26話 剣舞③ 初めての剣舞
「三人剣舞は中心で踊った方が映えるのではないですか?」
一人の生徒が、嬉しそうに目を輝かせて、そう先生に提言した。
提言した生徒が言う中心というのは、中心の男女剣舞でもその中心を飾る男女剣舞のことだ。
「全体練習での出来次第からそれも決めます。皆さん、二週間後のオーディションの日に、男女剣舞の出来を見次第、剣舞の中心を飾るペアを決めます。もちろん、一年生である三人も剣舞の中心を飾る可能性はあります。ですが、それは三年生の剣舞より出来がよかったらです」
ヴァレリー先生が言う。
下手な男女剣舞が中心を飾るなど、格好がつかないに決まっている。
そのため、男女剣舞は踊る場所もオーディションで決まる。
それが、二週間後のオーディションの日だ。
「さあ、皆さん。おしゃべりは以上です。早速、練習に入りましょう。女性陣は、私、ヴァレリーが担当します。男性陣の剣舞の担当は、ロニー先生が。ジルベールさんとイーサンさんは、男性陣の担当をしてくださるロニー先生が担当してくださいます。先程、見た通り、三人剣舞でもジルベールさんとイーサンさんの踊りは変わらないです。そして、エレノアさん。エレノアさんの担当はブリジット先生が担当してくれます。皆さん、分かりましたか?」
「はい!」
全員が気持ちの良い返事をする。
「各々、部屋を別れての授業となります。女性陣はこのまま、第一ボールルームに。男性陣はロニー先生と共に、第二ボールルームに。エレノアさんはブリジット先生と共に二階の第十五ホールでの授業となります。皆さん、移動を始めてください」
「男性陣は僕に着いてきてください」
「エレノアさんは、私と一緒に来てね」
「はい」
微笑みを向けるブリジット先生に、エレノアは返事をする。
ボールルームを使えるのは三年の中心で踊る男女剣舞だけだ。
他の騎士学部特待生は適当なホールを使って、男女別に練習をしている。
そのため、一人でホールを貸し切りで使えるという状況は、少し気まずさもある。
第十五ホールにたどり着いた、ブリジット先生とエレノアに、ブリジット先生が双剣を何本か見繕って、エレノアに持たせた。
「双剣を扱うに当たって、まずは剣の重さを決めるわ。両手で剣を持って、適度に動かせるぐらいの」
ブリジット先生が持たせた双剣を、エレノアは少し振り回す。
少し重さがあり、これを持って踊るのは少し困難だと感じる。
「少し重いように感じます」
「そうね。では、もう少し軽いものを」
ブリジット先生は別の剣を見繕って、エレノアに渡した。
ブリジット先生が少し離れたことを確認すると、エレノアは剣を振って動きやすさを確かめた。
いつも振るっている剣よりは大分軽い。
だが、両手で剣を振るのならば、このくらいだと直感で感じる。
「いい感じです」
「そうね。じゃあ、私の動きを真似してみて」
エレノアはブリジット先生の動きに合わせて、双剣を動かしていく。
動きが違うところは指摘され、それを直しながら一曲が終わるまでの剣舞の型を覚えていく。
一曲の剣舞の動きを全部完遂するまでに一時間ほどかかった。
その間、ずっと双剣を持っていたため、ぷるぷると腕が震えているのが自分でも分かる。
「すごい体力ね」
エレノア自身は、体力がないのかと悲観していたのが、そうでもないようだ。
この体力の多さは、魔物討伐演習で鍛えられた賜物と言っていい。
少しの休憩を取った後、また、型を何度も練習していく。
段々と一曲の剣舞の動きをすべて完遂するまでの時間が早まっていくのを感じていく。
腕がもう上がらないとなったところで、ブリジット先生が、時計の進みを確認した。
「今日の授業は終わりよ。これからの剣舞の授業は第十五ホールに集合ね。お疲れ様でした」
「お、お疲れ様でした」
エレノアはぷるぷると全身が悲鳴を上げながら、ブリジット先生に頭を下げた。
そんなエレノアを見て、ブリジット先生が微笑んだ。
「明日も頑張ってね」
「はい」
双剣を持ちながら、エレノアに指導していたのにも関わらず、余裕ありげな表情を浮かべるブリジット先生に、エレノアはそう返事をする。
エレノアは第十五ホールを出ると、そのまま食堂へと直行した。
いつもならば、第二談話室に向かい、パトリシアたちと話をして食堂に行くのだが、今はそんな元気も残っていない。
早く夕食を取って、風呂に入り、寝てしまいたいという欲求の方が勝っていた。
そして、そんな考えは、エレノア同様に剣舞を踊っていた特待生全員がそう思っていたようだ。
食堂にはいつも出来ていない列が出来、料理人はせっせと料理を生徒たちへと配っている。
何も考えることができなくなったエレノアは、料理を受け取り、ぱくりとご飯を食べたところで、ようやく頭が働くようになった。
「疲れた‥‥」
そう零した瞬間、エレノアの目の前に料理のお盆が置かれた。
見上げると、そこには、パトリシア、セザール、リュカがいた。
「お疲れ様です」
そう最初に言ったのは、リュカだった。
にこりと笑っているが、明らかに疲れ切っている顔をしている。
「そっちこそ、お疲れ様だよ」
「剣舞がここまで大変なものだったとは、思いもしなかったわ」
パトリシアがぱくりとご飯を口に頬張るその横で、セザールがぼーっとしている。
そんなセザールを見て、パトリシアがセザールの頬をつねった。
ようやく現実に帰っていたセザールが「すまん」とパトリシアに声をかけた。
パトリシアは、ため息をついて「別に」と返した。
「決められた型を演じるのがこれほどとは思わなかったぜ」
セザールがため息をつく。
「セザールはあまり考えることをしないで、剣を振りますからね」
「セスは、もう少し考えて剣を振った方がいいってことよ」
「面目ない」
セザールが大人しく反省をした。
「それで、エレノアの方はどうだったの?」
「それが――」
エレノアは中心剣舞であったことを三人に説明をした。
「エレノアが双剣!?エレノア一人で、イーサンとジルベール殿下の相手をするってなったら、まあ確かにそうなるのも自然かも」
「ですが、エレノア自身の負担がすごい振り付けですね」
「一人の相手でも大変なのにな。二人同時に相手の動きに合わせるって、そりゃあむずいよな」
三人はエレノアの負担が大きいことに同情した。
そして、全員がぱくりと料理を頬張る。
「これがあと一ヶ月‥‥」
エレノアがそう呟いた。
剣舞の日までは、一日の授業の半分が、剣舞の授業に当てられるのだ。
エレノアの言葉に、三人も深い溜息をついた。
「まあ、やるしかないな」
「ですね」
「ええ」
「そうだね」
四人は顔を見合わせて決意をした。




