狩りの鉄則は退路を断つ事と当たる時に撃つ事
「はぁはぁはぁ……ちくしょう!なんでこんな事に!」
なんでだ!なんでこんな事になった!なんなんだよアイツ!なんでこんな…なんで…
「ちくしょう!オレたちが一体何をしたって言うだよ!」
叫んでも何も変わらない。現実は非情だ。銀色のアイツは、オレたちがいくら撃とうと、まるでスプリンクラーの放水を浴びてるかのように平然とまっすぐ歩いてくる。まるで歯が立たない。ヤツのシールドはオレたちの豆鉄砲程度ではノックバックすら起こらない。軍用グレードにしても硬すぎる。最新鋭の試作機と言われたって納得する。
『どうした?痛い目を見せてやるのでは無かったか?もっと楽しませてくれよ』
まるでコレはゲームだ。一方的なハンティング、むしろおもちゃを壊れない様に丁寧に遊ぶ猟犬の様だ。ワンサイドゲームと言う言葉すら足りないくらいの蹂躙。これは悪夢だ。
『捕まえた』
その言葉と共に思い切り首を掴まれる。片手で、足が軽く浮くほどの力で思い切り締め上げられ、残りかけのマスタードを思い切り絞った様な声にもならない声をあげる。
『なぁ、お喋りしようか。君の仲間の人数と拠点の位置は?一番偉いのは誰か教えてくれるか?』
締める手の力を強めながら聞いてくる。無機質に光る目からも、オレたちの事を人とすら思っていないと分かるほどの冷徹さと、どこまでやったら気絶するか理解している正確さが、よりこの苦しさを増長させる。
「…グッ…コカッ…誰が…教えるかよ!」
潰れかけた喉を振り絞って回答を突きつけ、文字通りの鉄仮面目掛けて唾を吐く。予想していたのか、はたまた、心底どうでも良いのか、軽くふむと頭を傾げ、手を離す。たすかっ
『……なぁ?『歯医者』って…知ってるか?』
あ、たす、かぁちゃ
―
『まさしく鎧袖一触というヤツだな、コレは。ダックハントだってもっと歯ごたえあったぞ全く。最近の犯罪者は軟弱だな』
強化戦闘服のヘルメット越しにそんな愚痴を言う。戦闘にすらならない程一方的で、気分はアリの巣にアルミニウム流してる様な、そんな空虚で作業で、そして絶対的力の差による全能感でごちゃまぜの気分だ。何せ相手の銃はレーザーガンといえど所詮民生の型落ち拳銃、シールドで完封できるし、こっちはゆっくり狙って撃つか近接して殴打でもすれば、戦闘服により身体能力を強化してる為、安易に鎮圧できる。アーケードのシューティングゲームの方が余程難しい。
『賞金も期待できんな。これは。むしろ情報提供の褒賞金の方が高そうだ』
死屍累々の惨状を見て思う。現時点で対峙したのは24人、うち3人は射殺、1人は蹴りによる胸部圧迫で死亡。残る20人は全員拿捕。再起不能は4人だ。肉体的には軽傷だから、先進医療バンザイと言うやつだな。せいぜい貫通した銃創くらいだろう。
『可哀想にな。素直に投降してくれれば良かったのに』
実に他人事だが、まぁ実際に大人しく投降して情報提供してくれたら手錠かけるだけで終わったんだから仕方ない。手間が増えた割には歯ごたえも無く、本当に手間取っただけなのが癪に障る。
『はぁ…まぁいいか。お陰で少なくとも装備の強さは証明出来たんだからな。ここからは後詰といこうか』
手に入れた情報から予想される拠点に奇襲をかけに行く。こういう手合いは情報共有だけは早いし的確だから、叩ける時は一気に叩くのが基本だ。
『全く、無駄に多いのはタチが悪いな』
―
遡ること20分前。
「あー、もしもし?今って話せる?ガブリエル」
『あぁ、構わないがどうした?』
「いきなりだけど、素行悪い傭兵や、あまり大きい声で言えない阿漕な商売してる企業がよく使うポートって何処?」
『ドアと共に家に飛び込んで来たな。何かあったのか?』
電話口に呆れた声が聞こえる。目の前で見てるかのように顔を想像出来るんだから凄いな。実は出会って24時間も経ってない可能性あるのに。
「仕事。それで?ありそう?」
『ふむ……これと同じものを3着いただけるか?……あるぞ。心当たりが』
あら買い物中だったか。ん?同じの3着?まぁ気に入ったのかな?俺も好きなデザインは複数買うし気が合いそうだ。じゃ無くて、心当たりがあるのか。やはり聞いといて良かったな。ついこの前まで沿岸警備隊をやっていたのなら、そういう暗い場所の1つくらいは知っていると思ったのは正解だった様だ。
「聞かせてもらえる?」
『商用港の第4ポートだ。あの辺は区画整理や諸般の事情で警備システムにムラがある。改善しようにも如何ともし難いんだ。表向きには何も違反行為を行ってはいないからな。どれだけ怪しくても証拠が無ければ動けん』
「仕方ない部分だよな。わかった第4ポートね」
『あぁ、あそこは小型艦に乗る傭兵が多い。中でも、特にらしい奴らがよく使う。行けば何かしら聞けるだろう』
「ありがとう。後で何かお礼するよ」
『あぁ。期待して待っておく』
通話を終え、早速向かう。その際にいくつか、ちょっとした小細工を用意するが、大した事は無い。ただ、強化戦闘服のアーマーを外しジャケットを上から羽織り、口元以外を覆うフェイスガードを付けるだけだ。ここは宇宙的世界観、サイバネティックスは広く普及されていて、生命維持や知覚強化、現実の拡張に鉄仮面を付けている人間もそう珍しくはない。バイカーがフルフェイスを付けている様な、工場や建設作業員がヘルメットを付けっぱなしにしている様な、その程度の、珍しいがよく見る光景である。それも特に、頑強そうな生地で作られ、露出を限界まで抑えた長袖長ズボンを着た人間なぞ、傭兵か軍人かはたまたその両方かと誰でも分かる為、一人で人気の無い所をふらついてても誰からも何も言われることは無い。
第4ポートに入ると、雰囲気が変わった。空気感というか、確かに、あまりタチの良くないヤツらが多そうだ。傭兵というはみんなお行儀が良い訳ではないし、むしろ悪い人間の方が多い。良くも悪くも、荒事を生業にするから当然だし、身を崩して傭兵になる者や、軍や企業に入れなかったから傭兵やってる奴もいる。となれば、仕事で出た不用品の処分に詳しい連中を良く知ってる奴がいても不思議では無いだろう?
「やぁ、すまない。ひとつ聞いても?」
その中でも特別タチの悪そうな傭兵に声を掛けた。見るからに粗野で粗暴で野蛮人と言いたくなるような傭兵数人組だ。
「あ"?…誰だテメェ」
「同業者だよ。コレ見えない?」
軽くフェイスガードを指で突く。それで身なりには納得した様だが、話しかけられる理由は分からないようだ。
「で?何の用だ?」
「なに、1つ質問したいんだ。不用品の処分についてなんだけど、業者紹介してくれないか?少し多くてさ。粉モノとかね」
そう言われたリーダーっぽい男は一瞬目を細め、俺の腰を見た。そりゃ銃くらい持ってるだろうさ。お前らも持ってる癖に、周囲にはやたら厳しいんだよなー。
「……ココじゃなんだ。付いて来い。奥で話そう」
「良いねぇー、コーヒーでも飲みながら話そうよ。美味いアイスでも食べながらさ」
お、警戒心を少しは解いてくれた様だ。ま、何をするにしても人目に付くのは良くない。お互いにな。軽く歩き路地に入る。おそらくは保守点検用の倉庫か何かの陰。確かにコレでは中々監視システムを十全にと言うのは難しいかもな。俺にとっては好都合だが。
「…で?業者は何処だ?可能な限り全て答えろ。死にたくなかったら、素直に喋る事だ。何せ、ココにはあまり人が来ないんだろう?でなければ、君達自身が案内する訳が無い」
路地に入り相手が立ち止まった瞬間に、近くにいた2人を思い切り格闘を当て鎮圧し、リーダー格を締め上げる。身体能力の強化は程々とは言え、生身の殴り合いには十分だ。身体能力が一般人程度の俺でも油断した人間くらい何とでも出来る。
「ほら?どうした?お喋りは嫌いか?……なら仕方がないよなぁ?…体に聞くとしようか」
締め上げる力を強めるとミシミシと軽く骨が軋む感触が伝わる。うっかり折らないように気を付けないと。
「…なぁ、『歯医者』って、知ってるか?…ふふっ、1度言ってみたかったんだ」
さて、何分で音を上げるか、根比べと行こうか。
―
そして、優しいお喋りの末、情報を得たので全身にアーマーを付け、冒頭へと戻ってきた訳だ。情報は鮮度が命、手に入れてから強襲をかけるまで10分程だが、それでもうっすら逃げようとした雰囲気ある辺り、裏の情報網は本当に保身の事だけは早いんだなと思う。裏取引をやっていた傭兵は、情報提供に免じて自首を促すと同時に、素直に知ってる事を軍の取調室で喋る事を約束させて解放した。おそらくは間違い無く自首するだろう。何せ、懇切丁寧に優しくしてやったんだ、逃げたらどうなるか嫌でも分かるだろう。それに裏取引だけなら自首すりゃまだマシな監獄に送られるだろ。まぁ、同室の囚人が元宙賊だったらご愁傷さまだが自業自得だ。
『結局、片っ端から関係者襲撃して、捕縛出来たのは70人か。ま、中には知らずに加担してたのも居そうだが、知ったことでは無いな。現場に居たのが悪い。無罪主張をせいぜい頑張るといい』
物資倉庫や取引現場、各組織の本拠地と思われる場所等、得た情報を端から精査して行って、その結果は大半が真だったということになる。正直に話してくれて嬉しいよ俺は。
『…まぁ、事後処理の方が大変か……はぁ…』
ため息を吐きながら、組織のリーダーらしい男を引きずりながら建物を出る。このコロニーの密輸業者で一番偉いらしい。そして案の定、騒ぎを聞きつけてやってきた軍警に投げ渡しながら、ライフルを壁に立てかける
『俺は傭兵組合所属の傭兵だ。依頼を受けて捕縛しにきた。犯人の逃亡防止で強行した。騒ぎを起こしてすまなかった。必要な行為だったと言い訳させてくれ』
訝しんでる軍警を横目に、依頼の受理表を見せる。ついさっき受理されたばかりの正規の依頼書なので、全くの合法だ。可能な限り生かした状態で捕縛するために急所外したり格闘を使ったから、まぁまぁ大きい騒ぎになったが、民間人、と言うよりはカタギには被害出てないので、特に過失は無いはずだ。
「……確認した。確かにその様だ。しかし、少々手荒すぎるぞ」
『済まないな。あまり丁寧にやると、その間に逃げられてしまう。あとはそちらに任せるよ』
「分かった。任せてもらおう。だが念の為に一応同行いただけるかな?報告もあるのだろ?ついでに捕らえた人数や賞金の確認も行おう」
『それは助かるな。ではお願いする。送って行ってくれ』
「あぁ、では着いて来たまえ」
案内され、軍警の車両に乗り、軍警本部で処理してもらう。その場で確認が取れた者の賞金を受け取り、確認が取れない者は、取れ次第振込みしてもらえる事になり、流石に少しやりすぎとの事で軽く説教を受け、帰宅していいと言うことになった。
『流石に疲れたな。とりあえず艦に戻って装備のチェックと整備したら、ゆっくりしようかね』
そんな事を思いながら、艦へと徒歩で帰る。そして帰路の中ぼーっと考えるのは自分の事。何も躊躇が無かった。人に銃を向け引鉄を引く事を。殴り蹴り、締め上げる事を。傭兵としては良い事だ。だがほんの少しだけ思うのは、人として間違ってるのでは無いのか、向こう側へ行ってしまっているのでは無いか。
『賢者タイムと言うやつか?……まぁいいか。どうせどうでも良い事だしな』
そう、どうでも良い事だ。どうせ相手は犯罪者、しかも抵抗してきたのだから、自己防衛のためにも撃つだけだ。賞金首を撃てば飯が食える、依頼をこなせば生活が出来る。ならそれで良い。
「少しは傭兵らしくなったって事かな」
マスクを外しながらそう呟く。もう既に終わった事なら受け入れるだけだしな。終わった事だからこそアレコレ考えれるって言われたらその通りだが。
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