金で解決出来る問題は意外と多い
「ここって田舎と言う割には案外施設は充実してるよなー。役所デカイのは何となく分かるんだけど」
案内図を見て思う。そもそもコロニー自体結構デカイ方な気もする。とは言っても、この星系の中心だろうコロニーやその庁舎となればデカイのは当然か。県庁とか大体どこもデカいしね。そして地味に手続きが長いし待つから面倒…ってのは置いといて、ここもその例に漏れないって事だろうな。
「さて、お目当てはどの窓口かな?」
周囲を見渡しながら、ウロウロと歩く。どうでも良いが、改めて思うのが自身の言語能力の事で、恐らく未知の言語でも読めるんだよな。大半はアルファベットだが、広告なんかには全然知らない文字も有った。しかし何れもすんなり読め読解に苦労した記憶は無い。
「…もしかしたら何かしら入ってるのかな?確かそういう技術もあったよな」
今度、暇があったら1度どっか医療系の所で全身検査してみようかな?どうせ健康診断やら各種予防とかしないといけないし、今後乗艦時間長くなるならそこら辺の福利厚生もしっかりしないとな。一応は艦長なんだし、マネジメントは数少ない俺の仕事の1つだ。
「お、あったあった」
そんな余談を考えていたら目的の課を見つけたので、話し掛ける前に軽く手で髪とスーツを整える。ここからはどれだけ口と態度で説得力出せるかの、営業のスキルが必要だからな。まぁ、尤もこの場合は詐欺師のスキルだが。
「すいません、今良いですか?少し住民関係で相談がありまして」
受付の女性に声を掛ける。自然に、余裕を持った言い方を心掛ける。こういう時は逆に胸張ってく方が良い。
「あ、はい。少々お待ちください」
「あぁ、すいませんね。…出来れば詳しい人を、お願い出来ますか?」
少し顔を近ずけ少し声量を抑えて頼む。そしてさりげなく、ペンダントを見せる。予想通りならコレで通るハズ。
「…かしこまりました。それでは奥でお待ちください。どうぞこちらへ」
よし、ルート入れた、と大人しく着いて行きながら内心ほくそ笑む。正直交渉は入る迄が本番みたいな所があるからな。これで待ってる間に通報されなきゃ勝ちだ。
「それでは、呼んでまいりますので、少々お待ちください」
案内された会議室に入り軽く頷く。そして扉が閉められたのを確認してから、机の下や天井等をサッと見、何も無いのを確認してから座る。無いのは分かっていても、こういうのは癖だ。まぁ、何か見つかった方が対応に困るから無い方が助かるけど。
「…すいません、お待たせしました」
「いえいえ。こちらこそ突然申し訳ない」
ノックと共に入ってきた男性に返答する。少し生気の無い雰囲気だが、目はかなり生きているから、多分生まれつきそういう人なんだろう。若しくは普段から結構苦労してるかだ。
「どうも、市民課のニコラ・デュランです」
「ジャン・マルタンだ」
笑顔で握手するが、お互い目は全く笑っていない。ビジネスだから当たり前か。これから少し込み入った話もするしな。胸元のペンダントに一瞬目線が行ったのは確認の為だろう。
「ジャン…マルタン?」
「ありふれた名前だろう?良く聞き返される。まぁ、お陰で助かる時もあるがね。こういう仕事してるとな。…まぁほら、座った。立ったまま長話と言うのもなんだ」
そう促しながら先に席に座る。あくまでもこちらに主導権があるという態度だが、それを受け入れている様子から相手が『光の翼』の末端である事が分かる。
「…それで、相談との事でしたが?」
「あぁ。単刀直入に行こう。私の方で一人、引き取りたくて来た。その者について、各種手続きをお願いしたい」
「引き取る、と言いますと?」
「対象者は16歳の女性でね。何でもあまり良い家庭環境とは言えない様だ。特に金銭的にな。本人の様子からも見て取れる。それで、本人の意向としては今の環境から脱したいとの事だった為、それではとウチで預からせてもらいたいと思ってね。教育を施せば優秀な同胞になるかも知れないからな。どうやら彼女も我らと同じ翼の一人だ」
ペンダントを軽く見せるように持ち上げ揺らすと納得した様に頷く。
「なるほど。名前を聞かせていただいても?」
「カミーユ・デュピュイだ」
名前を聞くと、彼は手元に目を落として端末を確認する。恐らく住民名簿を見てるんだろう。
「カミーユ・デュピュイ……この方で合ってますか?」
「あぁ。合っている」
画面に映るプロフィールを見て頷く。名前、年齢、現住所等々書いてあり、顔写真もあったので間違いない。
「それで、どの様にすればよろしいので?」
「とりあえず、自由移動と関連の税務処理を頼む。こう見えてもそれなりに忙しくてね。明日にでもここを出なければならない。後はいつも通りでお願いするよ。いつも通り後見人なり養子縁組で処理してくれ」
「かしこまりました。では多少日付は前後した方が宜しそうですね。他には?」
「個人的な頼みだが……市民IDを1つ作れないか?それにさっきの処理を紐付けてくれ」
「市民ID…ですか」
「あぁ。繰り返すが少々個人的な話でね。今回の件は私の独断で動いている。だからあまり、私の名前では動きたくないのだよ。星の海を航海していると、時々息抜きも欲しくなる…それに今後必要になりそうでね」
「なるほど…かしこまりました。では名前はどうしますか?」
「ジェームズ・モリアーティで頼むよ。とある帝国で大学で数学の教授をしていた実年の男性…という辺りで頼む」
「…では最近移住してきて養子を取った、という事でどうでしょう?移住に際して手続きが多少前後してしまった、と」
「素晴らしい。ではそれで行こう。ついては費用だが…これでどうだ?」
そう言いながら掌を見せる。5本指を伸ばしたパーの手を。
「…50万ですか…そうですね、諸々の手続きの手数料や納付金等を計算しますと、丁度になりますね」
「何を馬鹿な事を。500だよ」
「ご…500万ですか…?」
明らかに狼狽える。まぁ無理もない、500万はかなりの大金だ。社会的にも、俺の財布的にも。何せ所持金の約半分だからな。普通は500万もあれば宇宙船の1つは買える。インテリアもな。デネブの簡易修理費にすら足りないのは単に戦闘艦がやたら高いだけだ。それにデネブは戦艦級だし、運用コストは馬鹿にならない。それはともかく。
「IDの偽造に、各種法的手続き、日付の遡り、となれば、発覚したら即逮捕、ただの懲役刑で済めば温情だろう。十中八九、監獄コロニーへの投獄は免れん。その手数料と考えたら安い方だ。まさか、全て君一人でやるまい?友人達へ使うと良い。余ったら君が受け取りたまえ」
「はぁ…しかし」
「良いのか?受け取らなくて。手数料を引いてもざっと100万は残る。上納すれば正会員に近付くぞ?もしかしたら『司祭』へ口利きをして頂けるかもな」
その言葉を聞いてハッとし、息を飲む。そうだろうな。『光の翼』に於いて司祭の役職を任される人間は相当な有望株と評価された者だ。最低でも幹部候補生となる相手へ口利き等、構成員なら間違いなく欲しいハズ。ここまでの話で俺の態度に一切文句を言わないのが良い証拠だ。
「…宜しいのですか?」
「あぁ。さっきも言ったが、これは個人的な話だ。くれぐれも内密にな。…金は今払おうか?匿名で処理出来るか?」
「それでしたら、1度この口座に振込みください。その後に私が引き出します」
「バレないのか?」
「えぇ、もちろん。税金の納付等の際の一時的な取引用の口座ですので、いつ誰がいくら振り込んでも、あまり違和感はありません。ココは企業が多いですから。今も高額納税はされていると思います」
「お前が取り出しても税務処理の1巻か?」
「はい。その後にセキリュティ強化の一環として口座を作り直せば証拠もありません」
ま、この男がここにこうして居るんだから間違いないだろうな。
「…振り込んだぞ」
「…はい、こちらも無事受け取りました」
「これで契約は成立だな?」
「はい。それでは少々お待ちください。今書類を作成致しますので。IDの方はどうしたら?」
「後日、カミーユ・デュピュイ宛に届けてくれ。各種証明書とIDを入れた携帯端末を送ってくれたらそれで良い。費用は足りるだろう?とりあえず、今日は自由移動の証明書だけくれ」
「かしこまりました。では失礼します」
お辞儀をして部屋を出るのを鷹揚に見送る。これで通報とかされたら大分困るが、俺以上に困るのはあの男だからな。大人しく待っていよう。
『こっちは終わったぞ』
ガブリエルに連絡を入れる。仕事の完了は報告しないとな。
『存外早かったな』
『まぁね。それっぽい事言って金掴ませたら終わりだよ』
『頭が痛い話だな。行政の腐敗は深刻だ』
まぁ、元公務員からしたらそうだろうな。それもお堅い軍なら尚更。
『と言うよりは、ヤツらの根が深いのさ。そっちはどう?』
『特に何も。異常無しだ。今はラウンジでティータイムだ』
あら優雅ね、羨ましい。俺が仕事中にティータイムとは。グレートブリテンの民かな?
『まぁ、それは良いけど、飲み終わったら発艦準備しといて。申請お願い』
『突然だな。どうしてだ?』
『デネブに帰ってから言う。とりあえず何時でも出れる様にだけしてて』
『了解した。艦長』
「…なーんか皮肉られた気分。こういう時だけ艦長呼びっすか」
まぁ実際皮肉られてるんだろうけど。実際訳わかんないもんな。いきなり発艦準備とか。
「…はー…この後どうすっかねぇ。とりあえず、相談してみてか…ヤダなー」
早く宇宙に上がって息抜きしたいなー
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