†第16章† -50話-[罰と報酬①]
【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】
【異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~】
【地球消滅ENDで死んだ私は、神様の異世界救済枠に選ばれたので故人の為にも頑張って生きていきますっ‼】
・上記3作品も投稿し始めました。よろしくおねがいします。
「で? マップ進捗率は?」
場所は、ヴリドエンデ王国の酒場。
宗八の言葉は同じテーブルに座る勇者PT全員に向けられたものだった。
突入の手助けをして既に三日経っている。
普通に高ステータスのゴリ押しで一日もあればラストダンジョンも楽勝、と考えていた宗八の予想を裏切り、勇者PTは未だに二階を彷徨っているらしい。
勇者PTの苦労を知らない宗八が夕食を口にしながら問い掛けた。
ここ数日、この酒場の個室で反省会を行っていると諜報侍女ネットワークで知った宗八が突撃して今に至る。
「モンスターは慣れて短時間で倒せる様になったんですけど、トラップが厄介でなかなか進められないんです」
勇者プルメリオの言葉に力無く頷くPTメンバー。
その中でもとりわけ疲労が溜まっているのは、闇精使いプーカだった。
「……状態異常か?」
「それもありますけど、ワープトラップで部屋を移動しないといけない所が毎日更新されるみたいなんです」
彼女の疲労度は明らかにそれだけではない事を示している。
おそらく、仲間に知らせず察知した数多のトラップを解除し続けているのだろう。
その事を勇者PTも気付いており、彼女の矜持の為に口に出来ない……と宗八は読んだ。
「マッピングしているか?」
この世界はゲームではない。
魔法でオートマッピングが出来ても出力先は脳内なので、仲間と共有するには紙媒体に書き起こす必要があった。
「そこは……そのぉ。……プーカが」
プルメリオの回答に宗八の片眉が上がった。
勇者もその言葉の意味をきちんと理解しているらしく、申し訳なさそうに語尾が小さくなっていった。
「プーカ、案内もお前がしているのか?」
「はい……」
その答えに宗八はジト目で勇者PTを睨め付けた。
闇精は戦闘向きではない代わりにサポートに特化している為、索敵やマッピングもお手の物だ。
だからといって、プーカ一人に負担を掛け過ぎている点に対し、宗八は怒りを覚えていた。
「プーカ、お前は隣の部屋に行ってこい。甘味も用意させるから遠慮なく食べると良い」
宗八が壁に指を指し示す。
壁向こうの個室は事前に確保して今は子供達だけで会食しているところだ。精霊だけでなく義娘メイフェルも一緒である。
勇者も含めて誰の邪魔も入らない空間だ。
念話で呼び出された闇精クーデルカが影転移で現れ、プーカ達に声を掛ける。
『さあ、プーカさん。それに闇精ダスクも付いて来て下さい』
「は、はい……」
有無を言わせぬ宗八の迫力にプーカも闇精ダスクも素直に従わざるを得なかった。
闇精クーデルカが、二人を案内して退室して行く姿を見送る。
彼女たちが隣室に移動した事を確認し勇者PTを見回した宗八は、あからさまな溜息を吐いて言葉を紡ぐ。
「はぁ~……。負担を掛けているとわかっているのに、何故プーカに甘えた? 特にクライヴ。アンタは元盟主として理解したうえで何も手を打たなかったのか?」
拳闘士クライヴからすれば末の孫ほどに年が離れているだろう。
そんなプーカの献身を盟主経験もある爺が察せないとは言わせない、と宗八が特に詰める。
「本当に……申し訳ない……」
———ドンッ!
宗八の拳がテーブルを叩き木くずが舞う。
「それを俺に言ってどうするよ———!」
宗八は仲間や知り合いに無理をさせる。
しかし、その分仲間には気を配って休日にサービスをしたり、知り合いには労いを施す。
勇者PTにもそれは実施しており、強くするためという意図以外にも個人的に報酬として精霊を与えている。
宗八の低い声音は本気の怒りが籠っていた。
叩かれたテーブルが破壊されない程度には理性が働いてはいるが、健全な運用が出来ていない勇者PTに苦言を呈さずにはいられない。
説教を吐かれたのはリーダーのプルメリオと年長者のクライヴの二人だが、残る騎士マクラインも魔法使いミリエステもプーカへの罪悪感から精神的に滅多打ちになっていた。
四人ともが後悔から胸に異物感を抱え、冷や汗を掻いている。
「……明日、プーカ抜きでお前らだけで攻略を進めろ。穴はうちの諜報侍女を付ける」
今頃、隣の部屋ではプーカも息抜きしているだろう。
本来は子供達の息抜き目的で確保した隣室だったが、思いの外役に立った。
「戦闘には参加させるが、罠を相手取る苦労をお前らもしっかり味わい直した方が良い。都度、人身御供を仲間から差し出して前を歩かせろ、マッピングも自分達の手で行え。何なら精霊に手伝わせればいい。成長度合いから言って———エクスが適任、かもな?」
人間だけの責任ではない。
光精エクス以外はまだ幼く、闇精ダスクはプーカと共に苦労していた。
ならばと、宗八の鋭い視線が勇者プルメリオが下げる聖剣へと注がれる。
「以上だ。俺はこれで失礼する」
宗八が席を立ち扉を開く。
個室を隔てる扉が開けられると同時に、酒場客で賑わう喧騒が部屋に流れ込む。
扉が閉まるまでの一瞬とはいえ、葬式の様に重苦しい空気と隔絶した外との差が、余計に勇者PTの心を抉った。
* * * * *
廊下を移動し隣室の扉を開けた宗八の視界には、仲良く食事する子供達とプーカの姿が映った。
疲れは隠しきれていないが、子供達からお勧めされる料理を戸惑いながらも口にしてぎこちない笑みを浮かべている。
「お父さま、お待ちしていました。さあ、こちらの席へどうぞ」
闇精クーデルカが率先して宗八を上座に導く。
成長して闇の手でサポートせずとも自身の手で椅子を引けるようになったことが余程嬉しい様子だ。
娘のエスコートを受け、素直に座って一人晩酌を始める。
子供達とプーカの楽しそうな会話を肴に宗八は運ばれてくる冷えた酒を楽しむ。
「おに…お父さま。勇者PT、大丈夫なのですか?」
義娘メイフェルが心配そうに伺ってきた。
その彼女の羊耳がパタパタと動いている。
「盗み聞きは感心しないぞ、メイフェル」
「ち、違うから!聞こえて来たの!個室って言っても獣人の耳にはボソボソ聞こえちゃうから、気になって耳を澄ませちゃった……んですの」
種族特性である耳の良さに説教しても仕方がない。
宗八も彼女の言い分を理解した上で小言を言っただけだった。
「ここは家じゃないんだから、呼び方も言葉も崩してもいいぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
公爵令嬢として順調に成長しているメイフェルもまだ年相応に幼い。
慣れてきたとはいえ、息抜きできる場でくらいは素を出せるようにしてあげたかった。
「メリオ達は反省している。心配いらないだろう」
本来は互いを尊重出来る彼らだ。
今回は進まない焦りもあってかプーカに負担を掛けてしまっただけだと、宗八は考えていた。
だから、頭を冷やさせる為に一旦引き離し冷静さを取り戻させようとしたのだ。
「そうだ、プーカとダスク。お前達は今日うちに泊まってもらう事になったから、そのつもりで」
水精アクアーリィと話していたプーカたちは、突然話を振られたことに驚き揃って身体をびくっとさせた。
「え、えっと……どういうつもりで?」
仲間じゃないけど、なんか色々気に掛けて来る謎の上位者水無月宗八。
プーカと闇精ダスクからすれば、宗八の立場はそんな感じであった。
仲良くないけど顔見知りの年上から話を振られ、プーカは混乱した。
「疲れているみたいだから、明日一日うちで預かる事になった」
簡潔な回答だ。だが、逆にその伝え方がプーカを不安にさせた。
「わ、わたし……だめ、でしたか? 皆の役に立てていなかった、から、ですか……?」
弱り切った声が俯いた彼女から発せられる。
当然、宗八はそれを否定した。
「プーカも悪い部分はあったが、どちらかと言えばあいつらを反省させる為だから気にするな。それよりも明日はお前に覚えてもらう事がある」
「覚える……こと?」
顔を上げた彼女に宗八の言葉が伝わったのか、その表情に悲しみは浮かんでいない。
「地図の出力方法だ。お前だけがわかるから無理をするというのは間違っている。だから、クーにわかりやすいマップの書き方を教わると良い。仲間内で共有すればワープの罠だって行き先を全員が把握出来て焦ることはなくなる」
いま初めて聞いた話を、闇精クーデルカは事前に聞いていたかのように堂々とプーカに微笑む。
『ダスクも一緒にお教えします。二人で思考を分担すれば効率的ですからね』
一階は一本道で迷う事は無かったと聞いている。
だからこそ、二階のトラップの多さとワープ罠の厄介さが勇者PTに堪えたのだ。
出力方法も二人寄れば文殊の知恵。書き方の基礎はクーデルカが教えるが、その後どの様な描き方をするかは彼女たち次第なのだ。
面食らった表情の二人に満足した宗八は、冷えた酒を一気に飲み干すのであった。
・★★★★★評価
・感想
・いいね
読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、応援いただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。




