ、師匠。
「さて、話はもう終わりだ。魔力操作に戻るぞ───」
「やったぁ」
「と、言いたかったんだが。エリナがお前を迎えにきたようだな」
「えー。ししょー、とまってく」
「ダメに決まってんだろ。俺がエリナとレオンに怒られる」
「いいじゃん。でしのためにおこられて」
「いいわけねえだろ。今日はもう帰れ。そして明日も来い」
あらやだ……師匠ったら、ツンデレなんだから!
「はぁい。じゃあ、まいにちくるね!」
「おう、そうしやがれ」
弟子入り2日目の授業は、師匠のツンデレにて、幕を閉じた。
そして、頑なに僕の才能を認めてくれない師匠は、ムカつくな。
僕の持ってる才能は、こんなもんじゃないってのに。
……多分。
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