騎士の来訪3
ローザリアの問いに、エリオットはわずかに眉をひそめた。
「・・・は?」
吐き捨てるような短い声だった。
「何を言っている」
空気が一段、張り詰めるた。私は彼の反応を静かに観察する。当のエリオットは一歩も譲らない姿勢のまま続けた。
「決めたも何もない、聖女ルミエラ様の言葉は教会が“証明”している」
ローザリアが静かに目を細める。
「教会が、ですか」
その言葉に、エリオットの視線が鋭く跳ねる。
「当たり前だろ!聖女の言葉は教会が保証してる!それが全てだ」
相当苛立っている。理屈ではなく、“当然の前提”を疑われたことへの反発だった。
私は静かに息を吐きつつ口を開いた。
「ヴァイス様」
エリオットの視線がこちらに向く。
「貴方は教会が正しいと、どうして言い切れるのですか?」
その瞬間、エリオットの顔がわずかに歪んだ。
「は?」
低く、苛立ちを含んだ声。
「教会が間違うわけないだろ」
即答だった。
「聖女がいて、神の加護があって、それを認めてるのが教会だ。それ以上何が必要なんだ」
ローザリアが小さく息を吐く。
「盲目的ですね」
エリオットの目が細くなる。
「盲目ではない!それが現実だ!」
言い切りはさらに荒くなる。
リリアーナは静かに問いを重ねた。
「では、聖女ルミエラ様の“証言”そのものは、誰が検証したのですか?」
エリオットは即答しかけて、一瞬だけ止まった。
だがすぐに吐き捨てるように言う。
「教会だ。教会が全部記録して、確認してる!それで十分だろ」
リリアーナはそこで、ゆっくりと理解する。
――“確認の中身”を見ていない。“確認したという事実”しか見ていない。
ローザリアが静かに言葉を落とす。
「つまり・・・教会が正しいと言えば正しい、違うと言えば違う」
エリオットの眉が吊り上がる。
「違う」
即座の否定。
「教会はそんな軽いもんじゃない!聖女ルミエラ様がいる時点で神聖さは証明されてる!」
声が荒くなる。
論理ではない怒りが混じり始めていた。
リリアーナは小さく息を吸う。
――この人は、“信じる順番”が固定されている。疑うという発想が途中に存在しない。だから崩れない。だから危うい。
リリアーナは静かに続けた。
「では、もし・・・その教会が誤っていたとしたら?」
その一言で、エリオットの空気が変わった。
「・・・あ?」
低い声、明確な敵意。
「あり得ない」
即答だった。
「教会が間違うわけがない、そんなこと言う時点で論外だ」
拒絶だ。考える余地すら切り捨てる声。
ローザリアがゆっくりと息を吐く。
「なるほど、そこが前提なのですね」
エリオットの視線が鋭くなる。
「前提じゃないそれが全てなんだ。見ろよ、現実を!聖女ルミエラ様は癒しを与えてる、それを教会が認めてる!それで現実だろ」
リリアーナは静かに彼を見つめる。
――現実を自分で決めている。だからそれ以上が入らない。
ローザリアが立ち上がった。静かな動作だったが、空気が切り替わる。
「今日はここまでにしましょう」
エリオットの目が鋭くなる。
「逃げるのか?」
攻撃的で、反射的な言葉だ。しかしローザリアは動じない。
「いいえ、今はあなたが信じているものの形を確認しただけです」
その言葉に、エリオットは一瞬だけ黙る。だがすぐに鼻で笑った。
「意味が分からないことを言うな」
そう吐き捨てて、踵を返す。扉が乱暴に閉まる直前、もう一度だけ声が落ちる。
「お前らが何をしたところで無駄だと思うけどな」
静寂が戻った応接室で、ローザリアが小さく息を吐いた。
「随分と荒いわね」
リリアーナは静かに答える。
「でも、芯は揺れていません」
窓の外、教会の白い塔が冷たく光っていた。私はその光を見ながら、小さく目を細める。
――まだ、壊れていない。でももう、“正しさ”は揺れ始めている。
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