出会いはいつだって不意遭遇戦
登場人物の豆知識
ガブリエルの趣味は飲酒。ブランデーが好きで、特にお気に入りはカルヴァドス。
「おー、大っきいねぇー」
「どちらが?」
「どっちもかなー」
目の前に広がる景色に感嘆する。ホント、実に大きいねー、冷ややかな視線を感じるけどソッチは見てないんだけどなー。見てもいいならかぶりつき席で見るが?なんて言ったら宇宙に放り出されそうだから言わない。なんなら何も言ってないのに、すごい怒られそうな気配してるし。
「F型?G型?何となく白っぽい気がするからFかな?」
そう思って解析してみると、やはりF型だった。
「F7V、半径は太陽の1.2倍か。やっぱ大きいな…ハビタブルゾーン遠いなー、公転周期ざっくり1年半ねぇ」
解析データを見ながらそんな感想を呟く。ふーん、表面温度は6270K、光度は太陽の約2.15倍ねー。すっごい普通の恒星だな。まぁ、変な恒星ならコロニーなんて置けないし資源開発なんて気軽に出来ないし、人がいる時点で宇宙的には普通の星系なんだろうね。
「ん?もう大分近いな。…管制に入港申請。着艦許可取れ」
「了解。入港許可申請します」
FTLを解除し、マニュアルで移動させる。オートパイロットは優秀だから間違っても衝突事故等は起こさないが、細かい操作はやはりマニュアルの方が効く。とは言っても大型艦に小回りなんて物を求める方が間違いなので、より直感的に動かせるってだけだな。感覚としてはね。
「しかしまぁ、でかいコロニーだねー。これ全長何kmあんのかな?最小径でもキロ単位はありそうだ」
α-ラミヌのセントラルコロニーはスタンフォード・トーラス型の、半径約5.7kmのホイール状で、ボイジャーステーションをそのまま大型化した様な見た目だった。恐らく通路を兼用している複数のスポークが自転車のタイヤの様にも見え、そう考えるとすごいちゃっちい感覚になる。
複数の商船とすれ違いながら宇宙港の入口に近づく。ガイドは出てるし、ある程度近づけばオートでドッキング出来るが、すれ違い多いと擦りそうで緊張する。
「駐車場とか苦手なんですよねーあたくし」
そんな独り言を呟きながら入港し割り当てられたバースに停める。ドッキング時に微かに慣性を感じるが、多分これは自分の身体が動いただけだ。艦橋は慣性制御はかなり強い為、最大戦速で急旋回とかやらなければあまりGはかかんない上に、そもそも大型艦ほど慣性により加速減速はなだらかな曲線になるのでGは小さい。
「よし、着艦完了っと」
「この後の予定は?」
「とりあえず、まずは観光だな」
「観光?」
「そう、ここの生の空気ってやつを知りたいかなー。空気感が分かると、どんなことやりそうか、したそうかってのも分かるからね」
「成程、だから観光と」
「そういう事。まぁ、情報収集って言った方が、聞こえが良いから情報収集って事にしとくけど。あとは人材発掘出来たら良いかなー」
「ほう?人材発掘?」
「こういう田舎って、俺の偏見、飛び出ていきたいけど金無くて燻ってるヤツか骨埋める気満々かの二択だからね。案外能力は高いのにキッカケ無くて埋もれてるって人材も多いのよ。それに人材発掘したい1番大きい理由がある」
「というと、やはり?」
「ウチ人居ねぇんだもん。並以上なら誰でも欲しいね」
人格面に非が無いなら、だが。スキルが無いだけなら積めば良い、スキルがあるなら伸ばせば良い。問題はやる気だけある無能ってパターンだが、やりようはあるさ。それを見つけるのが艦長である俺の仕事だし。
「じゃあ、装備の用意するから一時解散。何かしたい事あるなら別行動でも良いけど」
「いや、特に無いから一緒に行こう。入口で待ってようか?」
「そうだね、すぐ終わるから先行って待ってて」
少なくとも生身は弱いからな。装備によるアシストが無いとせいぜい動ける一般人くらいだ。無いとは思うが、有事の際には拳銃くらいは持ってないと、流石に危ないし不安だ。一応、2人分用意しとくかな。
―
「うーん、実にコロニーって光景だねぇ。いつ見ても感心しちゃうね」
密閉型のコロニーはまるで巨大な地下街で、奥に行くほど上に曲がった景色は、如何にも宇宙的で心が踊る。
「前も思ったが、ミクマはこういうの好きなのか?」
「好きだよー。なんて言うか、メカとかロボとか戦艦とか好きなんだよね。なんなら工場の製造ラインの見学とかでもワクワクするよ。高度に自動化された物ってだけでロマンあるよ」
「男の子だな君も……私には分からん」
「そういうもんじゃない?趣味嗜好ってのは千差万別、分かる分からんは有るんじゃない?」
「そういうもんか?」
「そういうもんさ。それに…」
「それに?」
「…いや、何でもない」
うん、きっと何でもない。多分言っても仕方ない事だからなコレは。
「さて、この後どうしようか?とりあえず軽く組合に顔出したら適当にどっかで飯でもって思ったんだけど、どう?」
一瞬流しちゃった変な空気を変える様に聞く。今回街に出た理由はここの雰囲気を見る為だ。出来るだけ地元の人間が行く様な場所に行ってみたい。
「…そうだな、確かここはスープが名物だった筈だ。ガルビュールって言うんだが、ミクマは知ってるか?」
「アレだっけ?キャベツといんげんまめッ…」
気になって調べようと端末を取り出しかけた時に人とぶつかる。パッと見た感じ、俺より少し小さいくらいで、目算158って所かな?見た目の雰囲気からして年下に見えた。逃げる様に走っていく後ろ姿を見送りながら、少し反省する。自慢じゃないがそれなりに視野は広い方なんだが、やはり人混みでは気を抜いて歩くのは良くないか…
「ん、やべ、やられたな」
「どうしたミクマ?」
「あれスリっぽいね。端末無いっすわ。すげー手際だなー」
さっきまで確かにポケットに入れてたんだが、地面に落とした音が無いから今のタイミングだろうな。しかしスっても捌ける場所あんのかねぇ?こんなセキュリティしっかりあるのにスれる度胸が凄いな。それにこういうのに注意してたハズなのに盗られたんだから、流石の腕だな全く。
「感心してる場合か?」
「この雑踏で追っても無駄だしね。まぁ、ロックもされてるし追跡は出来るから」
何せ俺の端末はデネブの備品で、デネブは常に全端末の位置を追跡をしているし、遠隔で色々アクセス出来る様になっている。
「ガブリエル、デネブにアクセスして端末の位置調べて。ゆっくり行こうか。少なくともロックが外される前に盗品商とは出会えるさ」
「予定変更だな。店の予約をしてなくて良かったなミクマ」
「確かに。くだらない案件でキャンセル料取られてもしょうがないしね」
正直な所、1個くらい無くなっても良いが悪用されても困るから取り返すだけはしておこう。それに少し気になる事もある。ぶつかった時に上着の隙間から一瞬チラッと見えたあのマーク、見覚えがある。確かアレは…
「ともすれば厄介か…やれやれだな。少し面倒になる予感がする。なんか億劫だなー」
「何かあるのか?」
「予想が当たってたらね。無かったらそれはそれで面倒だよ」
ガブリエルの先導で軽く小走りで追いかけながら、話す。当たりにしろ外れにしろ、どうせ面倒なのだから当たって欲しいが、全て予想通りなら、釣りをしてる暇は無くなる。
「あー、タバコ吸いたくなってきた」
「ここは全面的に禁煙だぞ?火を付けたら危険行為で逮捕されるかもな」
「あーヤダヤダ、なんで喫煙者はこうも肩身狭いんだかねぇー、言わんとしてる事は分からんでもないが、もう少し手心をだね」
「そんな事より、奴の動きが相当早い。この短時間でかなりの距離離されたぞ」
「やっぱり?ああいう連中ってのは近道の1つは知ってるからね。正攻法では追い付けないと思うよ?」
「ならどうする?ミクマ。その近道ってのは?」
「幾つかある。例えば、整備用の通路とか、インフラの配線の点検口とか、まぁ相手に拠るけど建物の中突っ切るってのもある。何れにせよ人が寄り付かないか、来ても少人数の場所かな」
よくある手口だが、だからこそ良く効く手口だ。やってる事は結局はシンプルだからね。
「ならこのまま逃がすか?管理通路となるとこのコロニーにいくつあると思う?諦めて端末を捨ててくれると助かるんだがな」
「ま、そんな素直ならそもそもスらないんじゃない?よし!作戦変更といこう」
相手はこちらの裏を掻く事に慣れているなら、こちらも裏を掻こうか。行動予測と裏の取り合いは傭兵の十八番だからな。
「さてと、今から言う場所探して。アイツは多分そこに行く。俺たちは先回りだ」
「分かった。場所は?」
「教会だ」
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、感想等々お待ちしております。




