†第16章† -62話-[VS聖弓士トリトン]
インフレしているからバランスが難しすぎる。ここからずっとボスラッシュだし、本当に今年中に完結まで行けるのだろうか……。
「キィィィイイ!」
トリトンが巨弓腕の瘴気弦を三本ある右腕で引き絞る。
弦も矢も物質ではない為、三本の腕が交互に矢を放つ事で絶え間ない瘴気矢が放たれた。
それぞれの矢は飛び方が異なり、ストレート、ジグザグ、カーブなど全体の動きを追わなければ被弾し、そこから粘つく瘴気が体内に潜り込もうと身体を張って来る。
普段は機動力もあるミリエステだが、矢の特性と矢幕に押されて首と瞳が忙しなく動く。
「≪ブレイズダンス≫」
爆発こそ花形とばかりの魔法ばかりの火属性魔法だが、唯一幼い火精フラムキエの為に組み上げられた魔法だけが、その手数に対応出来ていた。
ミリエステの周囲で待機していた緋色の短剣が腕の振りに合わせて射出され、空間を所狭しと瘴気矢を撃ち落とし小さな爆発が発生する。
「キキィ!」
小爆発とはいえ視界はかなり狭まり限定される。
その間隙を付いて、トリトンは超速移動で糸を変え弩の如き瘴気砲が大弓から放たれた。
「赤竜の赫焔咆哮」
精霊の協力もあり移動先を特定し、相殺する為に構えられた大杖から灼焔の砲撃が放たれ、瘴気弩を防ぐ間にトリトンの姿は再び消え、ミリエステの隣に大弓を振りかぶった状態で現われた。
こういう時こそ声を殺す様子に明確な意識をミリエステは感じ取りながら大杖で受け止める。
余裕はある。しかし、これ以上の発展は見込めない事を魔法使いミリエステは肌で理解していた。
「キィ……」
どうやらトリトンも膠着状態であることは認識しているようだ。
「やはり、意思があるようですね……」
鍔迫り合いは一瞬で、トリトンは再び距離を稼ぎ弦を引く。
「———神焔鎧装」
精霊の成長度合いからしても、精霊使いの成熟度合からしてもアルカンシェ達と勇者PTの”ユニゾン”の深度は雲泥の差がある。
継戦能力や精霊への理解。そして契約者への負担。
ひとつの技能にここまで差が出るとは宗八も想定していなかったが、事実として契約者である人間に力に相応しいだけの負担が発生する。
彼女の身体に相応しい鎧が神力によって物質化する。
その瞬間から———ミリエステの体温が上がり始める。
「全力で行きますっ!」
宣言通り隔離空間の中を支配する為の魔法を発動する。
「≪火蛍!≫」
攻撃力はなく、唯々灯りと一定範囲の索敵能力を有した魔法だ。
その灯りが蛍の様に空間全体に飛散する。
「≪灼光散弾!≫」
魔法を詠唱すると、彼女の周囲に小さな白い火球が数十出現する。
これは神力運用を相談された宗八がミリエステの為に組み上げた魔法だった。
火球は小さくとも神力により生成されている。
神力は常に≪神の心臓≫から供給され続けるが生産量は発動者によって異なる。しかし、その量が少なくとも体内で溜まり続ければ先の様に倒れてしまう。
だから———。
「バンッ」
人指し指が跳ね上がる。
トリトンへ向けて火球群が一斉に射出され、すぐさま補充され待機状態となる。
「キィキィ……」
甘いと聞こえそうな余裕のある鳴き声を残し、その場を離脱したトリトンが見たものは———。
自分に向けられ跳ね上がる人差し指だった。
「———バンッ」
「バンッ」
「バンッ」
「バンッ」
「バンッ」
「バンッ」
明らかに反応速度が速くなっていく。
爆風が届く程度だった被害が、徐々に、確実に。熱が身体を焼き、皮膜が弾け飛び、腕の一つが吹き飛んだ。
まだ弦を引ける二つの腕があるうえに、自己修復能力を持つトリトンはまだ余裕があると思っていた。しかし、攻撃する隙が一切ない事だけが気がかりとなる。
「≪爆裂粘膜≫」
ミリエステの周りに紅いスライムが三体現れた。
スライムにしては内蔵する魔力が神力なので、その存在感は計り知れない。
「突撃」
既に連射される火球によって爆炎に包まれている空間内でひと際大きな爆発が三箇所発生する。
内蔵する神力が尽きるまで敵を追い、着弾地点で爆発を起こす粘着体三体が時間差で突撃を繰り返しトリトンを追い始めた。
「バンッ———」
「キィッ!」
粘着体に追われ立ち止まる事すら無くなったトリトンは、高速移動を実行し続ける合間にも矢を放つ。
状況を理解しているのか、復活した腕も含めて射撃される矢はすべて砲撃に変わっている。
だが、すべてがミリエステに向かったわけでは無い。やはり、追われる立場なのが負担なのか二本が粘着体に放たれた。
『≪神力閃焔≫』
しかし、三本の砲撃は瞬く間に消し飛ばされた。
粘着体は数度の爆発を消費しながらも砲を貫きトリトンの側に着弾し、ミリエステを狙った一本も火精フォデールの魔法で相殺……。いや、吹き飛ばしトリトンを貫通した。
「……キキィ」
光速で放たれた閃光が心臓核を掠った……。
神力による万能感と尊師と仰ぐ宗八の魔法のおかげで、いつまでも戦えそうな高揚感が綯い交ぜになったミリエステの精神は冷静冷徹に落ち着いていた。
移動砲台として普段は教えられていたミリエステの足は、神力を解放してからは一切動いていない。
その場に留まったまま。大杖を片手に持ち、空いた左手は常にトリトンを狙い引き金を引き続ける。
使用する魔法は少ない。
だというのに、トリトンはいつの間にか回避を優先して攻撃頻度が低くなっていく。
「バンッ———」
やがて腕が一本吹き飛び、二本目が爆散し、三本目が狙い撃たれ、巨腕弓が爆発四散した。
蓄積した炎熱ダメージで動き続ける両足も限界が近かった。
再生力を上回る攻撃の激しさは、トリトンたちの期待を上回る望外の戦闘力である。
「バンッ———」
最後の散弾をトリトンは避け切れなかった。
踏み込んだ足が砕けたのだ。
心臓核を有する上半身だけを残し、四肢のすべては焼け落ち床を転がる。
神力が消費され小さくなった粘着体も動きを止め、トリトンを囲い様子を伺っている。
「………」
指を向けたミリエステの口から発動キーが発せられない。
意思を感じた。先達として、勇者PTの先輩として。何かを伝えようとしていた。
だが、現在の立場が、身体が、存在がソレを許さなかった。
「————お疲れさまでした。トリトン様」
ミリエステの深いお辞儀を見届けたトリトンは、か細い声を漏らす。
「≪神力閃焔≫」
中心を貫通した閃光によって心臓核は完全に砕け散り、ミリエステの足元に再び魔方陣が出現するのであった。
・★★★★★評価
・感想
・いいね
読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、応援いただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。




