†第16章† -55話-[大魔王城攻略③]
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大魔王城攻略六日目———。
ようやっと第二階層を突破した勇者PTは、第三階層を前に様子をみていた。
「コンセプトがまたガラリと変わったわね」
魔法使いミリエステの言う通り、一階層は単純平凡な一方通行ダンジョンで時折、後方で敵がリポップして挟み撃ちになる事もあった。
二階層は戦闘は少なめになる代わりに凶悪なトラップが大量にある地獄のようなコンセプトだった。
そして、三階層。
五人の視界には、個室を隔てる壁も通路も存在しない。
「所謂、モンスターハウスって階層だな」
「トラップもあるよ」
拳闘士クライヴの解説に義賊プーカが補足する。
つまり、モンスターに囲まれながら戦闘しつつトラップの対処もしないといけないという事。
「え? こんなダンジョンあり得るのか?」
流石の理不尽に重騎士マクラインが経験豊富なクライヴへ問い掛けた。
PT全員の視線がクライヴに注がれる。
「……流石は大魔王ダンジョンだな。ここまで凶悪なダンジョンは初めてだ」
上級ダンジョンだけあり、モンスターの索敵範囲は思いの外広い。
立ち止まってモンスターを相手している間に索敵に引っかかりどんどんと集まって来るので、階段に駆け込むような動きが最適解と思われるが……。
「次の階段……どこだ?」
冒険者には必需品と言われる一つ。
望遠鏡を覗き込みながら勇者プルメリオは疑問を浮かべる。
全員でいくら見回しても、上層に繋がる登り階段が見当たらないのだ。
身体の大部分が階段に掛かっている間はモンスターの索敵には引っかからない。
このダンジョンで唯一の安全地帯である階段からしばらく眺めて見たが、やはり上層への階段が見つからない。
「もしかしたら……」
ミリエステの言葉の続きをプーカが続けた。
「二階層と同様にワープトラップがある……?」
自分達を苦しめた”ワープトラップ”という言葉だけで表情が暗くなる前衛三名。
とはいえ、二人の意見は最もだった。
視界に無ければ見えないところに階段があるのだろう。と言う事は、虱潰してトラップをひとつひとつ確認しながら、時にはわざと踏んで攻略しなければならない事を意味する。
「勇者って……こんなに大変な思いでラストダンジョンをクリアしてるのか———?」
物語の勇者はなんか……こう……最後までキラキラしていた。
苦労はあったが最後までなんでもないかの様に装い、読者に勇者の冒険がどれだけ大変なのか伝えなかった。
物語の勇者にとって、読者もまた、守るべき対象だったのだ……。
プルメリオが異世界人であると知るPTメンバーは、彼の呟きに返答出来なかった。
唯一答えられるとすれば、彼の印象を理解出来る水無月宗八だけだ。
「とりあえず……少しずつ探索しようか……。トラップはプーカに任せるしかないけど、致命的じゃないなら効果と位置を教えてくれ。ある程度なら我慢しながら敵と戦えるから」
「了解」
それから、魔法使いミリエステが火魔法で敵をアクティブにし、重騎士マクラインが近づいた敵のヘイトを稼ぎ壁となる戦法で少しずつ大部屋の調査が始まった。
黒騎士シリーズの剣・槍・魔の三騎士は基本的に三人組でフロアをうろつき、別グループが近ければリンクして六人で襲い掛かって来る時もあった為、距離感を肌感覚で覚える必要があった。
また、新モンスターの黒戦狼がもっとも厄介と評さざるを得ない。
二足歩行で戦う戦狼の上位互換のひとつで、黒い毛皮は並みの剣も魔法も通さず、デュラハンと同等の巨躯は威圧感が凄まじかった。
「おい!また来たぞっ!」
「俺が!」
重騎士マクラインの掛け声に素早く前に出たのは、勇者プルメリオだ。
戦いが始まればどこからともなく嗅ぎ付けて、真反対の壁際に居ようと戦闘に介入して来る黒い狼の前に盾を構えて待ち構える。
「グルゥアアアアア!」
本物の獣が四足歩行で駆ければ、その巨躯も相まってすぐにプルメリオの前に辿り着いた。
勢いそのままに掬い上げるように振るわれる鉤爪が盾にぶつかると、甲高い音共にプルメリオが後方にノックバックされPTから離された。
孤立したプルメリオを追って更に爪を振るう黒戦狼。
初めての接敵時には他のグループの索敵範囲まで飛ばされ慌てたが、すでに数度目ともなると戦い方もわかってきた。
この黒戦狼はデカイ図体の割に慎重派なのだ。
戦闘中のPTから一人を弾き飛ばし孤立させ、一対一での戦闘に持ち込む。そして、仲間が集まってくると戦いから退いてまたチャンスを伺う事を繰り返す。これで4度目ともなれば、飛んで行った勇者に誰一人として目もくれない。
「でも、モンスターハウスって不思議ですね」
戦闘中でも余裕を見せて話しかけてきたマクラインに、クライヴが視線を向けて続きを促す。
「大部屋で何匹もモンスターが居て、明らかに視界内で戦っているのに集まって来ないなんて……」
クライヴも若い頃は同じ疑問を浮かべたものだ。
まだまだ若いマクラインの疑問に、年長者としてクライヴは情報を与える。
「奴らは普通の生き物じゃねぇ。ダンジョンが生み出した疑似生命体なんだよ。だから、互いの獲物を奪い合うことは無い」
通常、生物は五感を使って周囲の状況を理解する。これは魔物も例外ではない。
だがダンジョン産のモンスターは、同じダンジョンで産まれた事を理解しているのか、互いを”同種”と認識している。
「ダンジョンを”親”だと思ってるってことですか?」
「そこまで解析されたわけじゃねぇが、当たらずとも遠からずって感じだろうな」
兄弟の獲物なら仕方ないので狙わない。
しかし、兄弟から離れた個体なら自分達の獲物である。
「索敵範囲っていうか、パーソナルスペースに引っかかったらって感じですかねぇ……」
兄弟と戦うのは好きにすればいい。
ただし、こっちに迷惑を掛けるようなら容赦しない。
そう考えれば、なんとなくモンスターハウスの攻略方法も見えてくる気がする。
「とはいえ、あのワンコロみたいに好き勝手する奴はいるから、全面的に今の話を信用すんなよ」
「わかってますよ」
イレギュラーはどこにでもあるものだ。
黒戦狼もダメージが蓄積したまま四度目の戦闘なのだ。
プルメリオ曰く、中ボス———というらしい。
マクラインが視線を一瞬向けた先で、プルメリオがトドメの一撃を放ち黒戦狼は煙となり消えた。
マクライン達の戦闘も程なくして終わり、一帯を徘徊するモンスターは一掃された。
「プーカ、トラップの配置はどうなっていた?」
勇者PTは、下り階段から部屋を突っ切るように大部屋の真ん中まで移動して来た。
各方面の壁際は怪しいが、プーカが索敵に引っかからない様に動き回りトラップを鑑定した結果……。
「ワープトラップは七つ。このうち一つが正解のワープで、他は敵のど真ん中に飛ばされると思う」
この部屋に登り階段は見つけられなかった。
つまり———。
「やっぱりワープなのっ!? もう!もうもう!」
珍しくミリエステが不満全開に地団太を踏んでいる。
もちろん全員が二階層で飲んだ苦汁を思い出し、ミリエステと同様に地団太を踏みたい気持ちでいっぱいだった。
「流石にどこにワープさせられるかは、分からないよな?」
「ごめん、わかんない……」
魔法的なワープであれば魔力の繋がりから出口を察する事が出来ただろう。
しかし、ダンジョンのトラップは魔法では無く秘蹟に由来するので、宗八やアルカンシェと言えど出口を把握することは叶わない。
ダンジョンコアから成る秘蹟は、理の外にあるのだ。
「とりあえず、私がワープトラップを踏むね。正解ならゲート設置すれば次が楽になるし、もし外れならすぐ転移で戻って来れるから……」
ここに来て、また闇精使いに負担を強いることに全員が表情を歪める。
宗八から説教されたのも、つい先日の話だ。特に年長者のクライヴが苦い表情を浮かべている。
一番楽で一番安全性が高い手段だ。
だからこそ、闇精使いの万能性を改めて認識した勇者PTは、プーカと闇精ダスクを労う事を強く誓った。
「本当にごめん、プーカ」
「すまない。だが、よろしく頼む」
「すぐに戻るのよ? 数なんて気にしないで、絶対に戻って来てね」
「必ず守る……。今晩は好きな物を食べさせてやるからな!」
プルメリオ、マクライン、ミリエステ、クライヴの四人にそれぞれ声を掛けられたプーカは、笑みを浮かべて応える。
「私だって勇者PTだもん。皆……信じてくれるよね?」
力強い頷きが四つ返って来た。
何の憂いも無いプーカは、一つ目のワープトラップを踏み込んだ。
視界が一瞬で切り替わり、自分がどこにいるのかわからなくなる。
仲間の下に戻る為にも位置の把握は最重要事項だ。
「……?」
おかしい。モンスターの息遣いもなく、それどころか周囲に誰の気配もない。
影踏索敵の反応も登り階段しかない小さな部屋を示している。
『(プーカ、当たりを引きました)』
「え……?」
この後、ゲート設置して無事仲間と合流に成功した。
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