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小説の中に転生したので、殺される運命の大公様を救います  作者: 森前りお
第一章

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32話 特待生防衛戦

 エレノアがパトリシア達と談話室で談笑をしていたあの日から、なぜかイーサンから視線を感じるような気がした。

 だが、話しかけてくるわけでもない。

 夏休みのような、あの視線ではなく、なにか言いたそうなそんな感じの視線だ。

 本人が言ってこないのならと、エレノアもイーサンに聞こうとはしなかった。

 

 学院側が、特待生というぬるま湯につかないように、そして、一般生徒側にも機会を与えるためにと用意された、特待生防衛戦。

 特待生防衛戦が行われるまでの間、先生が特待生防衛戦のための授業をつけることはない。

 普段通りの授業をし、特待生側はクラスの仲間同士で放課後に集まり、皆で対策を練りながら指導し合う。

 これが例年通りの特待生のこの時期のあり方である。


 この特待生防衛戦は騎士学部特有のものではない。


 教養学部では試験があり、特待生で最下位の者、最下位から二番目の者。そして、一般生徒の上位二名の点数が比較され、一般生徒の点数の方が高ければ、特待生側が一般生徒落ちして、一般生徒側が特待生となる。

 魔法学部では、魔法での模擬戦と戦闘向きではない魔法の披露の場が用意され、その2つを加味した成績が特待側と一般生徒側で比較される。

 騎士学部では、先生が決めた成績順にトーナメントが組まれ最下位二名が決まる。

 特待生側が防衛者。

 特待生に上がる挑戦権を得た生徒が挑戦者として特待生側へと挑むのだ。


 だからこそ、派閥など気にせず、本来は生徒たちで団結するのがセオリーだ。

 だが、騎士学部特待生クラスでは、その団結を拒否している人々が少なからずいた。

 そのため、放課後にやるはずの訓練がまだ出来ずにいた。


 「ジルベール殿下は、イーサン様と仲良くしてどうするつもりなのですか。保守派と手を組むつもりですか?」


 彼らが団結を拒否した理由は、イーサンにあった。

 ジルベールがイーサンを贔屓しているのに対し、彼らの中でジルベールへの不信感が積もりに積もっていたのだろう。

 そして、特待生クラスの革新派の半分がその意見に賛同した。


 「ジルベール殿下、私――」


 エレノアが謝ろうとした瞬間、ジルベールが口元で人差し指を立てた。

 エレノアは口をつぐむ。


 「大丈夫だ」


 ジルベールのその言葉に、エレノアはこくりと頷いた。

 ジルベールが大丈夫と言うのなら、大丈夫なのだと思えたからだ。

 エレノアがここでしゃしゃり出るより、ジルベールが出た方が事はいい方向に進む気がした。

 ジルベールは一歩前に足を進めた。

 そして、反発した人たちの顔を確認するように見渡した。

 それを見た生徒たちが、ジルベールから顔を逸らした。

 やはり、主君へ反発するのには、後ろめたさがあるのだろう。


 「ここは学校だ。公私混同はするものではない。それは別の派閥であってもだ。だが、実際派閥の違う者への接し方は難しいものだと思う。上に立つ僕が保守派へと鞍替えするのではないかと不信感を募らせている者もいると思う。だが、それは違う。こんな場でしか、派閥など気にせず話すことはできないだろう。政治を持ち込まない学校だからこそできる事だと僕は思っている。僕は国を二分したいわけじゃない。派閥が違えど手を取り合えるのではないかと思っている。ここは戦場でも王位継承争いの渦中でもない。ここは学校で、僕たちは共に切磋琢磨する生徒だ。僕はまだ、卒業した後、彼らと同接していくのか、まだ測りかねている。ただ一つ言えるのは、特待生クラスとして恥じないために、皆で力を合わせる必要があるということだけだ」


 ジルベールの演説によって、反発していた生徒たちが隣にいる生徒と顔を見合わせている。

 ジルベールの言葉を聞いて彼らは迷っているのだ。

 派閥が違えど手が取り合える可能性を探しているジルベールの話を聞いたからこそ、その方が正しいのではないかと。

 学校だからこそ、手を取り合えることができるのではないかと。

 エレノアにとっては、ジルベールはちょっかいを出してきていただけのように見えるが、確かにそういう考えもあるのではないかと思う。

 実際、ジルベールはイーサンに協力関係にならないかという提案もしているぐらいだ。

 

 そして、彼らからジルベールへと拍手が送られた。

 ジルベールの考えは彼らに届いたのだ。


 「俺達が間違っていました」


 「大丈夫だよ」


 あっさりと掌返しをした彼らに、ジルベールは柔和な笑みを絶やさず、彼らを受け入れた。


 「トーナメントと特待生防衛戦のための訓練をしようか」


 イーサンとジルベール主導で始まった訓練は順調に進んでいった。

 二人の指導を直に受けているエレノアはその姿にあまり違和感を覚えなかったが、指導をしてもらったことのない生徒たちは結構驚いていたようだ。

 そして、それがスパルタだということにも。

 訓練を続けているうちに、段々とわだかまりも解けていき、特待生クラスは段々と団結力を増していった。


 そして、トーナメントの日はすぐにやってきた。

 一位は言わずもがなイーサン。

 二位はジルベール。

 三位はリュカが続いた。

 セザールは八位。

 パトリシアは十二位。

 エレノアは十一位の結果となった。


 そして、最下位と最下位から二番目の生徒と一般生徒の一位と二位の模擬戦が始まった。

 イーサンとジルベールの指導の甲斐もあり、特待生は無事に防衛に成功した。

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