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小説の中に転生したので、殺される運命の大公様を救います  作者: 森前りお
第一章

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10話 警戒

 リュカが食堂の料理人にご飯を取っておくよう言ってくれたようで、エレノアは食堂に残されたご飯を食べに向かった。

 すると、そこには待ち構えていたように、ジルベールの姿があった。


 「こんばんは、エレノア嬢。倒れたって聞いたよ。大丈夫?」


 柔和な笑みはエレノアを捉え、心配そうに眉毛を下へと向けている。

 エレノアは警戒の目でジルベールを見た。


 「さあさあ、ここに座って。食堂の料理人にエレノア嬢の食事が用意されていることを聞いてね。話したいことがあって、それでこの時間まで待っていたんだ。もちろん、お腹が空いているだろうから、ご飯を食べた後でいいよ」


 机の上に頬杖をついた御仁の言葉を無下にするわけにもいかず、エレノアは美味しいはずの料理が何も味がしないほど緊張していた。

 料理をすべて食べ終わるとすぐにジルベールが口を開いた。


 「エレノア嬢、君はなぜ、イーサンに近づくんだい?」


 単刀直入に聞かれたその言葉にエレノアは動揺する。

 だが、すぐに間髪入れずに返答をする。


 「バンフィールド大公家騎士団に入りたいからです」


 「違うね」


 ジルベールは間髪入れず、否定した。

 だが、柔和な笑みは解かれることなく、むしろ仮面のように動いてすらいないように思える。


 「それだけ?どこで知ったの?憧れたきっかけは?」


 質問にエレノアが答えられないでいると、ジルベールは小さく声を出して笑った。


 「本当の目的はなんだい?」


 エレノアは探り合いは苦手だ。

 エレノアは失礼だと分かっていて本音を言うわけにはいかなかった。


 「イーサン様とジルベール殿下が少しでも仲良くなれば話します」


 「それは、無理なお願いだね」


 考えることもなく、ジルベールは答えた。

 即断即決でくだされたその答えにエレノアは眉をぴくりと動かした。

 考えの読み取れない相手と話すのがこれほどまで苦手とは分かっていなかった。

 怒ってはいないが、ペースを崩されジルベールのペースへと持ってかれているのに、ほんの少しの不快感があった。


 「それはなぜですか?」


 「家族の問題だね」


 曖昧な返答に納得できないエレノアはついに沈黙してしまった。

 ジルベールも自らが求む答えをこのままでは得られないと理解して、唸って少し考える素振りを見せた。


 「着地点がつきませんね」


 「そうだね。まあ一つ言うのなら、僕は彼を嫌っているわけではない。むしろ可哀想だと思っているさ」


 「可哀想?」


 エレノアが聞き返したのは、ジルベールがイーサンのことを可哀想なんて思う理由がわからなかったからだ。


 「うん。可哀想な()()()だとね」


 被食者。

 その言葉をエレノアは変に思った。

 イーサンは騎士としては優秀なほど、誰にも負けない力を持っている。

 なのに、ジルベールはそんなイーサンを捕食者ではなく、被食者と言ったのだ。

 エレノアはそれをジルベールの言い間違いだと解釈した。


 「捕食者では」


 ジルベールは首を横に振った。

 間違っていたわけではなく、ジルベールは本当にイーサンを被食者だと思っているのだ。


 「君には一生わかりえない話さ」


 そのジルベールの考えにエレノアはむっとした。

 ヒントはくれるのにも関わらず、決定的な答えは出さない。

 まるで餌を目の前で出されているのに食べれない動物のようだ。

 だからこそ、そんな餌を食いつくのではなく、自ら用意して食らいつく。

 ジルベールのことは理解できないままで結構だ。

 ジルベールは自らイーサンと仲良くなろうとはしないと言った。

 ならば、それをエレノアが仲介すると言うのならジルベールはその提案に乗るだろうかと考えた。


 「ジルベール殿下とイーサン様の仲を私が取り持つというのはどうですか?」


 「それは、ありだね」


 仮面が一度剥がれたように、不意打ちを食らったジルベールが声を出して笑った。


 「それをして君になんの利があるんだい?」

 

 「少なくともお二人が敵にはなりにくくなるでしょう」


 その言葉にジルベールはエレノアを警戒するような目線を彼女に向けた。


 「君はどこまで知っているんだい?」


 「え?」


 エレノアの何も理解していないようなその返事に、ジルベールは警戒をやめて、ふっと笑った。


 「君は本当に変な人だな。いいよ、乗ってあげる。だけど、僕は好意的であろうと思うが、相手はあのイーサンだ。僕は無理だと思っているが‥‥まあ、楽しみにしてるよ。僕とイーサンの仲も君の隠していることもね」


 ジルベールは笑みを崩さず、そのまま食堂を後にした。

 味のしなかった食器の横に置かれたゼリーをエレノアは取った。


 「美味しい」


 緊張がほぐれたのか、やっと味がしたゼリーの味を確かめるようにエレノアはゆっくりと嚥下する。


 エレノアは寮の自室へと戻ると、すぐにベッドの上に倒れるように仰向けになった。

 夕方から夜まで寝ていたのにも関わらず、体はまだ眠いと言っている。

 そんな体をエレノアは動かして風呂場へと向かっていく。

 やっと落ち着けた今だからこそ、冷静に考えることができる。

 

 もしかしたら、イーサンはサンドリーヌのことが好きではないのかもしれない。

 ジルベールがイーサンを被食者と呼んだ。

 この2つはどこかで関係しているように思えた。


 今はサンドリーヌのことを考えてもイーサンしかその答えは知らない。

 だから今考えるのは被食者の方だ。

 被食者というのは食われる立場。

 つまり、捕食される対象のことだ。

 イーサンは被食者で、捕食者がいるということ。

 イーサンを捕食しているのは誰?

 彼は被食者だから殺されたということ?


 「んー」


 考えても曖昧な答えしか導き出せない。

 それほどピースが足りない。

 

 お湯であったまった体は少し火照っている。

 エレノアは風呂からでると、髪を拭いてベッドの上へと寝転がった。

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