最初の一手1
春の陽射しがサンルームいっぱいに降り注いでいた。色とりどりの花々に囲まれた丸いテーブル。
私は紅茶を一口飲み、小さく息をついた。
「今日は暖かいですね、お姉様」
「ええ。こんな日は、少しだけ肩の力を抜いても罰は当たらないでしょう」
昨日までとは違う穏やかな日常が、まだ問題は何一つ解決していない。
それでも、お姉様は少しだけ笑えるようになっていた。私はそのことが嬉しかった。
テーブルの上には焼きたてのスコーンの甘い香りが漂う。こんな穏やかな時間が、いつまでも続けばいいのに。そんなことを思った、その時だった。
コツ――コツ――
足音が近づいてくる。
「失礼いたします」
エドガーだった。
「リリアーナお嬢様、例の件ですが」
彼は私の耳元まで近づくと、小さな声で囁いた。
「予定通りでございます。」
私は小さく頷いた。
「ありがとう」
エドガーは何事もなかったかのように一礼し、そのまま部屋を出ていく。それを見てお姉様が不思議そうに私に目を向ける。
「何かあったの?」
私は紅茶を置きながら微笑んだ。
「ええ、そろそろ、お客様がいらっしゃいます」
「お客様?」
その言葉が終わるより早かった。廊下の向こうから、騒がしい声が聞こえてくる。
「待てと言われて待てるか!」
「エリオット様、お待ちください!」
「どけ!」
バンッ!
勢いよくサンルームの扉が開いた。現れたのは、黒い騎士服の青年─エリオット・ヴァイスだった。
肩で息をしながら、真っ直ぐ私たちを睨みつける。
「やっぱりここにいたか」
その顔には、昨日以上の怒りが浮かんでいた。私は立ち上がることもなく、静かに紅茶を口へ運ぶ。
「ごきげんよう、ヴァイス様。」
その一言で、彼の眉がぴくりと動いた。
「挨拶なんかどうでもいい!」
拳が強く握られる。
「聞いたぞ!お前たち、学園でこそこそう動いているそうだな!」
サンルームの空気が一変する。お姉様が驚いたように私を見つめた。もちろん、お姉様にはまだ話していない。そんな彼を挑発するように私はゆっくりカップを置いた。
「その情報は、どちらから?」
「そんなことはどうでもいい!今さら何を企んでいる!」
私は小さく笑う。
「企む?・・・違いますよ」
エリオットをまっすぐ見据え続けた。
「この国の公爵家の娘が罪に問われている。これは当家としても由々しき事態です。ですから我々も独自に調査を行っているまでです。」
その一言に、エリオットの表情がさらに険しくなった。
「まだそんなことを!教会の調査を疑うつもりか!」
私は静かに首を傾げる。
「多角的に物事を見ることは大事なのですよ」
「どう見ても同じだ!事実は変わらない!」
彼は本当に分かりやすい。
私は心の中で、小さく呟いた。
――釣れた。
◇◇◇
数時間前、屋敷の廊下。
エドガーが若い使用人へ静かに話している。
「学園への問い合わせは、予定通り各所へ。ただし、隠す必要はありません。」
使用人が驚いた顔をする。
「よろしいのですか?」
エドガーは静かに微笑む。
「今回は、知られることにも意味があります。リリアーナお嬢様のお考えです。」
使用人は深く頭を下げた。
「承知いたしました。」
読んで頂きありがとうございます。




