新たな光
別荘のサロンに、柔らかなランプの光が灯っていた。窓の外ではセレス地方の夜風が木々の葉を優しく揺らしている。ローザリアお姉様はソファに腰を下ろし、紅茶のカップを両手で包むように持っていた。その横顔は穏やかだが、どこか考え込んでいるように見える。
私は向かいに座り、そっと声をかけた。
「お姉様・・・今日のことは、どう思っていらっしゃいますか?」
お姉様はカップを静かに置き、長い睫毛を伏せる。
「・・・レオン様は、本当に第二王子だったのね。しかも、あんな風に想いを伝えてくださるなんて・・・少し、夢を見ているような気分だわ」
その声には戸惑いと、ほんの少しの喜びが混ざっていた。その表情を見て私は微笑む。
「お姉様が幸せになれるなら、私はそれで嬉しいです。ただ、急ぐ必要はないと思います。私たちまだセレスに来たばかり、お姉様のペースでいいのです」
お姉様は小さく頷いた。
「ええ・・・でも私は公爵家の娘とはいえ騒動の渦中、王子に近づくのは・・・迷惑ではないかしら」
お姉様の言葉に、私は胸が少し痛くなった。いつも完璧であろうとしてきたお姉様は、自分を低く見積もりすぎるところがある。私はお姉様の手を優しく握った。
「レオン様は、そんなこと全然気にしてらっしゃらないと思います。お姉様のことを、一人の女性としてちゃんと見てくださっている気がしますわ」
◇◇◇
翌朝、私たちは再び町へ出かけた。
市場の賑わいの中、気さな笑顔でにレオン様が現れる。
「やあ、二人とも。また会えて嬉しいよ」
私たちは魔道具店を回り、湖畔の静かな場所へ移動した。風が心地よく吹く中、お姉様がぽつりと零す。
「私は・・・悪女と呼ばれた身です。王子である貴方に近づくのは、迷惑ではないでしょうか?」
レオンは静かに首を振り、熱のこもった声で答えた。
「ローザリア嬢。僕は君を悪女だなんて思っていない。君は僕が見てきた中で、一番優しくて、誇り高くて、真っ直ぐな女性だ。一人の人間として君のことを知りたいと、心の底から思った。君に惹かれているんだ」
お姉様の頰が、昨日の夕日のように淡く赤らむ。
私は少し離れた木陰でその光景を見守っていた。心が熱くなるのを感じながら。
◇◇◇
その日の夜、夕食後のゆったりとした時間。
お姉様は紅茶の入ったカップを手に、しばらく窓の外の闇を見つめている。やがて、ぽつりと本音をこぼした。
「・・・今日、レオン様に言われた言葉が、ずっと頭から離れないの」
私は静かに耳を傾けた。
「『一人の人間として見てくれている』って・・・婚約破棄されてから、誰もそんな風に言ってくれなかったわ。皆、私を『悪女』として見るか、憐れむ目で見るか・・・そればかりだったもの」
お姉様の声は少し震えていた。
「でもレオン様は違ったの。私の過去も、立場も、全部知った上で・・・ただの私を見てくれた気がする。こんな気持ち、久しぶりだわ・・・」
私はお姉様の言葉をじっくり聞きながら、胸が温かくなった。
「お姉様・・・それって、すごくいい兆しだと思います。レオン様は本気でお姉様のことを想ってくださっていると思いますわ」
お姉様は頰を少し赤らめ、照れたように小さく微笑んだ。
「ええ・・・私も、少しだ・・・彼のことをもっと知りたいと思ったわ。こんな気持ちになるなんて、自分でも意外だけれど・・・」
その柔らかい笑顔を見て、私は心の奥がじんわりとする。
セレス地方の静かな夜が、私たちにそっと新しい希望を運んでいる気がした。




