7話 魔法実技
騎士学部特待生クラスの中で魔法理論と魔法実技を専攻しているのはエレノア、イーサン、ジルベールのみだった。
もともと騎士学部には、身体強化魔法のみを集中とした講義が組み込まれているが、魔法に適正のあるものは魔法学部に混ざって魔法理論と魔法実技の専攻が許可される。
そんな3人が共に行動して次の授業である魔法理論の教室へと向かうはずもなく、エレノアは一人で魔法理論の教室へと向かっていた時のことだった。
「こんにちは、エレノア嬢。ご機嫌はいかがかな」
ぬるっと背後から姿を現したジルベールに、エレノアは笑みを浮かべた。
柔和な笑みは崩れることがなく、ジルベールはエレノアの隣をいつの間にか歩いている。
「こんにちは、ジルベール殿下」
挨拶を交わしたエレノアに対し、ジルベールがにこやかな笑みを浮かべたままエレノアに質問をした。
「イーサンに近づく理由はなにか理由があるのかい?」
柔和な笑みが張り付いた顔から読み取れるものは何もない。
エレノアは下手な営業スマイルを浮かべてジルベールの問いに返答した。
「クラスの仲間と仲良くなるのは自然なことだと思いますが」
「そうだね。自然なこと、だよね」
あからさまにその返答が嘘だと見抜いているとでも言いたげに、ジルベールは目を細めた。
そして、何事もなかったかのようにそのまま会話を続けた。
「魔法理論の教室まで一緒に行ってもいいかい?」
「ええ」
もう一緒に歩いている気もするがと思うエレノアだったが、ジルベール相手にそんな反論を言えるはずもない。
了承をして、そのまま魔法理論の教室まで共に行くことになった。
騎士学部と魔法学部、教養学部では、それぞれの学部で制服が違う。
特待生ともあれば、胸元にバッジがついているため、一般生徒との違いは生徒から見ても明らかだ。
学部の違う生徒たちの交流は薄く、魔法学部の生徒がほとんどの魔法理論では騎士学部の特待生であるエレノアとジルベールがその中に入っていくような雰囲気ではなかった。
皆、仲間とつるみ、授業の始まりを待っている。
真ん中の空いている席へと腰掛けたエレノアの隣をある女性が座った。可愛らしい雰囲気の紫色のロングの髪がひらりと目の前に現れた。
「隣、いいですか?」
「ええ」
そして、その女性の隣をジルベールが座った。
その女性とジルベールは仲よさげに挨拶を交わしている。
エレノアが二人を見ているとジルベールがこちらを見て「ああ」と声を零した。
「シルヴィ。こちらはエレノア・グルーシス伯爵令嬢。特待生クラスの仲間だ」
「よろしくお願いします。エレノア嬢」
「エレノア。こちらは僕の婚約者のシルヴィ・ルコント侯爵令嬢だ」
「よろしくお願いします。シルヴィ様」
シルヴィの制服は魔法学部の生徒のものだ。
胸元にバッジはなく、一般生徒なのが見て取れた。
一般生徒も特待生も共に受けるこの授業は普通の教室の倍以上の大きさだ。
その教室も段々と埋まっていく。
そんな中、婚約者同士の二人は静かに授業が始まるのを待っている。
仲がいいようで、たまに二人で会話をしていた。
魔法理論の授業は難なく終わり、エレノアが一人で教室を出ていこうとしていた。
「一緒に魔法実技の訓練場まで行きませんか?」
シルヴィが聞いた。
「もちろんです」
断れるはずもなく、エレノアはジルベールとシルヴィに混ざって、着替えをしてそのまま訓練場まで向かった。
訓練場まで来たところで、やっと同じ授業を受けていたイーサンの姿を拝見することができた。
「まず、皆さんには自分が一番得意な魔法を見せてもらいます。的へと向かって魔法を撃ってください」
先生の声で皆、各々的の目の前へと立って魔法を行使する。
先生の合図で次の生徒が魔法を撃つ。
そうして、エレノアの番がやってきた。
エレノアは杖を銃の形へと変え、圧縮された火の魔法を銃の先端へと出現させた。
そして、引き金を引くと共に、火の魔法を飛ばす。
的の真ん中へと穴が空き、その周りが少し焼け焦げている。
だが、修復機能があるのか、その的は元通りに修復された。
「珍しい形の杖ね。普通の杖で魔法を行使することはできる?」
エレノアはその提案に返事ができずにいた。
エレノアの魔力は強大で、その魔力を扱うための調整方法が銃の形だったのだ。
しばらく、杖で魔法を行使したことはなく、どれほどの調整ができるかもわからずにいた。
すると、そんなエレノアを落ち着かせるようにエレノアの隣にイーサンがやってきた。
「大丈夫だ」
その一言でエレノアは意を決し、銃の形だった杖を普通の杖へと変貌させ、火の魔法を行使する。
「ファイアーボール」
ファイアーボールにしては大きな火球にエレノア自身も驚いた。
これで、魔力が枯渇していないのだから、自らの底が分からない自分の魔力が恐ろしくもある。
ファイアーボールは的へと飛んでいき、三本ほどの的を焼け野原にしてしまった。
だが、的は修復し、焼け焦げた草はイーサンが「ウィータ―ボール」と唱えて消化してくれた。
唖然としていた先生もイーサンが火を消化したことによって、我に返ったようで「大丈夫よ」と声をかけてくれた。
エレノアは胸をなでおろした。
「ありがとうございます、イーサン様」
「ああ」
相変わらずの返事に安堵するエレノアは焼け焦げた草を見た後、自らの手を覗いた。
エレノアの両親もここまでの魔力を持っていなかったというのに、遺伝すると言われる魔力がなぜ自分にはここまであるのだろうという疑問を浮かべた。




