†第16章† -51話-[罰と報酬②]
【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】
【異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~】
【地球消滅ENDで死んだ私は、神様の異世界救済枠に選ばれたので故人の為にも頑張って生きていきますっ‼】
・上記3作品も投稿し始めました。よろしくおねがいします。
——翌日。
宗八の説教が未だに精神的に効いていても、今日もダンジョンアタックは行われる。
プーカは昨夜の食事が終わった後、宗八がアスペラルダの公爵邸に招待したのでこの場には居ない。
大魔王城と拠点を行き来するのは、勇者PTも例に漏れず闇精頼りだった。
距離計算で消費魔力が決まる≪ゲート≫での戦闘後の帰還を考えれば、距離が近いに越したことは無い。
希望を言えばヴリドエンデ王国まで帰還したいところだったが、いまは魔王ヴァルザー=グリウスが治める城下町を拠点にしていた。
「お待ちしておりました。お館さまの指示にて派遣されました諜報侍女のナルシアと申します」
魔王ヴェルザー指定の宿屋で朝食を取り、外へ出た所でメイド服の女性から声を掛けられた。
周囲には魔族しか居ないので衆目を浴びながら、プーカの代わりとなる闇精使いが合流した。
「あ、はい。今日はよろしくお願いします」
戸惑いはある。
しかし、以前顔を合わせた事がある諜報侍女だった為、なんだか安心している勇者PTであった。
* * * * *
———大魔王城ダンジョン二階。
「では、ここからは戦闘のみに参加いたしますので、皆さまは先行してください」
良く考えられた効率的な動きと魔法で一階を早々に突破した勇者PTを前に、ナルシアは変わらぬ笑みを浮かべながら廊下の先を指す。
ここからどれだけのトラップがあるのか考えれば嫌になるが、それをプーカと闇精ダスクに押し付けてしまっていたのは自分達だ。
その負い目も相まって、誰も文句を言う事無く四人は揃ってナルシアの前を歩きだした。
「とりあえず、昨夜決めた通りに俺が先を歩く。皆は少し離れて付いて来てくれ」
騎士マクラインが大盾を構え一団から離れる。
トラップの多くは、物理ダメージ系だ。
横穴からの矢幕、棘天井落下、槍衾の落とし穴など物理防御力の高いマクラインが犠牲になるのは理に適っていた。
———しかし。
「ぶはっ!冷たあああああっ!いや、これスライムかっ!」
天井から降って来たのは大量の水と思いきや、ラージスライムの亜種で粘度が高くなったスティッキーラージスライムであった。
落下の衝撃でマクラインがスライムの身体を突き抜けたのは一瞬で、すぐに窒息死させようと頭を包み込む。
「ミリエステ!火球で助けるんだっ!」
勇者プルメリオと拳闘士クライヴは、巨大スライムをみてすぐにミリエステに任せる判断をする。
「≪ブレイズレイド!≫」
高温の火球が放たれ、マクラインを包むスライムの大半を吹き飛ばした。
高ステータスになろうとも、呼吸に関わる死亡には関係がない。
ミリエステのおかげで脱出できたマクラインは、慌てて後方に下がった。
「まだ生きています」
「わかってる!≪ヴァーンレイド≫四連!」
ナルシアが冷静に状況を報告し、ミリエステが残る体積を考えて小さい火球を四つ放ちスライムは完全に駆逐された。
マクラインはスライムの中で一瞬とはいえ死を意識した為顔を青く染め、その感情を前衛としてプルメリオもクライヴも共感し黙り込んでいる。
一人能天気に拍手するナルシアが指示通りに彼らを褒めた。
「流石は勇者PTですね!人身御供作戦大成功です!」
その言葉を聞いた四人は昨夜のワンシーンを思い出す。
彼はこう言っていた。
———罠を相手取る苦労をお前らもしっかり味わい直した方が良い。都度、人身御供を仲間から差し出して前を歩かせろ。
これでは本当に人身御供だ。
どんな罠がどこに仕掛けられているか分からない以上、自分達は誰かを犠牲にしながら進むしかない。
今回のような前衛殺しの罠がこれから幾つ仕掛けられているのか……。
もしも、ミリエステが喰らった場合、自分達は彼女を無事に救い出すことが出来るのだろうか……。
「さあ、進みましょう。次は誰が先頭を進むのですか?」
尚もナルシアは背後から勇者PTに鋭利な言葉で刺し続ける。
これも尊敬するお館さまの命令。ナルシアは彼らを煽りながらも、その心は喜びに満ちていた。
* * * * *
一方、ミナヅキ邸では闇精クーデルカ先生による指導が始まっていた。
『お二人は影を利用した影踏索敵で室内の状況を理解出来ますね?』
生徒役は義賊プーカと闇精ダスク。
中級闇精であるダスクは女性型。身長はプーカとほとんど同じで、姉妹のようにそっくりな真剣な表情で頷く。
『廊下や他の部屋も含めて、この階のマップをダンジョンに居る体で書いてみてください』
クーデルカの指示はダンジョンに居る体とのことなので、二人は立ち上がり複数枚が重なるメモ帳を取り出し描き始めた。
一旦の目的はどういう書き方、描き方をしているかという点。クーデルカは二人が書き終わるのを黙って見守る。
「出来ました」
『出来た』
ほぼ同時に提出されたメモを見てクーデルカは失格を言い渡す。
『良く出来ていますが、ダンジョンでここまで詳細に書くのはアウトです。その間、魔法で索敵をしていても視界と両手を塞いでしまうのもダメです。だからこうしましょう』
クーデルカが見本を見せる。
指を一本立て二人の視線を指先に集中させ———空中に描き始めた。
『あ!文字魔法……』
何もない空中に黒い線が走り、廊下を簡易的に描く。
どこが広くなっていて狭くなっているかなんて関係のない、一本線の廊下だ。
そこに部屋が足される。
これも部屋の大きさ関係なく四角で描き、A・B・C……と部屋に割り振っていく。
空中に浮かぶマップを見て二人は目から鱗が落ちた。
まず、書く時に指摘された視界と両手の問題は、影踏索敵によって事前に脳内に浮かび上がったマップを片手で空中に描くことで解決した。
それに持ち運びを考えた小さいメモに比べても大きく描けるので見やすく仲間との共有もしやすい。
一本線で描かれた廊下は、道程を理解する為だけに特化され、部屋については入る前に詳しい情報を共有すれば時間を無駄に使わない。
『本来の使い方は文字通り、文字を描くことで効果を発揮する魔法です。文字数や効果で消費魔力も変わる魔法なのですが、効果が確定しなければ消費されないので一時的なメモにも使えます』
参考にクーデルカは壁に【床】と書いた。
そのまま壁に向かって歩き出し、身体が九十度になっても重力に逆らい壁を歩いて見せた。
なんとなくしか理解していなかった【文字魔法】の非常識な有効範囲にまたまた二人の目から鱗が落ちる。
『お父さまが考えた面白い魔法なんです。さて、文字魔法の説明はほどほどにして本題に戻りましょう。次は今のを参考に一階を書いてみてください』
プーカは思った。闇魔法おもしろっ!
闇精ダスクも同様に仕様の奥深さに鼻息荒く興奮している。
さっそく教えてもらった方法で手早く空中に描く。
使ってみてわかったことは、遥かに楽だと言う事。
クーデルカの言う通り、脳内のマップをなぞるように描くだけの簡単な仕事になり、急いで書かなければと焦る気持ちが無くなった。
一応、描くという行為に魔力を少量消費する。
しかし、文字魔法として完成しなければ、解除するだけでその魔力は自分に戻って来るのだ。
これを知らなかっただけで自分はどれだけ仲間の時間を無駄にしてしまったのか……、と後悔が胸に押し寄せた。
「教えてくれてありがとう」
素直にプーカは自分よりも幼く見えるクーデルカに感謝する。
隣で闇精ダスクも同じ気持ちであると何度も頷くことで気持ちを表明していた。
『??…?。まだ終わりではありませんよ?』
『「???」』
もう授業が終わったような空気を出す二人に対し、クーデルカは首を傾げつつ告げる。
これ以上に何を教わるのか、と本気で疑問を浮かべる二人を前に、クーデルカは先ほど描いた廊下の一部に親指と人差し指を合わせたまま近づけ———開いた。
二人の視線の先で一本と思われた廊下の線が拡大され二本線が現れる。
『「えぇ!? 二本線!?」』
そんな機能を二人は知らない。
驚愕の拡大/縮小機能を目の当たりにして、目の前の少女の魔法制御力の高さに震えた。
自分達は正真正銘の一本線だ。
しかし、彼女の描いた一本線は実は二本線だった。つまり……。
『つまり……、拡大した廊下にトラップのスイッチを描くことが出来るので、ある程度自分達で注意して進んでもらう事も可能になります』
『「ほえ~~~~~~~~~っ!」』
魔法の開拓者。
組み上げられた魔法を使わせてもらう分際でありながらも、そのありがたみを理解していなかった。
流石は魔法を組みあげた張本人!
義賊プーカと闇精ダスクはこの日。心の底から闇精クーデルカを尊敬したのであった。
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