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小説の中に転生したので、殺される運命の大公様を救います  作者: 森前りお
第一章

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9話 考察

 イーサンが第二談話室を出ると、リュカは大きなため息をついた。

 エレノアがその様子をじーっと見つめているとリュカがはっとして「すみません」と謝ってきた。


 「二人は何を話していたんですか?」


 「えーと」


 エレノアはジルベールが第二談話室に来たところから話すべきだろうかと悩んだ末、第二談話室に来た時のことから話し始めることにした。

 そうしないと、エレノアがサンドリーヌとの仲をイーサンに聞いたことに脈略が無くなってしまう。


 「魔法実技で私が珍しい杖の形をしていたのを気になったジルベール殿下が第二談話室に来て、その杖のことを聞きに来たの」


 「わざわざここに」


 リュカが明らかにジルベールのことを疑いはじめていたが、エレノアはそのまま状況説明をしていく。

 エレノアの説明を聞いたリュカは、なるほどと小さく零した。

 そして、リュカは椅子へと腰掛けてカップに紅茶を注いだ。

 その紅茶を口へと一口含むと、リュカはエレノアの方へと腰を曲げた。


 「イーサンが嫌悪感を抱くことはそこまでないのですが‥‥」


 「やっぱりイーサン様怒っていたよね」


 リュカはイーサンがそこまで感情をあらわにしたことを変に思っているようだった。

 やはり、あの時気分を害していたのだとエレノアは反省をする。

 そんなエレノアにリュカは、しまったと自らの言動を反省した。

 この言い方では、エレノアが悪いと言っているように聞こえても仕方がない。


 「すみません、エレノア。僕の言い方が悪かったです。僕はあなたのせいでイーサンが怒ったと言っているわけでは‥‥ただ、イーサンが感情を表に出すことが珍しいのでその理由を探りたかっただけなのです。僕はイーサンと長くいますが、未だに彼が何を考えているのかよく分かっていないので」


 リュカは悲痛な叫びを吐き出すように、苦しそうに言葉を紡いでいった。

 エレノアにとってリュカはイーサンの隣にいて彼のサポートをよくしている人物という印象だ。

 そんな彼の悩み事が、イーサンを理解したいというものだったのに対し、驚きを隠せなかった。

 だが、エレノアには、リュカがイーサンを理解しようとしてのあの発言だったのは理解できた。


 「ううん。私の方こそリュカの気持ち分かってなかった。じゃあ、二人でイーサン様の考えていること紐解いていこうよ」


 「二人で、ですか。そうですね。やってみましょうか」


 リュカの同意が取れたところで、エレノアはもう一度第二談話室での出来事をリュカに説明していく。


 「まず、ジルベール殿下の行動は頭に入れない方がいいかと。あの人の考えは読めませんし、ただかき回したいだけの可能性もあります」


 「確かに」


 杖のことを聞きたかったのなら、授業の終了後に話しかければいいだけの話だ。

 リュカの言う通り、ただ邪魔をしたかっただけの可能性も考えられる。


 「エレノア、イーサンが怒っているように見えたというのはどの時ですか?」


 「サンドリーヌ殿下の話を出した時だよ」

 

 「なるほど」


 リュカが黙り込んで考え始めた時、エレノアもイーサンの前後の表情を思い出していた。

 ジルベールの話をした時は、少しの嫌悪感だった。

 だけど、サンドリーヌの話をした時は、少し動揺しているようにも感じた。


 「‥‥ノア。エレノア」


 リュカの声も聞こえないほど考え込んでしまっていたようだ。

 エレノアは思考を放棄して、リュカの方へと顔を動かした。


 「聞こえていますか?」


 「あ、うん。聞こえてる」


 「僕の考えとしては考え出されるのは1つ。イーサンはサンドリーヌ様を好いてはいなく、むしろ嫌っているという考えです」


 「え?」


 あまりに荒唐無稽な答えにエレノアはその言葉を理解できていなかった。

 イーサンが、サンドリーヌを好きじゃない?

 そんなことはない。

 そんなはずはない。

 なら、なぜイーサンは最後までサンドリーヌについて、最後まで彼女のために戦って死んだのか。

 理由がつかないではないか。

 だが、そんなことをリュカに言えるはずもなく、頭が真っ白になっていくばかりだ。

 リュカが心配げにエレノアに声をかけたが、その声が届かないほど何も考えれず、何も話せなかった。


 なぜ、嫌いなサンドリーヌの味方なのか。

 説明がつかない。

 説明ができない。


 「リュ、リュカ。それは、ないよ」


 途切れ途切れになってでも否定したかった。

 そうではないと、説明がつかない。


 「なら、なぜイーサンがあんなに嫌悪感を出すまで怒っていたのかわかりません。ただ、僕もなぜ彼があそこまで感情をむき出しにして怒っていたのかこれぐらいしか思いつかなかったですが、他に可能性もあります。なぜ――いや、これは少し飛躍しすぎた考えだ。エレノア、どうしました?大丈夫ですか?」


 リュカの声が遠くなっていく。

 段々と斜めになっていくリュカを心配していたが、斜めに倒れているのはエレノア自身なのだと理解した時には、もう体がどうにも動かない状態だった。

 椅子から転げ落ちてそのまま頭を床にぶつけるのだろう。

 そう思った時、鈍い痛みはエレノアを襲わず、頭部にはリュカの手の感触があった。

 取り乱したリュカが大きく口を開いてなにかを言っているような気がするが、段々とまぶたが重くなって、意識が保てなくなった。



 まるで夢心地のようだ。

 小説の中に入ったようにその人物たちが命を吹き込まれて動いている。


 原作になかったイーサンとサンドリーヌが仲睦まじく幸せにお茶をして過ごしている光景。

 二人は笑いあい、嬉しそうに談笑をして。

 そして、その光景が崩れていき、イーサンが剣を刺され、口から血を零している。

 イーサンの服はぼろぼろで、モヤがかかったように服が破れて顕になった肉体の状況は分からない。

 

 なら、なぜ、イーサンは最後までサンドリーヌの命令を聞いていたの。

 嫌いだったのならなぜ抗わないの。

 殺されても構わないなんて言わないで。

 イーサンはサンドリーヌのために生きて幸せだったのではなかったの。


 

 目を覚ますと頬を涙がつーっと伝っていた。

 夕方だった空は星が輝く夜空へと変わっていた。

 起き上がって横へと目をやると、そこにはリュカがいた。

 周りを見渡してここが保健室のベッドの上だと理解した。

 どれほどの時間が経ったのか分からない。


 「リュカ」


 エレノアは小さくそう零した。

 まるで起きていたかのようにリュカの瞳が開いた。

 

 「ごめん、リュカ」


 「なぜ、あなたが謝るんですか」


 目に涙は溜まっていないが、今にも泣きそうなぐらい苦しそうにリュカが言う。


 「いやあ、リュカの考えに納得できなくて、倒れちゃったから」


 笑顔を繕ってもリュカの顔は晴れなかった。


 「‥‥」


 「リュカ、私ね。ずっと勘違いをしていたのをリュカに訂正されて、ものすごく動揺したんだ」


 「いえ、僕も勘違いをしていたのでお互い様でしょう」


 病室の静寂は保たれたまま、二人の感情があけすけになっていく。


 「私もリュカの意見に同意。イーサンは多分サンドリーヌ様のこと好きじゃないんだと思う」


 冷静になってあの時のイーサンから読み取れるすべての状況から、見出された答えはリュカと同じ意見だった。

 

 「これで、終わり!助けてくれてありがと。じゃあ、一緒に寮まで帰ろう」


 「ええ」


 にかっと笑うエレノアを見てリュカは何も聞かずそのまま廊下まで沈黙を保っていた。

 その沈黙が破られる前、リュカは足を止めた。

 静寂な廊下では足音一つ見逃すはずがなく、エレノアはリュカの方へと振り向いた。


 「エレノア、なぜあなたはあの時、あれほどまで取り乱したのですか」


 エレノアがその答えをリュカに言えば、リュカは自分の考えを荒唐無稽など言うだろうか。

 イーサンのように信じてくれるのだろうか。

 そんなの愚問だった。

 元から言うつもりなどないのだから。

 リュカを信じられないのだ。

 イーサンの時のように言える勇気がない。

 今はリュカを信じさせる言葉が思いつかなかった。


 「秘密だよ」


 エレノアは振り返って答えた。

 暗闇の中で赤く燃える髪はまるで悲しそうに風でなびいていた。

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