†第16章† -65話-[VS結界士ラファ]
大変お待たせいたしました。
闇精使いプーカは、”結界”の特性を見極める為、攻撃を試しつつ基本は回避重視で観察をしていた。
対する結界師ラファは、両目は布で閉じられ、両手を大杖で貫かれ、髪は伸び放題で足元を埋め尽くしている。
また、捻じれた一部の髪が第二の腕となり不自由な両手の代わりに戦闘に用いるのだが、まるで罪人のような印象を受けると同時に、その立ち姿は清廉な印象も受ける程に神秘性を帯びていた。
そして、彼女が操る結界は二種類ある事が判明した。
範囲の指定が必要な”詠唱”と、髪腕の動きをキーとする”無詠唱”だ。
右髪腕が動き、距離が離れているのにプーカに向けて掌打を放つ。
その動きは機械の様に何度も繰り返された。
一方、プーカの視界には四角い歪みが自分に迫る様子が見えていた。
「一枚なら脅威じゃない」
わかりやすく言えば”透明な薄い壁”が飛んでくる魔法。
プーカが突き出した短剣が当たると、少しの抵抗感を感じながらもパリンッと簡単に破砕する。
連続で飛来した透明壁を順当に砕いていく中で破砕音に交じり、カシャ———というガラスを丁寧に重ねた様な音が三回聞こえた。
「≪闇食の一撃≫」
三重になった透明壁はその勢いも、強度も三倍となり、プーカに迫る。
しかし、冷静に魔法を食べる闇を纏った突きで対抗した結果、盛大な破砕音が空間内に響く事となった。
『(左髪腕が何かを振り上げてるよっ!)』
闇精ダスクが結界師ラファの動きを警告する声を聞き、プーカはいつもの戦法を選択した。
「≪編盾!≫」
広がった影から複数の帯が伸びて、織り交ざりながら素早く完成した盾に一直線上の歪みが降って来る。
接触直前に重ねる音が三度微かに聞こえ、目の前の盾がその威力に歪みながらも耐え切った事で三重の威力もおおよそ計る事に成功した。
「発動が動きを起点としている以上、重ねられる層も多くて五重まで、かな……?」
見せかけの可能性もあるが、そんなものは実際に直面してからでなければ対策のしようがない。
『(新しい手の形ですよ!)』
右髪腕は相変わらず牽制に歪み壁を撃ち続けている。
そのうえで、左髪腕が高い威力の攻撃を加えるのが結界師ラファの基本戦術なのだろう。
人差し指を伸ばし親指を立てた奇妙な手の握りをプーカに向けるラファの左髪腕が跳ねあがった。
瞬間———。
円状の歪みが編盾に衝突し……勢いそのままに貫通してプーカの頬を掠り過ぎて行った。
横目で確認出来た歪みは実際には円錐状であり、馬上槍の槍先の様に長く尖っていた。
「盾、剣、槍……。他に打撃に特化した結界があるかもね……」
プーカは素直にラファを評価していた。
精霊と契約していない人の身で、よくぞここまで時空魔法を使いこなしているな、と。
異形となって肉体強度は強靭になっても、時空魔法の制御力が人間時代から成長したわけではない。
むしろ、戦闘が始まってからただの一度も動いていない結界師ラファは、人間時代と同じ力のみでここまで戦っている事に。その才能に。そのセンスに……、プーカは冷や汗が止まらなかった。
「ここまでコンセプトが違うのも凄いよね?」
プーカの称賛に闇精ダスクも肯定する。
『(水無月宗八は闇魔法を万能と言いつつ攻撃手段は少なかったですからね。結界師ラファは良い教材です)』
そもそも闇精は引きこもり体質で人と契約する事も稀である。
そして研究や奉仕に特化している事で戦闘に関しても適正は無い為、宗八も愛娘の闇精クーデルカ以外の闇精については二の次にしていたのだった。
その後も三種の結界で攻撃を繰り返すラファに対し、プーカとダスクは適切な対処を猛烈な勢いで学んでいった。
牽制、敵の態勢崩し、防御にも使える不可視の盾。最も使用頻度が高い。
最大で七重まで重なった壁も受ける機会があったが、溜め時間が僅かに発生する為、発生に気付けば回避は容易だった。
そのほとんどは短剣で砕けるので早々に脅威では無くなった。
一撃必殺の強攻撃として用いられるのが不可視の剣。
髪腕の可動範囲が関節を無視できるだけに三六〇度に振り回す事が出来る故に、背後へ転移しても横薙ぎに放ってくるのでシンプルながら一番厄介な攻撃手段だった。
しかし、人間の過半数以上は武器に剣を選ぶだけありプーカも剣に対する経験は豊富な為、体術での回避と短剣でのパリィで全てを凌ぎ切った。
射速が最も早く貫通する事に特化した不可視の槍。
射程も長い為、隠密しながら防御力も高い敵を倒すには有効であろうが、索敵役で視野が広く闇精使いプーカからすれば実は一番対処が楽だった。
歪みが見える以上、短剣をそっと添えるだけで明後日の方向へ消えていく。
いくら七重になって射速が音速を越えようと、ユニゾンしたプーカ達の動体視力を乗り越える事は叶わなかった。
やがて……。
哀しいかな———。
人の限界と精霊の限界には絶対的な差が存在する。
「≪———次元衝!≫」
髪腕が牽制に放つ透明な壁が二者の間で砕け散る。
「……っ!?」
髪腕の振り下ろしに対し、プーカは振り上げる。
「≪———次元斬!≫」
再び、中空で破砕音が響き二人の間で何かが砕ける。
「……………クフフ」
髪腕は両手で銃の構えを取り連射する。
「≪———次元弾!≫」
飛んでくる槍先に寸分違わず同じ威力で当て、三度目の破砕音が空間に響く。
「精霊使イトハ、ココマデノモノナノカ……」
ついに闇精ダスクの解析が完了し、真似して組み上げられた魔法が結界師ラファの結界術を正面から打ち砕いていく。
かつての魔王を相手にした際も攻撃の起点作りに活躍した結界術が、短時間の間に徐々に対策されて行く様は異形化したラファの残滓に焦りを生んだ。
様子見は早々に終わらせ、三種の結界術も七重を解禁しコンビネーションで攻撃も始めたというのに、その時点で判断が遅すぎた。
髪腕が解け床に重なる。
「君ハ彼ラノ中デ、ドノクライノ立チ位置ナノダロウカ?」
喋った事に驚きはあるものの、ラファから発せられていた敵意も瘴気も収まったことで構えはそのままに答えた。
「私は加入が一番遅かったです。ただ、闇精使いなので貴方の時空魔法が視認出来た事が大きいです」
表情に変化があった。両目は布で隠されているが顔の動きから驚きが見られる。
「時空魔法? 私ノ結界術は特殊ナ体質ノ賜物デハ無カッタトイウ言ウ事カ?」
ショックを受けたというよりは、自分の力の事実を知って知的好奇心が沸き上がった様子だ。
「貴女方が活躍した時代は、精霊と人間は今ほど近い距離間では無かったと聞いています。そんな時期に時空魔法に気付き、戦闘に組み込めるまで研鑽したのは間違いなく貴女の功績であり、八百年後の今でも十分に通用する代物であったことを私達は高く評価しています」
結界師ラファは空間への干渉力を高める為に視界をわざと塞いでいた。
結果、時空魔法の制御力が鍛えられ攻撃的な結界術が完成したのだ。その塞がれた真っ暗な視界の中に浮かび上がるのは、胸に手を当て心から自分を讃えてくれる強敵プーカの姿だった。
「……感謝シマス。ココデ君ノ時間ヲコレ以上奪ウノモ心苦シイ。ヒト思イニコノ役割カラ開放シテオクレ」
大杖で貫かれた両手で心臓核を示すラファの様子に、プーカは嘘は無いと思った。
「最後ニ些細ナ願イヲ聞イテモラエナイカ? 叶エラレナクトモ恨ミハシナイ」
「どんな願いですか?」
禍津屍の身でありながら、ここまで強い意志を示すラファが伝える願い。
敵として出会い交わした言葉は少なくとも、操る結界術は素晴らしく元勇者PTの凄まじさを目の当たりにしている。
だからこそプーカも心から聞き、自分に出来るのであれば願いを叶えたいと思った。
「———オーティス、アリア。アノ二人ヲ救ッテヤッテクレ」
「———任せてください」
プーカは即答した。
何故とは聞かない——。どうやってと疑問を持たない——。
尊敬できる先達であり、時空魔法の大先輩の願いにプーカは二つ返事で叶えると誓う。
「≪神の心臓≫」
返事に満足気であった結界師ラファは、見えない視界の中に強力な神聖を感じ取った。
「後輩ハ遥カ先ニイタワケカ……。コレハ期待出来ソウダ……クフフ」
心臓の鼓動に合わせプーカの内部で高濃度魔力が神力へどんどんと変換されていくにつれ、彼女の存在感が大きくなっていく。
最後の一撃を放てるだけの神力が生産された時点で、プーカは短剣を天に掲げた。
「≪———月虹≫」
剣身が虹色に輝くままに振り下ろされる。
願いを言われ、承諾した。その会話を最後に、結界師ラファは心臓核ごと真っ二つに斬り裂かれた。
二つに分かたれたモノが倒れながら消滅しているその背後には、アリアが施した隔離空間に切れ目が入り、勇者と魔王の戦闘音がプーカの元まで聞こえて来ていた。
ラファが使用する攻撃手段については事前に考えていましたが昨今のインフレに対して弱すぎて……難産に……。勇者PTの戦闘はいわゆる”前哨戦”なので細かく描かずパパっと済ませる意識を持って描いております。




