side:エリオット
聖堂の高窓から差し込む光は、今日も変わらず白かった。
その光を見上げながら、俺――エリオット・ヴァイスは静かに息を吐く。
思考は、あの日から一度も揺らいでいない。むしろ時間が経つほどに、確信は輪郭を強めていた。
あの夜。
王太子アレクシス殿下による婚約破棄が宣言された夜、聖女ルミエラ様は、涙を流した。誰の目にも明らかな“被害者”だ。
そしてその原因として立っていたのが、ローザリア・ブルームフィールドだった。
俺の中で、その構図は最初から揺らいでいない。聖女ルミエラ様は救われるべき存在だ。彼女を追い詰めたのは、ブルームフィールド公爵家の令嬢たちだ。その事実は、教会によっても認められている。
それ以上の根拠は必要なかった。
教会は感情で動かない。神の加護のもと、事実を選別する存在だと教えられてきた。
だから俺は、あの夜見た光景をそのまま受け取った。ルミエラ様の涙は偽物ではない。
震えた声も、崩れた姿も、すべてが“守られるべきもの”の証明だった。
一方で、ブルームフィールド家の姉妹は違った。
ローザリア・ブルームフィールドは、冷静すぎるほどに冷静で、リリアーナ・ブルームフィールドは、最後まで姉の側に立っていた。
俺は理解した。これは“加害者側の態度”なのだと。
王命で呼ばれたときも、迷いはなかった。むしろ当然だと思った。王宮もまた、この事実を確認しようとしているのだと。聖女ルミエラ様の証言は、教会によって裏付けられている。それ以上に信頼できるものがあるとは思えなかった。
少なくとも、その時点の俺には。
ただ、応接室でのやり取りを思い返すと、わずかに残るものがある。
ローザリアの目は、恐怖ではなかった。
リリアーナの言葉は、取り乱したものでもなかった。
あれは“否定”ではない。
だが、“肯定”でもなかった。
説明のつかない、微妙なずれ。だが俺は、それをすぐに切り捨てた。あの場面で必要なのは疑いではない。確定された事実に基づく判断だ。
彼女たちは加害者である。ならば、違和感すらも“そう見せるためのもの”でしかない。
俺はそう結論づけた。
結論づけるべきだと、自分に言い聞かせた。迷いは、騎士には不要だからだ。
聖堂の光は変わらないまま差し込んでいる。
俺は静かに拳を握る。正義は揺らがない。揺らいではいけない。たとえその中に、説明のつかない小さな引っかかりがあったとしても。
それは誤差だ。そうでなければ、この国の秩序は成立しない。
聖女ルミエラ様は正しい。
教会は正しい。
そして俺の判断もまた、正しい。
そう信じている限り、この世界はまだ均衡を保てる。そう思った。
そのときは、まだ。
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