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壁打ちのススメ~それぞれのAIの個性を小説で比べてみよう~「タイトル:頼られ過ぎる探偵」  作者: グーグー


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頼られ過ぎる探偵~あぜ道の嘘~クロード編2~

# 頼られ過ぎる探偵

## 第二話「あぜ道の嘘」


---


 津見原町の北端、山沿いに広がる田んぼは、まだ水が張られていなかった。四月の初めで、田植えには少し早い。土は湿っていて、長靴でないと歩きにくい。


 大垣弥太郎は革靴で来てしまったことを、あぜ道に足を踏み入れた瞬間に後悔した。


「そこじゃない。もう少し北」


 隣を歩く兼田武雄が言う。死んでから三日目の幽霊にしては、やけにしっかりした足取りだ。足取りというか、浮いているのだが。


「靴、汚れとるで」


「見えてます」


「ふん」


 兼田はそっぽを向いた。相変わらず愛想がない。でもここまで案内してくれているのだから、悪い人ではないのだろう。悪い人ではなかったのだろう、と言うべきか。


 弥太郎は気持ちを切り替えて、周囲を見回した。


 田んぼが左右に広がり、遠くに山の稜線が見える。集落からは五百メートルほど離れていて、夕方になれば人気はほとんどないはずだ。三日前の夕方、ここで何かが起きた。


「どのあたりですか」


「あの石の近く」


 兼田が指さす先に、用水路と田んぼの境目に大きめの石が転がっていた。弥太郎は慎重に近づき、しゃがんで観察する。石の表面に、黒ずんだ染みのようなものがある。


 目を細める。血、だろう。雨が降っていたら消えていたかもしれない。ここ数日、津見原は晴れ続きだった。


「頭を打ったのはこの石ですか」


「……そうじゃと思う。気づいたら倒れとった。それから急に、体が軽うなって」


 弥太郎はスマートフォンで写真を撮った。それから周囲の土の状態を確認する。石の手前、あぜ道の縁に、複数の足跡が残っていた。乾いた土にくっきりと。


 一つは長靴の跡。もう一つは、ゴム底の靴跡だった。サイズは違う。二人分だ。


「兼田さん、あなたは長靴を履いていましたか」


「ああ。田んぼに来るときはいつも長靴じゃ」


「山田さんは」


 男は少し考えた。


「……スニーカーじゃったと思う。妙じゃと思うた。田んぼのそばに来るのに、なんでそんな靴でと」


 弥太郎はもう一度、ゴム底の足跡を写真に収めた。それから立ち上がり、用水路の方へ視線を移す。


 水路の縁に、何かが引っかかっていた。


 細い棒のようなもの。弥太郎は枝を拾い、慎重にそれを引き寄せる。


 農業用の、短い支柱だった。よく田んぼのネットを張るときに使うやつだ。先端が泥で汚れている。でも、持ち手に近い部分に、泥とは違う色の汚れがついていた。


 弥太郎は眼鏡を押し上げ、顔を近づけた。


「兼田さん。あなたは突き飛ばされる前に、何か棒のようなもので叩かれませんでしたか」


 沈黙があった。


 弥太郎が振り返ると、兼田武雄は表情を固くして、用水路の支柱を見ていた。


「……背中を、叩かれた。急に。振り向く間もなかった」


「それから転んで、石に頭を打った」


「……ああ」


 弥太郎はビニール袋を取り出し、支柱を慎重に収めた。直接触っていないのは、一応の心がけだ。素人仕事だが、できる範囲でやる。


 この支柱と、足跡の写真と、石の染み。それだけで警察が動いてくれるかはわからない。事故死として処理されかけているならなおさらだ。でも何もないよりはいい。


「山田さんの家は、どちらですか」


「集落に戻ったら、うちの隣じゃ」


「少し遠くから見るだけです。家の様子を確認したい」


 兼田は弥太郎をじっと見た。


「……お前、探偵のくせに妙に慎重じゃな」


「慎重じゃないとすぐ警察に怪しまれるんです、俺の場合」


 なにせ情報源が幽霊なので、説明のしようがない。いつも遠回りをしながら、でも確実な証拠だけを積み上げていく。それが弥太郎のやり方だった。


 集落へ戻る道を歩きながら、弥太郎はふと聞いた。


「水の権利の話、長いことやり合っていたと言ってましたね」


「十年以上じゃ。うちの田んぼへの水を、山田が勝手に先に引いとった。組合にも掛け合ったが、うやむやにされてきた」


「最近、何かきっかけになることがありましたか」


 兼田の顔が少し曇った。


「……先月、組合の話し合いで、正式にうちが有利な裁定が出た。山田は逆上して、絶対認めんと言っとった」


 弥太郎はメモを取った。動機、十分ある。


 集落の入り口まで戻ってきたとき、一軒の家の前に男が立っているのが見えた。六十代くらいで、腕を組んで道路をぼんやり眺めている。


「……あれが、山田じゃ」


 弥太郎は歩調を変えず、でも目だけでその男を観察した。山田は弥太郎をちらりと見たが、見知らぬ人間と思ったのか、すぐ目をそらした。


 表情は、読めなかった。


 ただ一つだけ気になったことがある。山田の家の玄関先に、泥のついたスニーカーが脱ぎ捨ててあった。


 弥太郎は通り過ぎながら、スマートフォンのカメラを腰の高さで構え、シャッターを切った。


「……お前、やるじゃないか」


 兼田武雄が、初めて少しだけ感心したような声を出した。


「まだ何もできてません」と弥太郎は言った。「でも、糸口はありそうです」


 夕陽が山の向こうに落ちかけていた。


 弥太郎の革靴は、すっかり泥だらけだった。クリーニング代くらい請求できればいいのだが、依頼人は幽霊なので、それも難しい。


==========


【クロードの弥太郎はちょっと落ち着いた雰囲気がありますね。淡々とした静かな空気を感じます。でもきっと田舎の儲かっていない探偵は革靴を履いていないと思うな……。風景の描写やなんかは美しく詩的ですね。ラノベより小説寄りというか。好きなテイストです。】

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