役所関係って覚悟したヤツ程短時間に終わる
「これで登録完了になります。お疲れ様でした」
めっちゃ早く終わった。わずか数分の出来事である。
「だから言ったろ?時間はあまりかからないって」
「にしたって早くないっすかねぇ…五分くらいよ?必要事項埋めて定款読んで終わりよ?こういうのって試験とかあるのセオリーじゃない?」
ガブリエルの案内の元、傭兵組合の建物に来た。傭兵の組合にしては実に清潔で簡素、ぶっちゃけ市役所か何かにしか見えなかった。まぁ組合の事務所ってどこも同じか。受付に座り登録したい旨を伝え、申請画面でプロフィールと規約の同意を打ち込んだらあっさり登録完了。こういう手続きって長い長いと普段文句言うけど早すぎても不安になるのは俺の悪い癖かな?これ。
「えぇっと…ミクマさんの場合ですと、戦艦を所有されておりますから。それもスペックも相当高いですので、みなしでも問題無いと判断されたとの事で、初登録時の試験は免除、ランクも最下位の5等からではなく4等からスタートとなります」
なんともまぁ、実務的な事で。有り難い話ではあるが、少し困る話でもある。あまり高い位置でみなされても困るから。実際どの程度即戦力になるのか不明な訳だし。
「だとしてもねぇ、あー、それじゃあこのまま帰ってもいい感じ?」
「はい。登録完了しましたので、今からミクマさんは組合所属の傭兵となります。各種サービスも受けられますよ。もちろん等級相当ではありますが、基本的なサービスであれば組合員は全員受けられますので。何かございますか?」
なんというか不完全燃焼なくらい早いな。それだけ他に時間を使えるって事で切り替える事にするが、サービスね。何が必要か?
「それじゃあ、補給って受けられる?とりあえず燃料と推進剤補充したいんだけど」
「もちろん大丈夫ですよ。手数料をいただきますが、よろしいですか?」
「あー、はい、大丈夫。支払いってどうすれば?」
「登録されているIDからの引き落としとなります」
あら手間要らず。助かるね、こういうの。ということでデネブのメインシステムから使用している燃料と推進剤を端末にリストアップしてもらい提出する。
「…はい、かしこまりました。では手配致しますね」
「お願いします。あ、あとシュミレーターって使えます?もしくは使える場所あります?」
「それでしたらあちらの突き当たりにシュミレーションルームがありますので、そちらをお使いください」
手を刺された方を見ると、廊下があり入口には案内が色々書いてある。うーん、実に事務的。有り難いね全く。
「ありがとうございます。早速使わせてもらいますね」
「はい。頑張ってくださいね」
受付スタッフに挨拶して、早速向かう。シュミレーターが果たしてどんなレベルか分からないが、少しだけわくわくする。高スコア出せたら良いんだが。
「楽しそうだな?」
「楽しみだからね。実際」
顔に出てたようでガブリエルが不思議そうな顔をしている。伝わらないかこの楽しさが。まぁこればっかりはしょうがないが少し寂しい。
「好きなんだよ、こういうの。元々俺はゲーム好きだしね。みんながどんなスコアか、とか、スコアいくら出せるかって考えるだけでも、十分楽しいんだ」
「そういうものか?」
「そういうものだ」
「ミクマも男の子なんだな」
「そうだね。でもこれは性別関係無いと思うよ。やっぱ、なんでも道を1本決めて進んでたら、考えるだけで楽しくもなる。どんな人がどうやってやったのか…それってすごくワクワクしない?」
「そうか、私には少し、分からない世界だな」
そうガブリエルは呆れたような、それとも子供を見守る母親の様な微笑みを浮かべる。その暖かい目を向けられると照れるし、恥ずかしくなるからやめてくれ。別に恥ずかしいような事を言ったつもりないが、それとこれは別だ。
「そのうち分かるよ。多分」
シュミレーションルームに入ると様々な筐体が置かれていた。どれも年季が入っていそうで年代物だったが、中には比較的新しめな物もあり、おそらく何処かからの払い下げか安く仕入れた物と想像出来た。
「へぇ、コックピットブロックまるまる転用かよ。コレなんて軍用機のじゃない?まぁ実際シュミレーションモードある機体も多いし調整したら使えるか。操作訓練って意味ならいくら古くても本物のコックピット使えるってかなり勉強になるよな。うん」
うーん、実にワクワクする光景だ。ゲームセンターで珍しいゲーム機見たくらいにはテンション上がってるのが分かる。何せさっきから凄い視線感じるからね。いくらなんでもみんな見すぎじゃない?と思わんでもない。
「それで?何に乗るんだ?本当にシュミレーションが必要な腕とは思えないがな」
「それを確かめる為にやるのさ。ミスをしていいってタイミングは沢山ミスすべきだよ。ミスする方法やその挽回方法を知れるからね。それに、船乗りなら船の事は四六時中向き合ってるってのもある意味正しいと思うよ。俺は」
「…一理あるな。確かに商売道具の事は知ってるに越したことは無いか。ふむ、良い事を聞いた」
感心してるようだが、ぶっちゃけ詭弁である。まぁ間違った事言ったつもりは無いが、趣味が多大にあるのも否定はしない。
「そういえば、ガブリエルは乗れるの?」
「乗れるぞ。一通りの訓練は受けている。あまり自信はないがな。誰かさんと違ってね」
「そうッスか…正直な所、俺もそんな自信があってやる訳じゃないんだけどねー」
「そうなのか?意外だな」
「自信が無いから勉強したり訓練するし、良い点取れると嬉しくなるんだよ。そうだ、折角だし一緒にやらない?勝負しようよ」
「ほう?勝負ねぇ?勝負と言うからには何か賭けるか?」
賭けときたか、そうだな、何を賭けるかと考えた時ふと時計が目に入る。そういえばそろそろ昼だな。
「うん、なら、俺が勝ったら昼、奢ってよ。オススメの店。俺ここで昼食取れる場所知らんし」
「私が勝ったら?」
「俺が好きなの奢ってあげよう。1人100万くらいなら余裕で払えるからね、知っての通り」
そこまで言うと、ふっと笑う。ガブリエルを応じる様に笑いながら組んでいた腕を解くと袖をまくる。
「そこまで言うなら、やろうじゃないか。このコロニーで1番高い店を案内してやろう」
「勝てたらね。言っておくが、加減して負ける気は無いぞ?」
「あぁ、私としても手加減したから負けた、なんて言い訳は聞きなくないからな」
気合十分と分かったところで、おそらく職員っぽいオジサンに声をかける。ガタイや顔のイカつさからして元傭兵が職員になってるんだろうと想像できるが、どうでもいいので横に置くことにして、シュミレーターの事を聞く。
「これって勝手に使っていい感じ?」
「…ああ、空いているやつを好きに使え。自分の船に近いやつがあるはずだ」
「了解。どれにする?俺はどれでも良いけど」
シュミレーターのざっと半分は初見だが、同系列の艦には乗ったことがあるし、操作感は分かる。それに自分の腕が落ちてなければ、大概は乗れるはずだ。そのくらいの経験値はある。つもりだ。
「では、これにしよう。これは1度乗ったことある」
「お、XF-428-D『リンドブルム』。渋いねぇ、旧型だけど信頼性は高いからね。良い機体だ。反応や操作感も素直だし、軍用機だけあって性能も粗がない」
「流石に詳しいな。ミクマはどうする?」
どうするか、と言ってもそんなに選択肢は無い。というのも俺の乗ってる艦は戦艦だし、格納庫の中に小型艦もあるがアレは結構特殊だから、ここにあるシュミレーターのいずれとも合わない。となればここは1つ
「俺も同じのにするか。この中だと1番素直な機体はコイツだろ」
「手加減のつもりか?」
「まさか、本気だからこそ、じゃない?機体が同性能なら腕勝負だからね。ウデとヨミとセンス次第」
「増えてないか?まぁいい。ではミクマ。よろしく頼むよ」
握手をしてお互いの健闘を祈りながらシュミレーターに乗り込む。何故か大会の試合やってる様な気分だが、丁度いい緊張感だ。
「…さーてと、ちょっち本気出しますかねー」
なんて言いながらシュミレーターに入る。使い古されたコックピット内はシンプルそのもので、想像した通りの見た目だった。よし、コレなら使える。そう思いながらシートを調整し軽く反応を確かめる。
「メインシステム起動、戦闘モードスタンバイ」
ホント、ワクワクするねぇ。どんなバトルになるか、どんなバトルができるか…
「…いや、何でもいいか。なんであろうと、本気で楽しむだけだからな」




