†第16章† -61話-[VS瞬剣士ウージー②]
ブラッシュアップする元気がない。
どうやら、巨腕剣の強度を魔法聖剣の攻撃力が上回っているらしい。
何度も諦めずに剣を打ち込み続けた結果、表面に凸凹が生まれ、ソードパリィを受ける際にその凸凹が魔法聖剣に斬り飛ばされている状況だと判明した。
『現状、あちらの防御力をわずかに超えているなら』
「神力を使って短期決戦が最適解ってことか……」
———神力。
魔力を凝縮した高濃度魔力を更に凝縮させた、強力であり危険な代物。
大魔王城ダンジョン一階層で魔法使いミリエステが短時間で倒れた原因でもあった。
「だが、ウージーも手札を隠している感触があるんだよなぁ」
戦い続けてマクラインもウージーに違和感を感じ始めていた。
安定し過ぎているのだ———。
禍津屍にしては、ヒット&アウェイで一瞬十撃と撤退、反撃されれば斬り払う。
被弾など気にせず何が何でも生者を殺そうと死に物狂いで襲い掛かって来ていた記憶とは違い過ぎる。
今の戦闘スタイルだけでも十分に強い事に間違いはないのだが、勇者の仲間がこんな単純な戦術だけで戦ってきたわけがないと思う。
『まるで試されているみたいです』
そう、試されている。
単純な戦術で潰されないだけの実力を示した。
「負けはしないが勝てもしない、か……。なら、次のステージに進むべきだな」
重騎士マクラインの判断に地精オーヴィルは意外に思った。
『判断が早すぎるです。まだ五分程度ですよ?』
単調な攻防だったからこそ長く感じていたが、実のところ然程時間は経っていなかった。
「水無月殿の支援が無ければ、おそらくここも超えられていないんだ。だったら、恥も外聞も捨てて全力を選択しても悪くないと考えたんだが、オーヴィルはどう思う?」
地精オーヴィルは鼻で笑う。
『いま≪シンクロ≫中ですよ? ボクもつまらない時間よりもワクワクしたいです。だから———耐えてくださいね』
契約精霊が幼い。魔力制御が拙い。精霊使いとして格が低い。
諸々の理由で、魔法使いミリエステは自身が発する熱で死にかけていた。地精使いのマクラインは、常に膝を付けたくなる程の倦怠感がデメリットとして発生するのだ。
身体的な問題のミリエストと違い、マクラインは精神的なデメリットとなっていた。
「《神の心臓!》」
胸を叩き詠唱する。
心臓が脈打つ度に自身の内部で暴れ回る神力を感じる。少量であっても自分達では制御もままならない二人は、すぐに次の詠唱を口にする。
「『《———神坤鎧装!》』」
物質化した神力エーテルが身体に鎧を纏わせ、剣を大剣へと変化させた。
凄まじい倦怠感がマクラインを襲うと同時に、存在感が急激に増した事を察したウージーの動きが止まる。
逆にゆっくりと腕を引き絞るような動作に移り、先ほどまで笑っていた声も鳴りを潜め、瘴気濃度が爆発的に高まった。
『来るですっ!』
警告する声は炸裂する音に掻き消されると同時にウージーが高濃度瘴気を纏った突きを放つ。
「っっっぐぅぅぅっ!うおおおおおおおっ!」
神坤鎧装は完了しているというのに押し返せない。
只の突きではない。高濃度瘴気を纏っている巨腕剣を常に大盾突き進み続ける原動力がある。
『背面にキメラの要素があったみたい。空気を噴出して推進力を得ているです!』
報告通りに巨腕剣と大盾が奏でる削り合う不協和音に混ざって、この場の空気が激しく掻き混ぜられる感触をマクラインは感じていた。
「≪グローリーガード!≫」
マクラインが詠唱すると、大盾から神々しい光が放たれた。
その光は破邪のチカラを発揮して巨腕剣だけでなく、ウージー自身にも纏わりついていた高濃度瘴気を浄化せしめ、威力を落とす事に成功する。
「【シールドバッシュ!】」
神坤鎧装でステータスが倍増しているマクラインの攻勢も起点は、再び巨腕剣搗ち上げるに留まる事無くウージーの体幹も崩した。
背面の噴出は前進にしか使用出来ないらしい。
崩れた体幹は、化け物の身体を持ってしても噴出の影響で簡単には立て直せず宙をクルクルと舞う。
「ここだぁぁぁぁぁっ!」
どこに当たろうと絶対斬り裂く、という気迫で倦怠感で膝をつきそうな身体に鞭を打ちマクラインは剣を振るった。
「ギギィ……」
この期に及んでも化け物らしく剣から逃れようと無理矢理身体を捻り、巨腕剣が一瞬ウージーの身体に隠れた———。
逃がさないとばかりに迫った魔法聖剣がウージーを正に斬り裂こうとした瞬間、ウージーの向こうから高濃度瘴気で剣身が漆黒に染まった巨腕剣が振り抜かれ魔法聖剣を弾いた。
先ほどの様に”纏う”ではない。完全に染めているのだ。
『あれでは、グローリーガードも完全に効果を発揮しないですよ……』
「いや、今は”なんで切断出来なかった”のか、だ。こっちは神力で神坤鎧装してるんだぞ……」
無事に着地したウージーは距離を取り、次の行動を考え込んでいる。
最初の獣染みた攻めっ気はなんだったのかと思うほどに、隠す気も無い姿を晒すウージーにマクラインは怒りを覚えた。
底が見えた———。
あの姿がそう言っているように聞こえるのだ。
『そんな事を言っている場合じゃないみたいです……。もう時間がないです……』
マクラインの感情や戦況など関係ない。
地精オーヴィルは、マクラインの身体の限界が近づいて来た事を察していた。
ミリエステと違いまだ一、二度の攻防だけで限界が近い理由は、単純にマクラインに”魔法適性”が低い所為だった。
汗も酷い。顔色も悪い。
自身の体調が急激に下降し始め、倦怠感もどんどんと増大している事にマクラインも気付いていた。
『———耐えるですよ!』
大盾を重い身体を酷使して構える。
ウージーも先ほどと同じ構えで突喊して来た。
「≪グローリーガード!≫」
凄まじい衝撃に耐え、タイミングを合わせ発動した破邪の光が漆黒を黒に堕とす。
今度の当たりは一瞬だった。ウージーはひと当てすると、器用に身体を回転させてマクラインの頭上を通り背後に回ろうとする。
『《堅固の盾腕!》』
咄嗟にオーヴィルが発動した魔法は本来防御魔法だ。
地面から迫り出した強固な拳が飛び越えようとしたウージーを殴り飛ばし、その身は高く宙を舞う。
再現された状況———だが。
「≪———|地神聖剣《レグジオ=エクスカリバー》っ!!≫」
半端な攻撃では倒せない。
神力を使用する最上級魔法聖剣を絞り出し、力なく振るわれる剣は到底宙を舞うウージーには届かない。
剣身は届かなかった。しかし、伸びた魔力刃が剣の振りに合わせてウージーの身体を通り抜けた。
「グ?」
痛みを感じない身体の機能に支障が発生した。
右肩から入った魔力刃が身体を二つに分けるついでに心臓核も斬り裂いていた。
視界の端から黒に支配されて行くウージーが最後に捉えたのは、満身創痍で倒れ込むマクラインと、己の死を見届ける小さな地精の姿であった。
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