大型船舶が出港する時はテープ投げしたくなるよね
「そういえば先日、随分と大暴れしたらしいな。ミクマ」
「ナンノコトデスカネー」
かなり大きい旅行カバンを両手に持ってやってきたガブリエルが開口一番言ってくる。なんだろうなぁ、身に覚えがないなー、なんてとぼけてみるが無意味らしく鼻で笑われた。
密輸業者相手に大立ち回りしてから、およそ3日後、大人しくデネブで静養していた所に、ガブリエルがやってきた。曰く旅の支度との事だが、なんの用意をしていたかは聞かない。手荷物からして推測出来るため、余計な薮を突きたくないから。
「大手柄だったと聞いたぞ?かなり手荒だったとも」
「まぁ、早さが命なんでねー」
「そんなものか?それより荷物届いてないか?」
「荷物?あー、自動配送で搬入されてるなら貨物室にあると思うけど、何か買ったの?」
「生活必需品だ。まとめ買い出来るやつを買ったんだ。貨物室見てきても?」
「どーぞー」
軽く手を振ると、微笑みながら部屋を出ていく。あ、確かにガブリエル宛でログあるな。10kgちょいあるけど何買ったんだ?うーん、まぁいいか。別に10kg20kg程度誤差みたいなもんだし。
「ついでに確認しとくか」
デネブのデータベースを開き、各種パラメータを見る。水、食料、燃料、推進剤、弾薬から、艦内設備を動かす為の工業用素材等、充足率は全て100%を超える。とても良い事だ。足りないで困る事はあっても多くて困る事は少ないからな。特に長期間活動したり補給いつ出来るか分からない艦艇はな。
「うーん、一応、消耗品もう少し買っとこうか。水と食料はちゃんとあるし、うん、大丈夫かなー」
大量に人が乗ってる訳で無し、食料や消耗品の必要量がそんな多くないのが救いだが、水は空気にも使うから、多め多めに仕入れとかないと、慌てながら小惑星採掘する事になるし、燃料や推進剤が不足したら座礁する。流石にそれは嫌なので空いてる貨物室に余分に入れといてるが、ちょっと多過ぎる気がするのは俺の心配性だな。
「セルフチェックもオールグリーン。何時でも出れるが、どうするかなー」
簡易診断とメンテナンスシステムによるチェックには一切の不備は見当たらないらしい。ま、戦闘もしてないし、バースに停めてるだけだから当たり前だが、それを抜いてもちゃんとシステムが動いてる証左だからホッとする。しかしそうか、何時でも出れるか。マップもあるし目標座標もある。物資も揃ってあるのだから、あと必要なのは出港の意思だけか。
「戻って来たら相談だねー」
貨物室で箱を開け中身を確認してるガブリエルが見えたのでそっと画面を消しコーヒーを入れに席を立った。3杯は飲めそうだなこりゃ。
―
「それで、どうする?」
「何がだ?」
「出港。何時が良い?」
戻ってきたガブリエルにコーヒーを出しながら聞く。
「私の方は、もう準備は全て終わったから何時でも良いぞ。そっちも?」
「うん。見ての通り、物資の充足率は100%を超えてるし、艦の状態はオールグリーン。同意が何時でも。俺はほら?元より傭兵、思い立った時に出ればいいから」
「なるほどな。だから何時がいいかの確認か」
「そ。艦長だしね。スケジュール調整とかも俺の仕事。一応予定してた日付は1週間後くらいだけど、情報収集とかを考慮した日付だからね。目的地の座標手に入った時点で、あまり意味の無い予定かな。」
傭兵が欲しい情報は基本的には航路と相場と各派閥や勢力の動向程度。それなら何処で手に入れてもいいし、現地の情報仕入れたいなら大人しく現地行った方が手っ取り早い。大まかな予測は出来るが、結局情報伝達にタイムラグがあるなら予測止まりだ。古い情報ってことになるからね。
「では、今から出るのか?」
「それを悩んでる」
「なら出ようか。どの道、着くまで時間かかるだろう?」
「それもそっか。なら艦橋に上がる。オペレーター任せていい?コレ操作マニュアルね」
「分かった。任せてくれ」
ま、心配はしてないが念の為にサポート出来る様にだけはしとくか。デネブは足回りの仕様がちょっと扱いめんどくさいからなー。推力高いから制動が少しね。
「…ところでこのマニュアルの封じられてる部分って何があるんだ?」
「やっぱり気になるかー。うーん、ざっくりで良い?」
「もちろん」
「えーっと、ざっくり言うと、ジェネレータと艦のシステムと航法装置の事書いてあるんだけどー、ぶっちゃけ機関士や整備士とかじゃないとあんま関係無いから気にしなくていいよ」
「そんなものか?」
「それに、正直な話、特にジェネレータやシステムの詳細はあんまりね。下手に知ってる人増えるとリスクがあるから。別にガブリエルを疑ってるわけじゃない無いが、情報の保護や安全確保の問題」
「なるほど。いじられても困るって事か」
「そういう事。少なくともデネブを運用する上での必要最低限の知識は読める範囲にちゃーんと書いてるから、ブラックボックスでも問題無いのよ」
「…ミクマは知ってるのか?」
「もちろん。マニュアル全部読んでるし、俺の船だから。概要やデータ見るのは結構好きなんだよ」
廊下を歩きエレベーターで第1艦橋へ上がる。相変わらずコンソールが消灯された暗い部屋でボンヤリ光りながら仕事をしていて、扉を入るとライトと共にコンソールも省電力状態が解除され画面が一斉に表示される。意外とこれ好きなんだよな。カッコイイし。
「適当に座って。一応、そことそこが通信士の席になってる」
「…適当で良いのか?」
「どうせシステム的に全部繋がってるし、操作できるから。あくまでもそれ用の席ってだけで、専任いない時も大丈夫な様に何処からでも操作可能にされてるんだよ」
ある種の冗長性、それだけ高度な技術を使われてるって事なんだが、1番の理由は省人化である。人件費ってのは案外馬鹿にならないのと、人は少な過ぎても宜しくないが多過ぎるのもまた問題だ。そのためデネブはオートメーションにより必要最低限の人数で動かせる様にされているし、こうしてやろうと思えば1人だけでも動かせる。それもあり操舵や火器管制は艦橋でやる必要はあるが、逆を言うとそれ以外は何処からでもアクセス出来るようにはされている。
さてと、艦長らしくちゃんと仕事しますかねー。
「発艦準備。管制に発艦申請出せ」
「発艦申請出します」
「エンジン始動、メインシステム巡航モードへ移行。許可が下り次第ドッキングを解除」
「許可が下り次第ドッキングを解除します。……許可下りました。ドッキングを解除します」
バースとのドッキングが外れ艦が微かに浮き上がる。
「微速前進、出港する。周囲状況には十分留意せよ。特に周囲の艦艇の動きは注意を厳に」
「了解。周囲状況に留意します」
ゆっくりと動き出したデネブを宇宙港の出入口へ変針させる。もし接触事故なんて起こした日には、大質量なデネブでは結構洒落にならない大事になりかねないし、間違いなく片方もしくは双方とも破損する為、修理費も馬鹿にならない。操舵にしろレーダーオペレーションにしろ周辺状況を留意しておく事に越したことは無い。
「…しかし、大型艦が動くとやっぱ派手だねー」
「そうですね。戦艦級では尚更でしょう」
仕事モードに入ったらしいガブリエルが敬語になってる。真面目だねぇ。良い事だけど性格だろうなコレは。普段からオンオフ分けてるんだろう。実際その方が楽だろうし互いに損は無いのだから何も言わんが。
「紙テープでも投げる?」
「その後の清掃は誰がやるので?というかなんです?それ」
「あら知らない?でっかい客船が出港する時に港にいる人に向かってテープ投げるんだよ。握手の代わりなんだっけかなー。ほら客船程の大型船舶だと堤防から遠いから」
まぁ、俺も生で見た事無いけど。映画とか映像でならめちゃくちゃ見たんだけどね。往年の映画大好きだったし。
「知らないですね。そもそもコロニーでやるものなんですか?」
「言われてみれば確かに。無重力とか低重力でやったらエラい事になりそうだなー。じゃあ惑星の港で水に浮かべてる時にやろうか」
「やりません。どれだけやりたいんですか?」
やらないそうです。ロマンだよロマン。まぁ、アレは客船がやるのが良いのであって、戦艦がやったらそれは竣工式になっちゃうしね。
「ゲート通過、出港する」
ガイドに従い宇宙へ出る。出入りする艦艇とすれ違いながら少し離れた位置に移動し、機関部の出力を上げる。
「面舵20。両舷、機関原速」
一瞬、加速による慣性で微かに後ろへ力を感じる。やはり重いと加速が鈍いか。それでも同サイズでは高速な部類だから、そこまで立ち上がりが悪い訳では無い。やはり加速性や最高速は小型になればなる程高いというだけだ。
「FTL起動、超光速ドライブに入る」
「FTL起動、超光速ドライブに入ります」
数分加速し、原速となり十分加速が得られたのを確認し、超光速航行システムを起動する。超光速ドライブに入った瞬間、星が後ろに流れ、光跡の様になる。
「確か、この先にハイパードライブのポイントあるんだっけ?」
「はい。このまま暫く直進した位置に重力が安定してるポイントがあり、ハイパースペースの出入口に適しているとの事です」
「よし、このままポイントまで直進する。ヨーソロー」
「進路了解。ヨーソロー」
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