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花咲けば冥府も春  作者: 連


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3/27

悪役公爵家3

規則正しい時計の音が部屋に響く。


カーテンの隙間から差し込む朝日が、ゆっくりと瞼を照らした。


「・・・んん」


重い瞼を開くと、見慣れた天蓋が目に入る。

ここはブルームフィールド公爵家の屋敷、私の部屋だ。


どうやら家に無事帰ってこられたらしい。

額には包帯が巻かれ、鈍い痛みだけが残っている。


「お姉様・・・」


かすれた声が漏れる。

ベッドサイドで手を握ってくれていた姉は、静かな寝息を立てていた。

その美しい顔は泣き腫らし、目元は真っ赤になっている。


─ずっと看病してくれていたのね。


そっと指先に力を込める。


その僅かな動きに気づいたのか、ローザリアはゆっくりと目を開いた。


「リリー・・・?ああ、よかった!」


そのまま私を抱きしめるローゼリア。


「あなたが倒れて・・・本当に心配したんだから!私を庇うなんて・・・ごめんなさい・・・」


肩が震えている。

あんなに気丈だった姉が、子どものように泣いていた。

前世の記憶が戻ったからか私は少し戸惑う。


・・・違う


ゲームのローザリアは、こんな人じゃなかった。

妹を見下し、自分さえ良ければいいと考える悪役令嬢。リリアーナが傷つこうが気にも留めなかったはずだ。


なのに


「本当に・・・目を覚ましてくれてよかった・・・。」


目の前のローザリアは私を抱きしめ泣いている。


「私なら大丈夫です、お姉様こそお怪我ございませんでしたか?」


自然と言葉がこぼれる。


その瞬間、ローザリアはまた涙を浮かべた。


「大丈夫じゃありません! お医者様はあと少し当たり所が悪ければ命も危なかったと・・・!私の心配なんかいいのよ・・・」


「お姉様・・・。」


「私のせいで・・・!」


私は静かに首を振った。


「違います。」


「え?」


「お姉様は何も悪くありません!」


悪いのは。

あの馬鹿王子だ。


喉まで出かかった言葉を、どうにか飲み込む。


その時だ。部屋の扉が開いた。


「リリアーナ!」


母、エレノア・ブルームフィールド、そして父、レオナルド・ブルームフィールドが駆け込んできた。

二人とも、どこか疲れ切った表情をしている。


「お父様、お母様・・・」


エレノアはゆっくりとベッドの傍らへ歩み寄り、私の頬へ優しく手を添えた。


「目を覚ましてくれて、本当にありがとう。」


その瞳には涙が滲んでいる。

ゲームでは冷酷で、娘を道具のように扱う母だった。目の前の女性は、まったく当てはまらない慈悲深い淑女であり、ただ娘を心配する母親だった。


父も静かにベッドのそばに立つ。


「・・・すまなかった。」


「え・・・?」


「父親でありながら、お前を守れなかった。」


レオナルドは苦しそうに目を伏せる。


その姿を見て、胸が締めつけられた。


違う。

こんな人たちじゃなかった。


ゲームのブルームフィールド公爵は、娘たちを利用する冷酷な男だった。


母も姉も同じ。誰一人として家族を愛してなどいなかった。


けれど、今ここにいる家族は違う。

誰もが私を心配し、私のために涙を流している。


違う

ゲームとは、何もかも違う。


私はゆっくりと目を閉じた。


よみがえった記憶


 前世で遊んだ乙女ゲーム『双聖のアルディオン』。


 主人公は双子の聖女。


 第一王子と第二王子、それぞれと恋に落ちる物語。


 その中でブルームフィールド公爵家は、邪悪な悪役として断罪され、一家は処刑される。


・・・それが、私の知っているシナリオだった。


でも違う。

ゲームが間違っている。

こんな優しい家族が悪人なはずがない。


誰よりも人を思い、誰よりも家族を愛している。

そんな人たちが滅びる未来など、絶対に認められない。


私は心の中で静かに誓った。


必ず守る

お父様も、お母様も、お姉様も

そして、ブルームフィールド家を


その決意を胸に抱いた時だった。


コンコン、と控えめなノックが響く。


「失礼いたします。」


 部屋へ入ってきたのは、公爵家に長年仕える執事だった。


「旦那様。」


「どうした。」


「王宮より使者がお見えです。」


 父が僅かに眉をひそめる。


「……内容は?」


「国王陛下より、『リリアーナ嬢の容体を案じている。一度、公爵家を訪ねたい』とのことです。」


 その言葉に、部屋の空気が止まった。


─え?


私は思わず目を見開く。


そんなイベント―ゲームには、存在しなかった。

読んで頂きありがとうございます。

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