28話 剣舞⑤ 曲通し
第十五ホールまでにたどり着くまでの間、エレノアと同じく剣舞を踊るための授業に向かっている生徒たちとすれ違った。
第十五ホールにたどり着くと、先に来ていたブリジット先生が授業の準備をしていた。
「こんにちは、エレノアさん」
「こんにちは、ブリジット先生」
挨拶を交わし、チャイムが鳴るまでの間、静寂がホールを包んでいた。
時間通りにチャイムが鳴った。
エレノアは両手に剣を持って準備をする。
「今日は、昨日同様に双剣を持って、私の動きを見てもらいながらその動きに合わしてもらうわ。終わる頃には、私の動きを見ながらでも、曲を流しながら、剣舞の動きを踊れるようになることが、今日の目標よ」
ブリジット先生は、エレノアに、にこやかな笑顔を向けた。
「はい」
エレノアの返事を聞くと、ブリジット先生が双剣を持って準備をする。
エレノアは、昨日同様にブリジット先生の動きを真似て、双剣を動かしていく。
段々と回数を重ねていくうちに、ブリジット先生の動きから、体を動かすまでの時間が短縮されていった。
そして、何十回と踊り終わったその時、ブリジット先生がエレノアの方へ体を振り向かせた。
「一度、音楽を流しながら、通しでやってみましょうか」
「はい!」
エレノアはその提案に、気持ちよく返事をした。
その返事に、ブリジット先生は、ふっと笑って蓄音機に手を伸ばした。
曲を流しながらの剣舞の一回目。
簡潔に言うと、ぼろぼろだった。
音楽があるとないとでは、タイミングの取り方がわからなくなって、曲を流す前より指摘が増えた。
だが、それで諦めるエレノアではなかった。
「もう一度、お願いします」
ブリジット先生が、もう一度音楽を流した。
二度目は、一度目よりはましと言える出来栄えだった。
先ほどよりは指摘も少なくなったが、音楽に合わせて緩急をつけ、ゆっくりと踊る。
これが実に難しく感じた。
双剣を持っているため、イーサンとジルベールと合流をして合わせるとなれば、そちらにも気を揉まれることになる。
本当に剣舞を実際にダンスホールで披露するまでに、形になるのだろうかと、エレノアは不安になってきていた。
そんなエレノアの不安を吹き飛ばすように、ブリジット先生がエレノアのことを励ました。
「上手くなっているわ」
「曲を流す前の方が上手かったような気がしますが」
「曲を流して踊るのと、自分のペースで踊っているのは違うもの。それと比べちゃ仕方がないわ」
エレノアはブリジット先生の言葉に納得した。
確かに曲がない時は、自分のペースで踊っていた。
だが、曲があると自分のペースではなく、曲のペースに合わせなくてはいけない。
エレノアが上手いと自分で感じていたのは、自分のペースで踊っていたからだということに気づいた。
前の自分の方が上手かったなどとという悔しさがあったが、それは違うのだとブリジット先生の言葉で理解した。
曲を流して何度も剣舞を舞っていく。
繰り返す度に、緩急を入れる場所や剣を振るタイミングが段々と掴めていくのが手に取るように分かっていく。
段々と上手く踊ることができずにいた悔しさが、踊るのことの楽しさへと変換されていく。
「これが今日最後の曲の通しよ」
「はい!」
エレノアは気合いを入れて、剣を振るっていく。
ブリジット先生とほぼ同じタイミングで剣を振りかざしていく。
「右手もう少し、ゆっくりに」
「はい!」
「左足、もう少し手前に出すように」
「はい!」
最後の曲通しでも、指摘は止まらない。
だが、最初に感じていた悔しさはもうない。
何が何でもやりきってやるという思いがあるだけだ。
最後の音と共に、エレノアは鞘に剣を入れた。
何十回も繰り返せば、腰の左右にある鞘に同じタイミングで剣を鞘にしまうというのも慣れてきた。
最初の方は鞘を見ずに剣を入れるというのだけで、苦労したというのに、剣を鞘に入れる動作だけは完璧と言っても良い。
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
授業が終わったことにより、一気に緊張感がほぐれてしまう。
両腕がぷるぷると震え、悲鳴を上げている。
だが、不思議とそれが気持ちいいと感じた。
だが、どっとくる疲れで、体が思うように動かない。
「ゆっくり休むといいわ。明日もよろしくね」
ブリジット先生は、エレノアと同じく、ずっと踊りっぱなしだったというのに、少しの疲れも見せていなかった。
流石、先生と言うべきだろう。
エレノアは吹き飛ばせない疲れを抱えたまま、食堂へと直行した。




