ワープ・イン・ザ・カオス
「ここがポイント?」
「えぇ。そうです」
ふむ、確かに安定性高そうな場所だ。はっきり言えば何も無い場所、いわゆる深宇宙。近くに恒星や木星型惑星があるとその重力でハイパードライブへの影響が懸念される為、こういう影響少なそうな場所が出入口になりやすい。
「周囲に艦影は無いさそうかな?」
レーダーや光学機器による観測でも反応が無いため、近くに誰かいるって事は無さそうだ。
「何か、あるのですか?」
「まぁ、ちょっとね。今からワープを行う」
微妙な違和感から疑問符を浮かべているガブリエルを見て軽く笑う。無理も無い。一般的にワープと言えばハイパードライブの事なんだが、今からデネブが行うのは別のワープだからな。
「これより本艦は超時空潜航に入る。アンカー起動、座標固定、観測誤差計算及び修正。目標α-ラミヌ」
ワープシステムが起動され、様々なコンソールが一気に稼働しだす。
「機関最大、ワープシステム起動!各員衝撃に備えよ!」
デネブの機関部がフル回転を始め、目の前にエネルギーの膜を作り出す。高密度エネルギーにより超時空への隙間を開け、そこに飛び込む為だ。スラスターが全力で炎を吹き上げ、デネブを超時空へ推進させる。
「ワープ!」
その瞬間、一瞬の浮遊感と共に視界が変わる。周囲の空間は重力レンズ効果により輪郭を無くし、滲み混じり合い、ドップラー偏移による色相変化で赤と青と、それらが混ざった紫色をしていた。余剰次元に折りたたまれた空間は無数の曲面と断面を以てまるでトンネルにも液体の中にも見え、正しく超時空と言うに相応しい空間だった。
「これは……これは一体なんなんだ?ミクマ…」
「ワープだよ。ここは超時空。ハイパースペースとはまた少し違う高次元空間なんだけど、まぁざっくり言うならハイパースペースの似た様なもんかな。同じ、ノーマルスペースから飛び出た場所だからね。厳密には違うけどってヤツ」
「…適当だな」
「使えれば問題ないってヤツよ」
肩を竦めて応える。理屈で言うと、超弦理論を元に時空間を超越した高次元空間である超時空へアクセスし、空間の移動距離を物理的にショートカットする事で跳躍するらしい。ハイパースペースと違うのはその移動の仕方であり、ハイパースペースはFTLの延長で通常の超光速ドライブよりも更に速度を出せる安定した高次元空間へアクセスし超短時間での移動を可能にする技術で、例えるなら、速度制限が存在しない高速道路を超々高速で走るのがハイパースペースで、物理的に縮まった道路へ跳ぶ事で最短経路での移動を可能にしてるのがワープだ。まぁ、詳しい内容は物理学専攻して無いので良く分からないんだけど。
「しかし、ワープと言うと、あのワープか?」
「そう。そのワープだと思うよ。時空間歪曲型空間跳躍航法、『超時空航行システム・W.A.R.P』。まぁ、ぱっと想像して出てくるやつだよ。多分」
若干ドン引きしてるっぽい顔してるが、流石は元軍人、上手いこと顔に出ないよう耐えて隠してるね。凄く分かる。何せワープは一般的では無いもんね。と言うより…。うん、まぁいいかどの道秘匿事項だし。
「とりあえずあんまり言っちゃダメだよ?機密って事になってるから」
「…あぁ、勿論だ。しかし大丈夫なのか?こうして使っても」
「うーん、計器の反応だけで言うなら、実はハイパードライブとあんま変わんないから。それにデネブはハイパードライブも出来るから、他に艦いたら一緒に飛べるよ」
当然である。機密保持の為の偽装用という意味もあるが、ハイパードライブは多くの恒星間航行艦に搭載されている航行システムだ。艦列を保つという意味でも搭載は必須で、両方搭載されているからこそ、自由に切り替える事で多くのメリットデメリットを受け取れる。
「……一体お前は何者なんだ?」
「ただの傭兵だよ。ただの、身元不明で胡散臭くて、とびきり強い戦艦を持ってるだけの…ね」
そう笑って見せると、はっきり分かる程度には怪訝な顔で、一旦疑問を飲み込んでくれたようだ。
「ま、とりあえずは、このまま目的地に着くまでは休憩タイムだよ。ほーらリラックスリラックス」
「どのくらいで着くんだ?」
「お、良い質問だねー……予想潜航時間は41分だって」
コンソールに表示されている画面にそう映っている。ワープ時の艦の状態や超時空の状態、予想到達時刻等色んなパラメータがあり、コレだけ見ると、ゲームやナビアプリの画面に見える。
「早いな」
「そりゃワープだしね。流石に0タイムは無理だけど、短距離なら限りなく近く出来るよ。あとワームホール使えば0タイムワープ出来るけど、それは他の船も同様だね」
ワームホールとはそういうものだ。空間が歪曲して直接繋がった穴の事だからね。それを通れば隣の部屋に移動する程度の時間で空間ジャンプは出来る。
「…少し頭が痛くなってきたな」
「だろうねぇ、まぁどうせ着くまで時間あるし休んだら?何かあったも操舵あるから艦橋に居るし席外しても良いよ…ところで敬語、取れてるね。別に怒ってる訳じゃないけど」
「おかげさまでな。これだけの事があれば誰でも取れるだろう?単艦でのワープなど、一体どれだけの船が出来るか…」
眉間に皺を寄せて随分渋い顔をしながらガブリエルは艦橋を出ていく。あまり考え過ぎない方が良いよ、と俺が言っても助燃剤放り込むだけなので黙って見送る事にする。
「ワープアウト前には全艦放送で通知流れるから、それ流れたら艦橋戻ってきてねー」
軽く手を上げ返事をしたのを確認したら、コンソールを1度確認し、俺も席を立つ。
「ただ待ってるだけじゃ、暇だしねー」
主操舵手席に座り、席の接続を外す。コレで思い切り舵を切ってもデネブが回頭するなんて事が無くなる。今からやるのは実に単純、シュミレーションによる戦闘訓練だ。ヘッドギアを付けシュミレーションを起動し、AIレベルを最大レベルに設定する。この前の模擬戦で苦戦したから、こういう暇な時間の有効活用という意味でも訓練したい。正直ちょっと自分の腕に不安覚えたからね。
「ま、30分と言ったところかねー」
シュミレーション時間を設定する。30分みっちりの戦闘ミッションだ。自前の艦の操作系でシュミレーションするから多分この前ほど苦戦はしないと思うが、それでも最大レベルは強いからな。油断は無く行こう。
「さぁ、飛ぼうか。どうせ仮想の宇宙なんだ…自由に…派手に!」
全くいつだって最高だな。この全力全開で加速する時の感覚は。この瞬間だけは最高に自由だって感じがする。
―
『ワープアウト5分前です』
アナウンス音声が流れる。いつの間にかそんな時間らしい。まぁ、当然か。シュミレーションとその感想戦してたから体感としてはかなり短いが、ミッション終わった時点で最低でも30分経ってるんだからそんなもんだ。逆にワープアウトまで、まだあと5分もあるんだって感じだな。とりあえずヘッドギアを外し席の接続戻して、艦長席に座る。ちゃんと接続直さないと操舵しようって時に出来ないからね。まぁ、艦長席に操縦桿あるんだけど、一応コレ、サブなんだよね。主操舵席が本来の操縦桿、実はサブで動かしてる今が間違いだったりする。と言っても操作感変わんないし、せいぜい細かなインジケータやパラメータ見れないだけだ。それだってコンソールに別途出せば良い。
「そろそろ到着か?ミクマ」
「だね。念の為、レーダーで周囲の監視お願い」
「了解。だがそんなに危険があるのか?」
「無いと思うけど、ワープアウト時ってどの船も無防備だからね。戦艦も同じ。アウト先に機雷原とかあったら飛び込む事になるし、レーダー反応からワープアウトのタイミング予測して対艦魚雷撃ち込むとか」
まぁ、そんな腕があるなら正規の仕事で十分稼げるので宙賊にする心配では無いが、もしジャイアントキリング狙うなら、俺はそうする。それ抜きでもワープアウト地点ってのはただでさえ狙われやすい。ハイパードライブにしろワープにしろ、出入口に出来るポイントは大体決まってるしからね。
「成程。では特に艦影には注意しておこう」
「そうして。機雷は……まぁ無効化装置とか付いてなきゃシールドで弾けるからどっちかって言うと爆風でのノイズの方が怖いかなー」
「確かにな。それにも一応注意しよう」
「おねがーい」
『ワープアウト1分前です』
お、そろそろだな。操縦桿を握り何時でもマニュアル操作が出来るようにしておく。無いとは思うが、ワープアウト後、戦闘行為及びそれに準ずる何かがあれば即座に最大戦速にして逃げる為だ。
『ワープアウト10秒前、9、8、7…』
「よし!ワープアウト!」
ワープイン時と同じ一瞬の浮遊感と共にノーマルスペースへ帰還する。極彩色のトンネルから宇宙の暗く、静かに佇む景色に、帰ってきたという安心感と、補色残像による眩しさで、カラフルさを強く感じる。超時空は正に超時空的過ぎて、どうしても違和感や不安感を覚えてしまう。それはガブリエルも同じの様で、一瞬だけホッと息をついたように見えた。
「索敵、周囲に艦影は?」
「ありません」
レーダー反応は無く、光学機器による目視の確認も敵影見当たらず。実に良い事だ。
「よし、警戒態勢を維持しつつ、セントラルコロニーへ向かう。超光速ドライブ起動」
「了解。超光速ドライブ起動」
警戒はしておくに越したことはない。何事も最悪の一歩前になる前提で動く方が、色々と気持ちが楽だからな。
「さてと、素敵な出会いがありますように」
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