11話 愛と独占欲
第二談話室では、エレノア、イーサン、パトリシア、セザール、リュカが集まっていた。
すると、コンコンと第二談話室の扉が叩かれた。
こんなことをする人物は特待生クラスには一人しかいなかった。
扉がガラガラと音を立てて、笑みを絶やさないその御仁が顔を出した。
「姉君が第二談話室へと足を向けている。君たちは全員第一談話室にいるといいよ」
その瞬間、第二談話室の空気が重くなった。
「いつもは応接室を使っているはずですが」
最初に口を開いたのはリュカだった。
緊張しているのか、メガネをくいっと上げる動作をして、目を泳がせている。
「ああ、それがね」
ジルベールはエレノアへと目を向けた。
だが、それは一瞬のことでただ目に入ったとでも言うぐらいの時間だった。
「姉君は大層な心配性だからね。イーサンが変な輩に絡まれてないか心配なんだろう」
「分かった。行こう」
はじめに席を立ったのはセザールだった。
セザールがパトリシアの肩を叩くと、パトリシアも席を立った。
「イーサン‥‥」
心配そうにイーサンに、声をかけたのはリュカだった。
先日の考察から、エレノアとリュカはイーサンがサンドリーヌのことを好いていなく、むしろ嫌っているという結論を出した。
リュカがイーサンのことを心配するのは最もなことだった。
「どうした?お前も絡まれるが、ここにいるか?」
「ええ」
リュカの返答にほんの少しの驚きを見せたイーサンだったが、すぐにその表情はいつもの無表情へと変化した。
「イーサン様‥‥」
「お前は早く出ていけ」
冷たい声をかけたイーサンにエレノアは何も言えなかった。
「分かりました」
笑顔を取り繕ったエレノアはそのままパトリシア、セザールと共に第二談話室を後にした。
第一談話室へと赴いた四人は、必要な会話しかしない同クラスの生徒たちと話をすることもなく、静かにこの時間が終わることを願っていた。
ジルベールはただ、場所の移動を提案しただけで、そのまま同クラスの生徒たちとの団らんを楽しんでいる。
そして10分ほど経った時、ジルベールとよく共に行動をしている側近の一人が、勢いよく第一談話室の扉を開いた。
息を切らして深刻そうな顔をしていた彼の一声にジルベールは怒りの感情を顕にしていた。
「サンドリーヌ様がこちらへと向かっています」
「要件は?」
側近はちらりとエレノアを見た。
そこで何かを感じ取ったジルベールがため息をついた。
「エレノア嬢、少し僕と散歩でもしないか?」
エレノアにはジルベールが散歩のためだけに自分を連れ出すのではないと分かっていた。
ジルベールが、エレノアとサンドリーヌを会わせたくないのだと、感の悪いエレノアでも理解できた。
だが、なぜサンドリーヌが自分と会いたがっているのかは、エレノアも分からなかった。
騎士学部の訓練場の裏手へと向かった二人。
先に沈黙を破ったのはジルベールの方だった。
「姉君はイーサンの横に女性がいることを嫌っているんだ。どうせ、イーサンの横でちょっかいを出している令嬢がいるとでも聞いたんだろう。姉君のそばにはそういう輩がいるから」
その令嬢というのがまさにエレノアのことだとエレノア自身も分かる。
ジルベールは淡々とサンドリーヌの話を続けていく。
それは家族のようなものではなく、まるで知人のことを話しているように思えた。
それほど熱の冷めた告白だったのだ。
「姉君はイーサンに対して独占欲がある人で、婚約者でもないにも関わらずイーサンに会いに来るという面倒な性格の人なんだ」
その瞬間、彼女は異変を感知した。
エレノアは、イーサンとサンドリーヌが婚約しているのとばかり思っていたのだ。
小説では、サンドリーヌとイーサンの結婚が進められていると書かれたことがあった。
サンドリーヌが玉座につくことで結婚をする予定だと。
だから、二人は婚約はしていて、サンドリーヌが国王となったら、イーサンはサンドリーヌの王配となるとエレノアは解釈していたのだ。
そこに違和感を持ったことはなく、小説を書いた本人である友人に話を聞いたりもしなかった。
「イーサン様とサンドリーヌ様は婚約していなかったのですか?」
「いいや、今までもこれからもすることはないよ。婚約の話が出たこともない。ただ姉君がイーサンのことを好きなだけ」
それは絶対にないという言い振りだった。
「二人が婚約するということにはならないんですか?」
そう質問したエレノアに愚問だと返すようにジルベールが首を横に振った。
「姉君には相応な婚約者候補がいるけど、姉君がイーサンのことを好いていて父君も無理に婚約を進めたがらない。面倒なことだよ。国のために尽くす王族が自らの恋路のために婚約者を断るなんて愚問だ。ただ、彼女が優秀なあまり、ついていく臣下も少なからずいる。僕にとってそれが面倒だよ。僕は、姉君はあれでも優秀で君主になっても申し分ないと思うよ。姉君が国王になれば国は傾くことはないだろうけど、それを僕が許すはずがない。王位は譲れない。僕は王位のためならなんだってやれる。殺しも厭わない。だけどね、イーサンとの仲を取り持つという話、実は結構楽しみにしているんだ。姉君は怒るだろうけど、僕はそんな姿を見たくてね」
嬉しそうに笑うジルベールはどこか遠くを見ているような気がした。




