はじめてのすかうと
と思ったらこれだよ最高だな。
「で?そろそろ本当の事話したらどうだ?」
「こっちは嘘言ってるつもり無いんですけどねぇ、大尉殿」
いやー、まさか想定通り事情聴取受ける羽目になるとはねぇ。全くもって正解だと思いますこんな不審者。まぁ自虐した所で事態は好転してくれないから、素直に弁明する。
「ワープ事故でデータ吹き飛んだ挙句、未知の深宇宙に放り出されたんですよ。先日重力異常が観測されたらしいですけど、ワープアウトの際の局地的重力変動では?実際、ここへは突然やってきた訳ですし、艦のレコード吹き飛んでるんですから。コロニーへの寄港履歴無いにしても、普通どっかしらの拠点や、新造したてと想定しても造船所か何かの座標データ登録されててもおかしくないのでしょ。それどころかログやIDとかも無いんでしょ?幾らなんでも、そんな状態で放置しないでしょ。スパイや工作員なら普通、商船かなんかに偽装するのが定番じゃないですか?仮に俺がスパイだってこの状況は不審過ぎて目を疑いますよ」
「うむ……しかしだな、はいそうですかと信じれるほど我々も甘くは無い。最低でもスキャニングや検査が終了する迄はここから出せないからな」
「もちろん分かってますよ。仕事ならしょうがないですから。だからと言って無実な物は無実って主張するのはコッチの正当な権利でしょ?」
かれこれ10分程の堂々巡りだ。あの後コロニーに入港できたはいいが、沿岸警備隊基地の庁舎に連行され詳細の取り調べを受けている。武装艦、それも戦艦に、中に艦載された小型艦、貨物は各種物資が満載と探せば幾らでも裏がありそうな存在を見たら、拘束されてないだけマシと考える人の方が多そうだ。とはいえ、取調室で散々アレコレ聞かれて、外に出して貰えてないのは、拘束と言っても差し支えなさそうだが。
「もうそろそろ、ここら辺で終わりにしません?疑わしきは罰せずが原則じゃないんですか?嘘つくような理由も無いでしょ。自称遭難者なんて特に」
流石にいい加減帰りたくなってきた。正直このまま如何にも堅苦しいそうなミドル世代の大尉殿とお喋りを楽しむのも悪くはないが、無い腹を探られるのも困りモノだ。ならいっそ開き直ってこうして推定無罪を主張した方が手っ取り早い。
「…わかった。だがそれは先程も言ったが検査が終わってからだ。改めて名前と出身は?年齢やあの船の入手経緯は?一応聞いておくが違法物品の類は無いんだな?」
「名前はミクマ。ミクマ・イブキ。年齢は22歳。太陽系第3惑星の地球出身。主な活動域は、はくちょう座とその周辺。フリーランスの傭兵で、特に何処か特定の派閥に所属してなかったのでフリーランスです。傭兵としては主に宇宙海賊の討伐や拠点攻略とかの遊撃やってました。デネブの入手経緯は実績積んだから、アレの購入許可下りたんですよ。俺のいた国の軍閥とは仕事柄仲良かったので。もちろん。違法物品は無いです。あるとしても不可抗力です」
「ほう?と言うと例えば?」
「酒類とか、国によっては規制凄いでしょ。確か飲酒とか流通が違法な国や地域無かったでしたっけ?そういう様なもんですよ。武器類とか自衛目的や傭兵としての仕事道具ですけど、規制対象になり得ますから。それに鹵獲とか戦利品は違法な物も拾うので処分するにしても一時保管はしないと。罰金とか税金あるなら払いますよ。貨物の物資売らせて貰えれば。適正価格なら喜んで貴方々にも売りますよ。それで税金とか諸経費差し引いといて下さい」
そこまで言い終わると、ため息をつく。図らずも2人揃ってため息が出たあたり、お互い相当キてるのは間違いない。殆ど意味の無い問答を繰り返していたら無理もないが。この後はどうしようかなんて事を考えていた矢先、ノックが響く。
「失礼します。マルタン大尉、検査終了致しました。担当官より、特に異常や不審点は認められないとの事です」
「うむ、そうか」
入室してきた女性士官が、軽く敬礼し、レポートが表示されてるのであろう端末を見ながら報告する。その時一瞬目が合った気がしたが、恐らくは続きを言っていいかの確認の目配せだろう。大尉殿も頷きながら返事をしたので、耳に手を当てなくても良さそうだ。
「…では。過去数年にわたり調べましたが、盗難や密造及び軍用艦のコンペディション等はありませんでした。また物資についても同様に盗難や密造を疑われるような物は発見されなかったとの事です。金属資源や弾薬に関しては盗難品にしては些か量が多過ぎるとの事で、裏ルートでの売買や密輸業者としては船も物資も派手すぎる為、有り得ないだろうと言うのが審査官からの報告です」
「……だ、そうだ。良かったな。これで終わりだ」
どうやら一段落ついたようで。大尉殿がなにかエラい渋い顔してるのは見えない振りする事にする。
「じゃあもう帰っていいって事?」
「そうだ。受付で幾つかの書類にサインしてもらうがな。証拠が無いなら逮捕は出来んよ」
「ならさっさと帰るよ。あー、最後に一つ質問。喫煙所どこ?」
「…中尉。案内してやれ」
なんか随分嫌われた雰囲気なので、了解しましたと軽く礼をし退室する中尉に大人しくついて行く。どうやら俺の無罪の報告をしてくれたこの女性士官は中尉らしい。廊下を並んで歩くとよく分かるが、結構大きい人の様だ。取調室では特に気にしてなかったが目算で20cmくらいは自分より身長が高そうで、少し羨ましくなる。それに歩いてる雰囲気から体幹が強いのが見てとれ相当鍛えてそうな事が伺える。
「着いたぞ。ここだ」
そう言われ視線で促された先にはガラス扉に思い切りSmokingRoomと書かれてある部屋があった。非常に分かりやすくて助かるな、なんて感想が出るくらいには実に実用的な簡素で小さい部屋だった辺り、どうせ分煙や福利厚生の一環で作った申し訳程度の部屋なんだろうというのが伝わった。こっちとしてはあるだけ助かるのだが。
部屋の真ん中に置かれた灰皿の反対側に周り廊下を見えるようにして椅子に座る。つい人が見える位置に行くのは、俺の悪い癖だ。そして何故か艦長室に有った新品の一度も見た事が無い銘柄のタバコに火をつけ、吹かす。
「……ん、これ結構良いな。好きな味だ」
当たりのタバコで少しだけさっきまでのストレスがかき消される。嗜好品の類は好みによる当たり外れが大きいから、当たりを見つけるのは意外と苦労する。だからこそ、当たった時に嬉しくなったりするものだが。
そんなに良い物なのかという訝しげな顔で見てくる中尉殿を視界の隅に置きながら、ゆっくりと吸う。煙を吐く度に、色んな物が煙と共に体から出て行くような感覚になる。
「…いつも吸ってるのか?」
「んー、いや?全然。というか普段はあんまり吸わないけど」
「にしては、美味そうに吸うんだな。なんでなんだ?」
変な事を聞いてきた。なんでと言われても考えてなかったから少しだけ困る。吸う理由はなんでだろうか。
「なんて言うんだろうなぁ、んー…1番は、居ても立っても居られないからじゃないかな。俺の場合は。」
「そうなのか?」
「そう。ただ居るって出来ないんだよ。不安とか色々考えたり、暇を持て余したり。だからタバコでも吸ってないと落ち着かないし、酒でも飲まないとやってられないんだ。ほら、何でもいいけど、合格発表とかあってそれをじっと待つ時とか、ランドリーで洗濯が終わるまでぼーっと待つ時とか、何でもいいから暇つぶししたいのさ」
「ふーん、そんなもんか」
「そんなもんだ。きっとね」
「ふふっ。なんだそれ?」
お、笑った。さっきまで真面目な表情しか見てなかったから新鮮だな。それに笑ってる姿が何となく似合ってる気がする。うん、きっとそうだ。
「これからどうするんだ?」
「そうだな、とりあえず貨物の売値次第かな。アレ武装艦だからね。それも戦艦級。接収とかされたくないし傭兵か、傭兵制度無いなら民間軍事会社でもやるかな。完全一般人が持つには厳重過ぎるからね。流石に」
「儲かるのか?傭兵は」
「時と場合によるかな。傭兵って良くも悪くも自営業だからね。依頼額とか経費の交渉は自分だし、成果報酬で稼ぐにしろ、結局ウデが無いとその日暮しが良いところだよ」
「思ったより夢が無いんだな。傭兵も」
「まぁ、その分額面100%貰えるけど」
そうなのである。歩合制や自営業は良くも悪くも両極端になりがちだ。華あるビックプレーヤー程、人気や実績が要るし、才能や運、自身の経験なんかも絡んでくる。そもそもあらゆる部分が自己責任なので、保証や手当が無かったり。だからある一定のラインまでは固定報酬の方が儲かったりする。源泉徴収や各種経費抜いた後の額だったりするから。
「興味ある?」
「まぁな。軍人の傭兵転向も珍しくないだろ?」
「そうだね。軍人なら戦闘技能もあるし、士官学校出てるなら座学も最低限は仕込まれてるだろうから、他の人よりやりやすくはあるんじゃない?」
「それに、長く軍にいると、不思議と戦場から抜け出したく無くなるんだ」
「それ、少し分かる気がする。中尉って今何歳?」
「26歳だが、急になんだ?」
「いや、気になって。26で中尉なら出世株でしょ。20代尉官なら軍学校の出?別にこの仕事が必要無いとか悪いって訳じゃないけど、こんな田舎の星系の駐屯ってタイプでも無いんじゃない?基地来た時この国の地図見せてもらったけど、何の変哲もない辺境の田舎の沿岸警備隊って、仕事ほとんど無いんじゃない?宇宙海賊だって寄り付かんでしょ?警備薄くても取るもんないし」
そう、ここは辺境で、国境とも中央とも離れた正しくド田舎だ。研修にしたってとても、優秀そうな中尉殿が来るような場所や仕事じゃない。同じ警備隊なら国境付近に突っ込まれるんじゃなかろうか。
「…まぁな。専ら書類整理と待機中の訓練くらいだ。お陰でトレーニングルームのメニューは全部終わったよ」
案の定、冷や飯食ってそうな発言だ。ある種当たり前だが、少し可哀想に感じる。だが逆にこれは好機かもしれない。
「なら、ウチ来る?見ての通り、ウチは人手不足でね。優秀な人材なら歓迎だよ。報酬も今なら固定給+成果報酬を約束する」
もし本当に冷や飯食ってるなら、もし軍に愛想が尽きているなら、誘いに乗ってくれるかもしれない。
「もし、私が優秀では無かったら?実際は仕事が出来ないとしたら?」
「俺からしたら、その質問をする時点で大丈夫だと思うけどね。そうだな、うん、最低限、常識的な範囲内なら大丈夫さ。どっちかって言うと性格面の方を重視してるからね。スキルは勉強や経験で伸ばせるけど性格直すのはかなり難しいから。それに正規の軍人なら、一般人より確実に強いから、俺の護衛や、オペレーターとしてサポートして貰うとか。ま、自慢じゃないけど1人や2人、賑やかしだけでも食わせられるくらいにはウデも財布も細くないつもりだよ」
「もし、性格が悪かったら?浪費癖や酒癖とか酷かったら?」
「んー、もしそうなら…」
「そうなら?」
「笑って何とかするさ」
「ふっふっふ、なんだそれ」
肩を軽く震わせ笑う姿は軍人ではなく1人の等身大の人間だった。瞳に涙を滲ませる程笑うのは流石にどうかと思うけど。
「本気のつもりなんすけどー……まぁ考えておいてよ。俺はこの後…2週間後にここ発つつもりだからさ。それまでに気が向いたらデネブに来てよ、歓迎する」
「分かった。考えておこう。前向きに、な」
「そうしてくれ」
そうしてほとんど吸っていないタバコを消して部屋を出る。この後受付行って手続きして荷物整理してと考えると面倒で少し気が重くなってきたがしょうがない。先立つ物が無いと何も出来ないのだから大人しく言われるままにやろう。
そうして長ったらしい手続きを終え、疲労から艦に帰って来て早々眠った翌朝
「やぁ、ミクマ!おはよう。乗りに来たぞ」
どうやら初のスカウトは成功したようで
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、感想等々お待ちしております。




