†第16章† -64話-[VS魔拳士エシャンタ②]
遅くなりました。あと、勇者戦も絶対遅くなります。
「勝手な事しやがってっ!終わったら説教してやるっ!」
『説教する元気残ってるかなぁ~?』
「わかってんのかっ!?お前が死んだらどっちにしろ俺が水無月宗八に殺されるんだぞ!」
『生き残ればいいだけじゃん』
先ほどまでの絶望的な雰囲気はどこへやら……。
精霊との”家族関係”において、宗八が親子であったのに対しクライヴは祖父と孫の関係に近い。
軽快な会話の裏で身体中に神力が染み渡る過程でクライヴの存在感は規格外に上昇していく。
その様子を見守っていた魔拳士エシャンタは、これ以上の手心は不要と判断し、会話に割り込み重い拳を振るった。
赤熱した拳が言い合いをする無防備な二人に直撃し———爆発した。
だが、今までは振り抜けていた拳がその場から動かない事にエシャンタは戸惑う。
黒煙の中から姿を現したクライヴは片手でエシャンタの巨腕を受け止めていた。
「ナニ……!?」
防御の構えと防御魔法を重ねたうえで毎度吹き飛ばされていたクライヴが、何故か片手で受け止めその場に佇んでいる。
その姿に思わず声を漏らすエシャンタの僅かな隙に、クライヴが受け止めた巨腕を殴りつけると、今までとは逆にエシャンタが力負けして腕が弾きあげられる。
それだけに留まらず、エシャンタの懐に素早く潜り込んだクライヴは構える。
「≪魔力……≫」
何度も受け、傷のひとつも付けられない小さな拳圧砲。
しかし、先ほどとは存在感の異なる相対者にエシャンタは警戒して核を守る姿勢を取った。
「≪拳圧っ!≫」
予想外だったのは、放たれた拳圧が拳大から自身を包むほどに範囲が広がっていた事と———その威力。
凄まじい衝撃が全身を襲い上半身は無事だったが、下半身は消し飛ばされた。
ダメージを負いながら中空を舞うエシャンタだが、クライヴもまた意識が遠退き足元がふらついた。
「な、なんだこの脱力感……?」
味わったことのない感覚に戸惑うクライヴだったが、孫は状況を理解していた。
『はぁ……っ!?水無月宗八から説明されていたじゃんっ!爺は制御が甘いから気を付けろって!』
脱力感の正体は単純明快。
扱い慣れない神力を身体に取り込みステータスを上げたことでエシャンタを上回ったのだが、その神力を制御出来ずにぶっ放したことで八割ほどが失われ……。
結果、急激なステータスの低下と魔力欠乏を引き起こしたのだ。
順次生成される神力が身体を再度巡り始めれば意識がはっきりとしてくる。
万能感に任せて先ほどの様に戦えば何度もこの感覚を味わう事になってしまう。
『もっと出力抑えて!さっきみたいな馬鹿範囲で攻撃しないっ!こっちは神力生成と管理で精一杯だからっ!』
無精グリューンも必死だ。
彼も死にたいわけでは無いが、勝つためには神力を使用しなければならない。
攻撃への利用はクライヴの役割なので、その糞下手くそな制御に声を大きくする。
「う、うるせぇな……。次は失敗しねぇからそんなにヤイヤイ言うなよ……」
『こっちは命掛かってんだよぉ!』
無精グリューン、魂の叫びだった。
体調が戻ってきたクライヴの眼前でゆっくりと起き上がるエシャンタは、先ほどまでとは空気感がガラッと変わり殺気立っていた。
「ソノチカラ……オモシロイ!」
消し飛んだ下半身は再生力の高い植物だったことも相まって完全に元の状態だ。
『出来れば背の羊を優先して倒してね』
あの巨体で素早く動き回り攻撃時の爆発力の源は、すべて羊が操る魔法だと無精グリューンは見抜いていた。
「———行くぞ」
「———コイ」
二人の姿が消えた。
空間中、至る所で激突音が木霊する。
骨格上横振りと叩きつけしか出来ないエシャンタの方が本来は一方的に嬲られてもおかしくない場面だが、羊の的確な支援を受けクライヴの拳速に負けず劣らずの戦闘はどこまで行っても平行線だ。
ひと際大きな激突後、二人は脚裏を引き摺りながら離れた位置に姿を現す。
『そろそろ満タンになるよ。試しても良い頃合い』
戦闘中も僅かずつ無精グリューンは神力を生成していた。
それをクライヴが精霊の呼吸で吸収出来る限界近くまで蓄えたことで、先ほどと同様のぶっ放しをしてしまっても複数回試せる程度には余裕を持たせる事に成功したのだった。
「ここからは、いつ死んでもおかしくないぞ」
「ヤッテミセロ」
一本一本の指を親指に握り込みながら警告するクライヴに、エシャンタは両拳を赤熱させながら応え再び二人は姿を消した。
激突音の合間に爆発と拳圧砲が入り交じる戦闘は、更に激しさを増していた。
接触しなければならないエシャンタとは異なり、クライヴの≪魔力拳圧≫は拳圧を飛ばす魔法である故に距離が開いていても攻撃を加えることが出来る。
だが、雑に放たれる拳圧砲は広範囲である事と引き換えに威力が分散してしまう欠点を見極めたエシャンタにとって、時に絶好の攻撃タイミングとなり防御で突破してはクライヴを殴りつけた。
「ぐっ……。痛ぇは痛ぇけど、動きを阻害するほどじゃねぇ! ≪魔力拳圧!≫」
扱いに慣れて来た神力仕様の拳圧砲がクライヴの拳から放たれた。
それは先ほどまで見せていた無様なものではなく、被弾しつつも懐に入ったクライヴ決死の拳。
宗八が見れば失格の烙印を押すレベルの甘い制御だ。しかし、彼なりに収束出来た拳圧は先の1/3ほどに圧縮されエシャンタの必死の回避も虚しく肩を軽く穿った。
接触は肩だったにも拘らず被害は甚大だった。
片腕は千切れて宙を舞い、心臓核に近いところまで身体は吹き飛ばされ、背の羊と蛇の尻尾が失われたのだ。
結果、超重量の片腕とサポートの羊を失った事でバランスを崩したエシャンタの身体が傾いた。
「≪———魔拳極砲ッ!≫」
この瞬間を勝機と見たクライヴは、残る神力全てを注ぎ込み思考の赴くままに打ち放っていた。
目の前が拳圧砲の光で眩く奪われる中。クライヴの耳にエシャンタの最後の言葉が届いていた。
ミゴト———。
最後の最後に認めてもらえた満足感に浸りながら、クライヴは魔力欠乏に陥り意識を暗闇に沈めて行った。
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