30話 剣舞⑦ 本番
オーディションの後、エレノアは三年生の女性陣と共に、ダンスホールで踊る時の剣舞の衣装に袖を通していた。
サイズが合わない物は、学院側がテコ入れをしてくれるようだ。
成長がほとんど止まったエレノアは、三年生との身長差はそこまでなく平均体型なエレノアは、そのテコ入れすら必要がなかった。
逆に胸の大きさは三年生の方がある。
テコ入れするのはほとんどが胸元や腰元だ。
衣装の袖通しが終わった者から、帰って良いとのことで、エレノアは三年生の生徒に挨拶を交わして部屋を出た。
ほとんど話したこともない三年生と会話をするほど、仲良くなったわけでもなかったからだ。
またたく間に二週間が過ぎてしまった。
秋の風がエレノアの肌を撫でる。
「さむっ」
葉っぱはオレンジ色へと模様替えをして、冬の準備をしている。
今日は、ダンスホールで剣舞を舞う日である。
エレノアは更衣室で剣舞の衣装に身を纏うと、舞台袖へと向かった。
特待生だけだというのに、たくさんの人に揉まれて、中心剣舞の集合場所に中々たどり着かない。
どうしようかと途方に暮れていたエレノアは、手首を大きな手に掴まれた。
後ろへと目をやると、そこにはイーサンの姿があった。
「イーサン」
「行くぞ」
こくりとエレノアは頷いた。
イーサンは人をかき分けて、前へとどんどん進んでいく。
イーサンのおかげで開けた通路をエレノアは、イーサンに手首を掴まれたまま進んでいく。
なぜか、どきどきと胸が高まっている。
緊張しているのだろう。
心を落ち着かせるように深呼吸をした。
いつの間にか、掴まれていた手は離れ、中心剣舞の集合場所へと着いた。
「ありがとう。イーサン」
「ああ」
相変わらずの冷たい返事を聞いて、エレノアの緊張もほぐれていく。
「やっと着いた」
群衆に揉まれてたどり着いたジルベールは、エレノアとイーサンの姿を見て、安心したようにほっと胸をなでおろした。
文字通り群衆の真ん中であるここの中心が集合場所のエレノアたち同様に、他の中心で踊る三年生の男女剣舞の人たちも集合に一苦労しているようだ。
先生によって立ち位置の調整が終わり、ダンスホールへの入場が始まった。
ゆっくりと行進をして、エレノアはダンスホールの中心へとたどり着く。
少しの静寂の後、音楽が流れた。
エレノアは剣の柄へと手を伸ばし、剣を鉾からゆっくりと取り出していく。
エレノアが構えた双剣が、イーサンとジルベールが構えた剣に添えられた。
円を描くように剣を構えながら三人は一周する。
三人は後ろを向き、剣をゆっくりと音楽に合わせて振るっていく。
向き合った三人とは相対的に、中央で男女剣舞を踊る人以外の剣舞を踊る特待生が、膝を曲げてその場で低い姿勢のまま動かなくなる。
観客の目が中央へと行く。
エレノアがゆっくりと優雅に舞いながら剣を振るっていく。
その周りをイーサンとジルベールが舞っていく。
エレノアは、イーサンとジルベールの動きに呼応するように、剣が触れない距離を保ちながら、二人の剣の間のを這うように剣を振っていく。
最後の舞が終わると、ゆっくりと中央以外の特待生たちも動き始めた。
最後に三人が剣を交わらせる。
その間に中央以外の特待生たちが少しの間、舞うように剣を振るい、全員が音楽が終わると同時に鉾に剣を収めた。
その瞬間、観客から特待生たちへと拍手喝采が送られた。
エレノアはイーサンとジルベールに笑顔で顔を見合わせた。
イーサンはいつも通り無表情。
ジルベールは少し高揚しているように見えた。
エレノアは舞台袖へと向かうと、イーサンとジルベールに対し、手を広げた。
イーサンとジルベールは何も言わずエレノアとハイタッチを交わした。
エレノアはにこやかに弧を描いた口元がしばらく張り付いたままだった。
特待生クラスの食堂は豪華なパーティ仕様となっていた。
バイキング形式となった料理たちは、美味しそうな匂いを醸し出している。
その匂いで、涎が口内に溢れてきてしまう。
ご飯を取りきって、特待生全員が席に着いたところで、ヴァレリー先生が食堂の中央へと足を動かした。
「皆さん、一ヶ月の剣舞の練習、そして本番。お疲れ様でした。最高の出来で私も嬉しい限りです」
ヴァレリー先生は目に涙を浮かべている。
特待生全員が、ヴァレリー先生と剣舞を担当していた先生へと拍手を送った。
「では、ご飯が冷めないうちに、皆さんたんまりと食べてください」
先生の挨拶が終えると、皆が一斉に食べ始めた。
美味しい料理と達成感に、皆が笑顔を浮かべてご飯を頬張っている。
エレノアもステーキやソーセージを口に頬張った。
好きな食べ物だけを選んで食べられるなんて豪華だ。
特待生たちがどんどん食べると共に、料理人たちはせっせと働いて、料理を追加している。
「エレノア、中央剣舞お疲れ様」
隣にいたパトリシアがエレノアを労った。
「パトリシアこそ、お疲れ様。もうへとへとだよお。いつもの練習よりはましなはずなのに」
「わかる。私もなんだかいつもの練習以上に疲れてる」
「今日はたんまりご飯食べるしかないな」
剣舞から解放されたセザールはたくさんの料理を運んできた。
「セザールは苦戦してましたからね」
リュカはセザールの様子を見て笑った。
「しょうがないだろ。もう何回も指摘されたのがトラウマになりそうだぜ。マリー先生の声が今でも聞こえてくる気がする」
セザールが頭を抱えて言う様子に、三人はつい笑ってしまう。
こほんとエレノアが場を仕切るように咳払いをした。
「取り敢えず、皆お疲れさま」
「お疲れ様」
エレノア、パトリシア、セザール、リュカが、持っていた飲み物のカップをくっつけ乾杯をした。
「イーサンもお疲れ様」
いつも同様、こんな時でも混ざらないイーサンに、エレノアはカップを近づけた。
イーサンは何も言わずに、カップをエレノアへとくっつけた。
エレノアは嬉しそうに笑ってオレンジジュースを一口飲んだ。




