↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花咲けば冥府も春  作者: 連


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/27

揺らぎの正体

午後のひと時、私はお姉様と東屋で紅茶を飲みながら花壇を眺め、他愛もない話をしていた。すると庭の小道から声と同時にエドガーが姿を現す。彼は一歩東屋の前で立ち止まり、きちんと靴音を止めてから深く一礼した。


「失礼いたします。ローザリアお嬢様、リリアーナお嬢様、ヴァイス様がお見えでございます。」


私はカップを静かに置いた。


「そうですか」


お姉様が小さく瞬きをする。


「またいらしたのね」


私は立ち上がりエドガーに視線を向けた。


「今度は、ちゃんと話をしに来られたのでしょう、エドガー応接室へご案内してください」


「かしこまりました」


◇◇◇


応接室。


エリオット・ヴァイスはすでに席についていた。以前のような勢いはない。

ただ、どこか考え込むような沈黙が部屋に落ちている。

私たちが向かいのソファに座っても、エリオットはしばらく無言のままだった。


「本日はどういったご用件でしょう」


彼はしばらく言葉を探すように視線を落としたが、やがて重い口を開く。


「・・・教会へ行ってきた」


「そうでしたか」


「驚かないんだな」


「ヴァイス様なら、確かめに行かれると思っておりましたから」


エリオットはわずかに眉を動かす。


「原本を見せてもらったんだ・・・最初は拒まれた。だが王命だと伝えたら、渋々だが出してきた。」


私は何も言わずエリオットを見つめ、彼は続けて言った。


「内容に大きな矛盾はなかった。証言も整っていた。だが・・・」


彼は言葉を切った。


「妙だ」


お姉様が静かに問いかける。


「どのように、ですか?」


エリオットはしばらく沈黙したあと、言葉を選ぶように続けた。


「綺麗すぎる・・・一つの証言が、次の証言を補強している。最後には自然に結論へ繋がる。まるで最初から“そうなるように”組まれているみたいだ」


部屋が静まり返る。私はカップに視線を落とし小さく息を吐いた。


「ヴァイス様」


私の声に彼は顔を上げる。


「違和感があったのですね」


「ああ」


即答だった。


「俺は“個々の証言”を見ていたつもりだった・・・でも実際は、教会が整理し編集した“完成された資料”を見せられていただけだったのか?」


「ええ」


私は静かに言葉を重ねる。


「ヴァイス様がご覧になったのは、“証言の集まり”ではありません。それをまとめた、“一つの資料”です。」


エリオットの表情がわずかに揺れる。


私は続ける。


「では、その資料はどなたがまとめたのでしょうか」


「……教会の調査官だ。」


「そうですね」


「順番を決めたのは?」


「調査官だ」


「どの証言を重視するか決めたのは?」


「……調査官だ」


エリオットの声が少しずつ低くなる。


「結論を書いたのも、調査官だ。」


私は静かに頷いた。


「つまりヴァイス様が見ていたのは、個々の証言ではなく・・・」


彼は、膝の上の拳を握りしめ、俯きながら絞り出すような声で言う。


「“調査官が作り上げた流れ”か・・・・・・」


そして、低く呟く。


「・・・俺は、何を見ていた?」


その問いに、私はすぐには答えず、少しだけ間を置いてから言った。


「ヴァイス様は、正しいものをご覧になっていました」


エリオットが顔を上げ、私を見つめる。その瞳にこれまでの怒りはなく、ただ揺れたまま静かに焦点を結びかけていた。


「ただ、その“見方”が少し違っていただけです。」


静寂が落ちる。


やがてエリオットは、ゆっくりと息を吐いた。


「違和感の正体はそれか・・・教会そのものじゃない、教会の中の“誰か”だ」


その言葉にお姉様が目を見開いたのを横目で確かめ、静かに頷く。


「そこまで辿り着かれましたか」


エリオットはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。自嘲でも怒りでもない。ただ、理解に至った者の表情だった。


「俺はずっと、全部を同じものだと思っていた。教会も、証言も、聖女も。」


彼はゆっくりと視線を上げる。


「だが違うんだな・・・同じではない。」


私は紅茶を一口飲み、そして静かに言った。


「ええ、全てが同じではありません。」


エリオットは深く息を吐く。その目に、以前の迷いとは違う光が宿り始めていた。

読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。