†第16章† -54話-[ストレス発散③]
【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】
【異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~】
【地球消滅ENDで死んだ私は、神様の異世界救済枠に選ばれたので故人の為にも頑張って生きていきますっ‼】
・上記3作品も投稿し始めました。よろしくおねがいします。
マリエルが立ち上がった時点で宗八はアルカンシェに追い付いていた。
カメラ役の魔法制御を持ってしても追い付かない速度でアルカンシェに迫った宗八は、魔法が切れない内にアルカンシェに一太刀入れていた。
「ぐっ!」
槍の柄と氷竜追従核の一体を、刃と身体の間に差し込み防御には成功した。
見えてはいない。勘だけで対処したにしては良くやったとアルカンシェは自身を褒めたくなる。
しかし———。それでも身体を貫通する衝撃は凄まじい。
内臓のいずれかが潰れたのではないかと思えるほどのダメージがアルカンシェの心を揺さぶる。
宗八とマリエル。
二人の戦士に比べてSTRとVITの低さは、魔法使いとしては如何ともし難い絶対的な差だ。
ジェムで補強するにしても限界がある。だが、補強していなければ今の一撃で落とされていた……。
HPの減少を如実に実感しながらも、アルカンシェは諦めず加速魔法の終わりを待つ。
「(間もなく≪刻加速≫は終わります。ここで無理をしてでも一撃をっ!)」
燕返しのような速度で振るわれた二撃目を同じ様に槍と氷竜追従核の犠牲で防いだアルカンシェは、共に戦う水精ポシェントへ呼び掛けた。
『任せろ』
その返事を境にアルカンシェはその身を水精ポシェントに委ね、魔法制御に集中する。
残った氷銃追従核四基はアルカンシェの背に張り付き追従していた。
斬撃後のわずかな硬直を狙って連射される飛礫を、宗八は意に介さない。
接射と言っても遜色ない距離と射速で打ち出された飛礫が、全て宗八の剣戟に打ち砕かれる。
しかし、抗った甲斐もあった。
ようやく宗八の魔法が切れて速度が目に見えてガクンと下がったのだ。
「いま!」
『(ウオオオオオオオオッ!)』
背に張り付いた氷銃追従核が噴き出す強烈な冷気を推進力に、アルカンシェと水精ポシェントは突喊する。
宗八を狙うのではない。
武器を狙って何度も槍は振り回される。回避行動も取れないほどの速度で振り回される絶零槍グラキエスハイリアの攻撃力は馬鹿に出来ない。
ハイリアシリーズの脅威を知っているからこそ、この連撃を宗八は丁寧に捌かざるを得ない。
「≪プリズムアブソリュート!≫」
槍を介さない魔法がアルカンシェと宗八の間で発動する。
四基の氷銃追従核が一斉射した魔力砲が、二人の間に生成された多面体の氷に注がれた。
———結果。
「(フラムっ!)」
『(蜃煙の制御で手一杯!)』
四つの光は、氷を通して数十の光となって宗八に命中した。
細くとも全てが強烈な凍結デバフを付与しつつダメージを稼ぐ魔力砲となり、宗八の全身は瞬く間に凍てついていく。
「(遅い……っ!)」
瞬く間と表現したが……。
アルカンシェに取ってみれば、この速度がもどかしかった。
自身と———宗八の差を知っていれば当然だろう。
宗八の剣が紅焔を輝かせる。
「火竜一閃!」
表面を覆った分厚い氷を力任せに砕きながら振るわれた剣が多面体氷を砕き、退がったアルカンシェを煌煌と燃える一閃が追いかけた。
アルカンシェ自身も理解していた事だ。
複数の精霊と一体となっているのだから、全属性の抵抗力も相応に……いや、異常に高い。
芯まで凍てつくには、遅すぎたのだ———。
アルカンシェが宗八の追撃から逃げている中。
マリエルは、精霊姉妹を相手に思いの外苦戦していた。
「あーもー!当たんないっ!」
闇精クーデルカの時空魔法がマリエルの長所を完全に殺していた。
加速では無く、減速。
『クーはお姉ちゃんが守る!』
減速させてもまだまだ素早い。
その差は水精アクアーリィに加速を与え極力埋めた。
常にアクアーリィの影に影転移をする事で、クーデルカはその身を無防備に晒さない。
また、戦闘域に降り始めた魔法の雨。その雫すべてがアクアーリィにマリエルの居場所を知らせる為、背後に回ろうとすぐに対処されてしまう。
『はい、見つけた~♪』
楽しそうなアクアーリィの声音に反応したように、彼女の周囲で空中を泳いでいた大小様々なお魚さんがマリエルへ殺到する。
以前までのお魚さんソードは、アクアーリィの龍玉を変化させたものだった。
今回はハイリアソードと龍玉を掛け合わせ、完全な上位装備へと変化させている。
魚から受ける多少のダメージと足止めされたマリエルに、アクアーリィは追い付き剣を振り下ろす。
「流石、隊長のお子さんだ事っ!ふんっ!」
まとわりつく水の魚を巻き込みながらアクアーリィに蹴りで応戦する。
鋭くも鈍い蹴りにアクアーリィはすぐに退く。仮初の姿で無くとも凄まじい威力の蹴りに剣を打ち合うなんて馬鹿な事はしない。
何よりも、精霊姉妹の役割は足止めだ。
「こうなったらっ!一気に距離を取らせてもらうわっ!」
二人は積極的な攻撃はして来ないし、受けても威力は低い。
足止めされている事を自覚するマリエルは、どうにかして戦線離脱する事を決断した。
『———させませんよ。《隔離空間》』
一瞬。空間がズレた。
「≪天羽雷天翔!≫」
宣言通りにこの場を離れる為、足から雷のような羽が生える。
「バッハハ~イ!」
手まで振って笑顔でその場を後にして空へ飛び立ったマリエルだが……。
飛んでも飛んでも景色が変わらないことに直ぐに気が付いた。雨も降り続いている。
「あれ……これって……」
風の当たり具合からも自身が停滞しているわけでは無い。
しかし、下に視線を向ければこちらを見上げる二人が動いていない。
二人が無理に空まで追って来ない事も、まさに今、足止めに成功している事の証左だ。
「(ボジャ様……。助けてください)」
この逆境がマリエルを逆に冷静にさせた。
今回の模擬戦は地力を試したい。そう事前に上位水精ボジャノーイに伝えていた事で、ここまでは手を合わせていなかった。
『(やっとかい。じゃあ、まずはこの雨をどうにかしようかのぉ)』
途端に雨が軽く感じ、視線を向けずとも雨が二人の位置を教えてくれる。
仮想である水精アクアーリィは本来の力を発揮出来ない。だから抵抗出来ぬままにボジャノーイは雨の支配権を奪取して見せた。
『あ、ヤバ……。ボジャ爺に魔法奪われちゃった……』
アクアーリィはこの時点で役割の終わりを予期した。
いままでは弱い魔法でも駆使すれば時間稼ぎは出来た。
しかし、自分が本人だったとしても上位精霊のボジャノーイの方が支配力は強い。自身の魔法が通用しなくなれば残る戦力はこの貧弱なフィジカルだけだ。
そもそもの話。
『マリエルが手抜きをしなければ瞬殺出来たであろうに……。ほんに甘い娘じゃ。姿や人格は本人でもアレは幻に過ぎぬぞ』
見た目に絆されたマリエルが宗八を相手取るように本気を出せば。
『お姉さまっ!《編盾!》《虚空暗器:大盾!》』
雨での索敵が失われた結果、マリエルの≪雷瞬≫にアクアーリィは反応出来なかった。
唯一空間を支配するクーデルカだけが反応し、自身の身を晒し姉を護る。
「≪満月軌っ!≫」
弧を描く蹴りが編盾を突き破り、盾を砕き、クーデルカの幻像を霧散させる。
これで彼女が掛けていた魔法は全て解除され、本来の決定的な戦力差が戻ってきた。
『≪|水竜聖剣《クリアエル=エクスカリバー》!≫』
「≪極地嵐脚!≫」
絶技同士のぶつかり合いは凄まじい様相だ。
しかし、悲しいかな。現実は違う。
流石にハイリアは砕けなかったがアクアーリィの腕をかちあげ、がら空きの胴体へ吸い込まれるように蹴りが炸裂する。
アクアーリィの幻像も煙となり消え去ったあとには、水属性のカレイドハイリアが残されるだけだった。
* * * * *
二人を下して踵を返したマリエルがアルカンシェを追う道中には、激しい戦闘の傷跡が刻まれていた。
分厚い氷と氷原が告げるままに二人の行方を追ったマリエルの視界にようやっと姿が映る。
そこには膝を着き、力なくダランと下げられた腕と頭。
そんなアルカンシェの首に剣を添えて立つ宗八の姿だった。
「間に合わなかった~!」
もしも、本当に敵と戦っている状況でこんな場面に出くわした場合、マリエルには手を出せない。
下手に刺激すればそのままアルカンシェの命が儚く散る可能性がある為だ。
両手を上げながら空から降りて来たマリエルが落ち込みながら声を掛ける。
「神力を使わなかったらしいな。さっさと使えばすぐに追い付けただろ」
「マ~リ~エ~ル~!」
宗八が剣を引くと、アルカンシェはマリエルに恨み節を籠め名を呼ぶ。
模擬戦の終わりは誰の目にも明らかだった。
観覧席の客人たちも、興奮からいつしか止めていた息を再開し椅子に深く身体を預ける。
「如何でしたか?」
侍女頭ミアーネが魔王ヴェルザーならびに魔王たちに声を掛けた。
後ろに続いたメイドが彼らの空となったグラスに次々飲み物を注いで消える。
「いや……言葉が無い……何を見せられたのか理解は出来ないが———」
———楽しかった。
続かない言葉は彼らの表情から察せられた。
「我らの主は世界の敵から人族も、魔族も等しく守りたいと仰せです。出来る限りの準備を進めておりますが、魔族の方々にも引き続きご協力をお願いいたします」
魔王たちは顔を見合わせた。
現状、宗八を窓口として始まった交流だが……。
町を守る魔道具、食料、その他多くの支援品は人族から一方的に施されている。
自分達がやっている事と言えば、魔族領の避難民を自領で引き取り養っているだけだ。
「何故、魔族を人族が守るのだ?」
侍女頭ミアーネは語った。
人死にが多いと世界樹が顕現し、侵略戦争が開始される。
戦争準備を整える時間を稼ぐには、人死にを減らす必要がある事を……。
善意ではない。損得勘定の話だ。
「お館さま達は魔神族と神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇に掛かりきりになってしまいます。その戦いの裏で、大量の瘴気モンスターがこの世界を支配する為に送り込まれ、世界中で防衛線が始まります」
魔道具を渡された時に説明もされたし、資料も渡されていた。
だが、現実味のない突拍子もない話だ。魔道具は受け取りはしたが、重要視していなかった。
「これだけの戦闘力が必要なのか?」
「わかりません。お館さまが神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇と直接相対したのは一度だけです。その時は手も足も出ないと判断されておりました」
いま魅せられた模擬戦は、凄まじく現実味の無い戦いだった。
「———わかった。何か必要なことがあれば協力すると伝えておいてくれ」
魔王ヴェルザーの言葉に侍女頭ミアーネはお辞儀して感謝を述べる。
「かしこまりました。お館さまにはヴェルザー様のお言葉をお伝えさせていただきます」
諜報侍女に連れられ帰宅した魔王たちの下へ、その日の内に宗八が現れダンジョンタイムアタックを強いられた事をここに記す。例に漏れず、宰相アンデスヘルを筆頭に従者たちは再び快く送り出したのだった。
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