提案は食事中に行うと成功率が高い
「いやー、流石に強いなミクマ!ストレート負けだ」
「一応自分プロっすからねぇ…」
めっちゃ苦戦したんすけど!なんでこの人こんな強いんすかねぇ?最初から手を抜く気は無かったけど、割とガチで本気出させられたんだけど…えぇ、怖っ。
「いやー、お姉さん強いねぇ、驚いちゃったよ。…いや割とマジで」
背中に冷や汗が伝い、手にも汗が滲んでいるが、それをおくびにも出さず、いかにも平常心と言った雰囲気を作る。プロと自称してる以上は見栄というか、多少は面子を立てとかないといけない。別に今のところは同じ船の仲間だし潰れて困る面子なんて無いけどね?一応ね?
「謙遜か?勝った後で謙遜するのは良くないぞ?必死に食らいつくだけで精一杯だったからな。文句なく負けだ」
「食らいつけるのがおかしいハズなんだけどなー」
言い訳する様だが、あまりサシは経験無いんだが、それでも場数はそれなりに踏んでる自負はある。ソロでやってると、どうしても常に数的不利で戦うからこそ一対多戦闘の方が経験も多く得意だ。下手に決闘して大破とかしたら、修理終わるまで無給だからね。修繕費も馬鹿にならないし。だからこそ必要最低限以外は可能な限り避けてはいたんだが、それを加味しても、ガブリエルが強い事は間違いない。教本通りのオーソドックスな戦術だったが、基礎は出来ており、故に隙が少なかった。
「賭けは私の負けだからな。私の行きつけで構わないなら、案内するぞ。ミクマ」
「喜んで、エスコートされようか。マドモアゼル?」
「嫌味か貴様」
そう笑いながら部屋を出るガブリエルを追いかける。はぐれても嫌だし、それ以上に視線が気になる。先程の勝負でかなり注目を集めた様で、同業者らしい人達からそれはもう、熱い視線を浴びてるからすごく居心地が悪い。
「…あ、早っ、待ってよー」
てかマジで早いな、脚か?脚の長さかな?悲しいなー
―
「しかし、ミクマはどうやったんだ?同じ機体でああまで動きが違うとは」
席に座り注文をし終えたタイミングで聞いてくる。
「ん?あー、アレはー、まぁ慣れかな。ちょっとしたズルって言うか、色々乗ってると出来るようになるよ」
テーブルに突っ伏すように凭れかけ、答える。ガブリエルの行きつけというこの店はかなり静かで雰囲気の良い店だが、客入りは多くないらしく真昼の時間帯なのに空席が目立ち、お陰でこうしてあまり行儀の良くない事も出来る。柄にもなく本気を出したから少し疲れた。
「そうなのか?」
「そ。教本通りシンプルでオーソドックスな戦術なのはすぐ分かったからね。次なんの手打つかは予想がつくから対処は意外と簡単なの。でも基礎的なのってなんでも積まれるとそれだけ隙が無くなるから、知識と経験からくる予測で先打ちしてくしかないんだよねー。今回は逆に相手がこういうドッグファイトの経験浅いのが効いたね。下手に経験あると掛かる引っ掛けとか読み合いに乗ってくれないから、隙作るのに苦労したわー」
舐めていた訳では無かったハズだが、自信が無いと言っている人を相手にする、しかも自分はそれなりの場数を踏んでいるとなれば、軽く揉んでやるつもりで相手にするもんだが、苦戦するのは予想外。
なんてことを考えていたら、注文した料理が来たので居住まいを正す。ドリンクに頼んだ紅茶に砂糖を入れかき混ぜながら今後の展望について話す。
「ところで、これからどうする?」
「どうする、とは?」
「んー、なんかやりたい事ある?これから傭兵として活動する訳なんだけど、何したい、とかこういうの気になる、的なの。どう?」
「ふむ、正直なところ何も無いな。そもそも傭兵としてこれからどうすべきかは検討もつかない」
なるほど、確かにそういう意見もあるか。うーん、何から説明したらいいか。
「そうだなー、セオリーで言う大まかには3つかなー」
「3つ?というと?」
「まず1つは、賞金稼ぎ。分かりやすいね。賊を狩ったり、紛争介入とかで稼ぐパターン。傭兵、だからね。戦闘が1番儲かるし1番オーソドックスなやり方だね」
「確かに分かりやすいな。いわゆるって感じだ。2つ目は?」
「ガードだね。商船や客船、政治家に宗教法人、企業の重役、拠点や物品の護衛かな。これも分かりやすいね。傭兵ならではのノウハウやフットワークの軽さがウリになる事もある。特に商船や客船の護衛は傭兵に依頼する事も多いよ。傭兵もみんながみんな常に拠点決めてる訳じゃ無いからね。移動がてら護衛はよくある話かな」
「なるほど、それも確かに想像がつく。3つ目は?」
「あんまり無いけど、探索かなー」
「探索?」
「そう、探索。未開域や未踏破域、遺跡、放棄されたコロニーや難破船、拠点攻略にテラフォーミング前後の現地調査etc..まぁ、要するにカナリアって訳だね」
「なるほど。だがリスクに見合うのか?」
「ケースバイケースかなー。大体はリスクに見合ってないけど、ロマンはプライスレスだし、それこそ、お宝発見を1回でもやったら、中々やめられないのよ。ルート報酬はランダムなほど開けたくなる」
納得しかねると思い切り書いてある顔を今日だけで数回は見た気がするし、繰り返す様だがそんなもんである。良くも悪くも成果報酬の仕事だからこそ、1回の仕事で巨万の富を築けることもあれば、たった1回のミスで金や地位どころか命も落とすのが傭兵だ。どこぞの人間性を捧げてるゲーム会社の作品くらいシビアだしワンミスがかなり大きい影響をもたらす。
「それで、なんだけど、1つ提案というか、艦長らしく、経営方針決めたいんだけど、聞いてくれる?」
「あぁ、良いぞ。ミクマは何がしたいんだ?」
携帯端末を取り出し、見やすいようにガブリエルへ向けテーブルに置く。画面にはこの国と周辺星系の星図が表示されてある。
「単刀直入に言うと、ひと狩り行こうか」
「なるほど、ヘッドハンティングと洒落込むのか?」
お、ノってくれるのか。ありがたい。ダダスベリは怖いからなー、あの冷えた空気は吐きそうになるくらい怖いから…というのは置いといて。
「その通り。俺たちは現状2人っきりの超少数だが、だからこそフットワークは軽い。それに何よりも俺たちにはデネブがある。戦艦、それも結構高性能な艦だ。並大抵なら、まず間違いなく鎧袖一触だ」
「確かにな。しかし戦艦が単独では難しい場面も多いと思うが?」
「まぁね。小惑星帯とかに逃げられたら中々難しいけど、そこは大丈夫。手札はある」
「艦載機か?確か格納庫に小型艦が置かれていたな」
「そう、その通り。アレは俺の切り札の一つだし、普段の足回りには十分だ。特に宇宙海賊なんて大概は鹵獲した民間船の違法改造品だし、正規の戦闘艦が負ける道理は無いね。余程数で囲まれるか裏ルートで払い下げの軍艦でも仕入れてない限りは」
まぁ尤も、そんな事はまず無いし、そんなルートある奴らは大船団組んでたり、そもそも軍に目を付けられているので見たらすぐに分かるがね。
「てなわけで、一先ず賞金稼ぎを主軸に行きたいんだけど、どう?」
「もちろん構わんが、何処に行くんだ?星図を見せたからにはポイントは決めてるのだろう?」
「うん、ここに行こうかなと思う」
トンと星図を押し拡大する。表示されたその星系は岩石惑星が3つ、ガス惑星は2つの星系で、いずれも資源惑星として開発されており、採掘業者や製造業、それも素材産業が多い。
「うん?α-ラミヌ?あそこも言っては悪いが田舎だから、あまり賊の類いは居ないのでは?」
「ところがどっこい、俺の勘だとかなり居るんだなー」
そう言いながら星図を動かす。
「ここが、首都星でしょ?それでここがこの国の主力軍の本部。…合ってるよね?」
「あぁ。間違いない。広報にも書いてある。まぁ詳しい話は軍事機密だから言えないし私も詳しくは知らないがな。…なるほど?」
「お、気付いた?そう、この2つと遠いんだよね、ここ。国境とも割と離れてる。この星系と同じだが、1番の違いは、ここだね」
「確か、複数の大手企業の貿易拠点のある都市星系だったな。ここから輸送をとなると、主要ルートの1つになるな」
「その通り。流石に駐屯軍はいるだろうけど、駐屯って大体は治安維持とか初動対応して主力来るまで持たせるのがメインだからね。割と一世代どころか2世代前くらいの旧式だったりする事もあるから、ヤツらも仕事しやすいんだよ。田舎の駐屯なら尚更ね」
頷き納得してるのを確認してから、星図を拡大する。
「そして、1番の理由がこれ。この星系のラグランジュ5にはデカイ小惑星帯があるからね。宙賊の拠点には好立地だよ。小惑星帯はどうしても大型艦は苦手だからね」
そう、この星系を選んだ理由の1番がそこだ。デカイ暗礁地帯である小惑星帯があり、貿易時の主要輸送ルートの1つで、更には資源惑星があり採掘船や精錬金属、それもレアメタルも積んでるだろう船も考えられるとなれば、ヤツらはまず間違いなくやってくる。レアメタルは換金性も高いし、自分達でも使えるから。だから駐屯軍も目を光らせているが、軍は基本的に中型〜大型艦がメインで、小型はフリゲートやコルベットがせいぜいで、駆逐艦が多い。正直軍の性質上仕方ないが、小型はどうしても哨戒や防御が担当な為、攻撃はあまり向かないんだよね。正確には戦術が防御主体だから、だが。それ故に宙賊に小惑星帯へ逃げ込まれたら、なかなか追うのは難しい。ヤツらの逃げ足の早さは目を見張る物だし。
「なるほど…理解した。ではその通りに進めましょうか、艦長」
「うん、ではよろしく頼むよ。副長」
微笑みながら軽く敬礼をするガブリエルへ敬礼を返し応える。
「副長?私が?」
「うん、だって2人しか居ないし」
実に身も蓋もない理由だが、仕方ない。何せ人が居ないんだから艦長では無いとなれば自動的に副長になる。もしくはヒラだが、わざわざヒラにする理由も無いので副長だ。
「ふっ、分かった。喜んで着任致します、艦長。もちろん給料は弾んでくれるので?」
悪戯っぽく笑い聞いてくる。そう言えば給料決めてなかったな。
「良いよー、固定給+成果報酬で良いよって言ったの俺だしね。いくらくらいが希望?年俸でも月給でもどっちでもいいよ」
相場は分からないが、約束は約束だ。まぁ、愛想尽かされない程度の給料は弾むとしよう。もしいつか独り立ちでもしたくなった時に先立つものが無いのは困るだろうしね。
「いくらでも良いのか?」
「現実的な範囲でお願いね」
ふむ、と考え始めたガブリエルを横目にすっかり冷えてしまった料理を食べる。豚スネ肉の煮込みらしいが、完全に放置してしまったから少し水分飛んでる気もする。まぁいいか。
「では、月5万でどうだ?」
「良いよー」
ガブリエルの提案に即答する。つい食い気味に答えちゃったけど、何言われてもOKするつもりだったから、ついね。そして提案した本人が驚いたような顔してるのは何故なのか。
「自分で言うのもなんだが、良いのか?」
「良いよー、単純計算で16年払えるから」
もっとも、固定費あるから多分その前に尽きるけど、それは収入0と仮定した場合だ。
「じゃあ、こっちからも。成果報酬は10%でいい?」
「むしろ10%も貰えるのか?」
「一応副長だし、軍役した経験あるなら戦闘周りでスキルあるハズだし、多分だけど、これからめちゃくちゃ忙しいと思うよ。暫くは」
「うーん…ではそれで」
話は纏まったし、食べ終わったら今日の所はデネブに帰るかねー、雇用契約書とか作らないとダメかなー?
凄くめんどくい予感で億劫だが真面目にやらないとお互い困るよなと言う思いと一緒に料理を飲み込む。余談だがお手頃価格なのに非常に美味しかったので、とても良い店だった。
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